Quantcast
Channel: SPICE(スパイス)| エンタメ特化型情報メディア
Viewing all 4631 articles
Browse latest View live

一夜限りの音楽の魔法 Kalafina“Wakana”と龍 真咲 ローマ・イタリア管弦楽団との奇跡の共演レポート

$
0
0

ヴォーカルユニットKalafinaのWakanaと、宝塚歌劇団元月組トップスター龍 真咲が、来日フルオーケストラ演奏により歌う一日限りのスペシャル・コンサート、「Kalafina“Wakana”・龍 真咲シンフォニーコンサート with ローマ・イタリア管弦楽団」が、8月11日夕方、初台の「東京オペラシティ コンサートホール」で開催された。

ローマ・イタリア管弦楽団は、『イル・ポスティーノ』や『ライフ・イズ・ビューティフル』といった数々の名作映画の録音や、オリバー・ストーンをはじめとする多くの巨匠監督たちの作品のサウンドトラックなども手がけているイタリアン・オーケストラ。この夜はピアノやハープも加わっての編成だ。まずはコンサートマスター、アントニオ・ペッレグリーノの弾き振りによる『ニュー・シネマ・パラダイス』が流れる。

次いで、指揮のニコラ・マラスコと、白いドレス姿のWakanaが登場。ドレスのウエスト部分にあしらわれた黒い装飾が印象的だ。髪をアップスタイルにしたWakanaは、「oblivious」「君が光に変えて行く」「傷跡」の三曲をしっとりと歌い上げていく。「君が光に変えて行く」は、ピアノのみの伴奏での歌唱に始まり、オーケストラが徐々に加わり、「傷跡」では雄大な広がりを感じさせる世界が展開される。

今度は、黒いデコラティブなドレスをまとった龍 真咲が登場。映画音楽から、『サウンド・オブ・ミュージック』の「My Favorite Things」、『タイタニック』の「My Heart Will Go On」、『アルマゲドン』の「I Don’t Want To Miss A Thing」をセレクトして披露。「My Heart Will Go On」では英語歌詞に思いをたっぷりと乗せての歌唱。「I Don’t Want To Miss A Thing」でも龍ならではの世界を展開した。続いてミュージカル・ナンバーより、『ライオンキング』の「Shadowland」、『ディア・エヴァン・ハンセン』の「Waving Through a Window」、『ウィキッド』の「自由を求めて」を歌い上げていく。

龍 真咲

龍 真咲

休憩後の第二部では、胸と背中のキラキラとした装飾がまばゆい青いドレスに身を包んだWakanaが、薄いピンクのドレス姿の小川真奈と共に登場。デュエットで「Jupiter」「水の証」の二曲を披露した。1人凜とステージに美しく佇んだWakanaがその後、「灯影」「夏の朝」「明日の景色」「I have a dream」「believe」「光の行方」「夢の大地」「むすんでひらく」を、MCをわずかに交えただけで熱唱していく。澄んだ声、素直でストレートな歌唱と圧倒的な存在感で聞く者をWakanaの音楽の世界へ一気に引き込んでいった。鳴り止まぬ拍手がそれを証明していた。「夏の朝」ではアカペラでのコーラスとの掛け合いに始まり、オーケストラが加わっていくアレンジも印象に残った。

Wakana

Wakana

Wakana

Wakana

アンコールでは、シンプルなピンクのドレスで登場した龍が、「Memory LOVE」を歌う。自身の宝塚退団公演のショー『Forever LOVE!!』のために作られたオリジナル曲だ。退団後は、宝塚時代の曲はあまり歌ってこなかったそうだが、この夜、オーケストラをバックにこの当時のファンや宝塚への感謝の想いの詰まった思い出の曲を披露した。

そして、アンコールに登場したWakanaの口からは、来月より単独ライブツアー『Wakana Live Tour 2018~時を越えて~』が開催されることが発表に。9月24日の東京EXシアター六本木を皮切りに、福岡ももちパレス(9月28日)、名古屋芸術創造センター(10月2日)、大阪IMPホール(10月14日)と四都市をめぐっての開催となる。この夜のシンフォニーコンサートについて、「楽器の音に身を委ねているのが気持ちいい」と思いを語り、初めて自らの想いをつづった作詞にチャレンジ、この夜が初お披露目となる「時を越える夜に」を歌い上げたWakanaに、ファンはスタンディング・オベーションで応え、惜しみない拍手を送っていた。

取材・文=藤本真由(舞台評論家)


【来週の星占い-12星座別おすすめエンタメ情報-】(2018年8月20日~2018年8月26日)

$
0
0

自分の思いをストレートに伝えることで、予想より良いものへ状況が変わりそうな気配。思うところがあっても、あまり言葉にはしてこなかったテーマについて、まわりから何を考えているのかキチンと話してほしいと、求められる場面もありそうです。なにが事実関係で、どれほど盛った話をしているのかは、この際どちらでもいいのかもしれません。

「あなたが私にそう言うならば、私はそれを信じます」そんな感じで、キリっと目が見開かれているような状況がそこにあるとして。もし身を守るために途方もない作り話をしたらどうなるか。これはお互い様かもしれないですね、相手からもどっちつかずの話をされるのかも。自分もすべてを明らかにしたいと思わないのであれば。それはそれでいいじゃないですか。そういう間柄でしかないのだ、と気づけたことが大収穫です。そうやって、関係性を確認するような印象的なやり取りが、しばらくは続くでしょう。

みんなと一緒がいい、自分だけ遅れたくない、目立たないようにしたい、そんな環境にいることが嫌になってくるのかもしれません。無理に合わせようという気持ちは消えていきそう。共感できないことに、わざわざ反応してご機嫌をとらなくてもいいと思います。居心地の悪さや、大切に扱われていないなと思う環境からは、どんどんフェードアウトするしなやかさが求められるのかも。

欲しい欲しい、だけではどうにもならない、と改めなくてはいけないこともあるみたい。燃え上がるようなときめきとか、すべてを投げ出したくなるような発情とか、幻のようなものに追いすがりたくなる人が出てくるかもしれない。でもすぐにその熱も嘘のように冷めていくことが多いでしょう。お互いの考えを認め合うために潔く離れる、という選択肢もでてきそうです。

【12星座別 今週のラッキーワード】
◆おひつじ座(3月21日~4月19日 生まれ)
抵抗、意思を貫く
◆おうし座(4月20日~5月20日 生まれ)
交渉、計算
◆ふたご座(5月21日~6月20日 生まれ)
新進気鋭、先行投資
◆かに座(6月21日~7月22日 生まれ)
開放的な、異種混合
◆しし座(7月23日~8月22日 生まれ)
高らかに、誤魔化しのない
◆おとめ座(8月23日~9月22日 生まれ)
あたためる、スロー
◆てんびん座(9月23日~10月22日 生まれ)
くされ縁の、惰性の心地よさ
◆さそり座(10月23日~11月21日 生まれ)
伏線の回収、真のテーマ
◆いて座(11月22日~12月21日 生まれ)
前提を疑う、エゴの解放
◆やぎ座(12月22日~1月19日 生まれ)
再始動、新感覚
◆みずがめ座(1月20日~2月18日 生まれ)
マニアック、選択と集中
◆うお座(2月19日~3月20日 生まれ)
攻めの姿勢、振り切る

>>気になるエンタメ・チケットはe+でチェック!  

【動画あり】新倉瞳(チェロ)「いいアイデアが閃きそうでワクワクしています」~『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018』<What’s “スタクラフェス”?>

$
0
0


<What's “スタクラ フェス”?> Artist Close-Up 新倉瞳


来たる2018年9月23日(日・祝)秋分の日、『イープラス Presents STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018』(略称 “スタクラフェス” )が、横浜赤レンガ倉庫の特設会場にて開催される。会場には3つの野外ステージ「HARBOR STAGE」「GRASS STAGE」「Sunday Brunch Classic Stage(無料観覧ステージ)」が設けられ、午前10:30~午後8:30まで10時間にわたり、気鋭の演奏家たちにより、クラシックのよく知られた名曲からオペラ、ミュージカルの名曲、さらにはスタジオジブリの音楽まで、多種多様なプログラムが繰り広げられる。クラシックのコンサートといっても決して堅苦しいものではなく、屋外で潮風を感じながら、食べたり飲んだり、時には寝そべりながら、多様な音楽を気軽に楽しめるのが、このフェスの特徴だ。

このフェスのSunday Brunch Classic Stage(無料観覧ステージ)にチェリストの新倉瞳が出演する。普段はスイスに住んでいる新倉だが、日本に帰国した際に彼女から、スタクラフェス出演への意気込み等を聞くことができた。

――新倉さんがスタクラフェスに参加することになった経緯をおしえてください。

渋谷 LIVING ROOM CAFE & DINING​の「Sunday Brunch Classic」というコンサートに何度か出演させていただいていたのですが、それが出演のきっかけです。 

スイスに渡ってからクレズマーバンドでも演奏するようになりました。クレズマー音楽というのは、東欧系ユダヤ民族の民謡がルーツの音楽で、これは一見クラシックとは全然違うようでいて、実は深いところでクラシック音楽と通じています。その活動を、日本でもクラシックと並行して行っていました。

何度か「Sunday Brunch Classic」に出演させていただいたのですが、そのご縁でクレズマーバンドの来日時にLIVING ROOM CAFE & DINING​の雰囲気がとても合うと思い、演奏させていただきました。その時に、スタクラフェスの関係者の方が私の音楽に興味をもってくださり、「出演しませんか?」というお話しをいただきました。スタクラフェスは野外ステージですが、私もスイスの野外フェスで、立ってチェロを弾いたり、ボーカルも担当しておりますし、そういうワイワイした雰囲気が好きなので、すごく楽しそう!と思い、「是非!」と即答したのです

――新倉さんはボーカルもなさるのですね。知りませんでした。

そうなんです! スイスのクレズマーバンドで、イディッシュ語で歌っています。「スタクラフェスはオープン・ステージだから、合うんじゃないの?」と色々な方に言っていただきましたので、そちらも披露出来たらと思っております。

――スタクラフェスのような、飲食OKのクラッシックのフェスってあまりないですよね。

飲食をしながらクラシック音楽を聴くということに抵抗のある人は、やはりいらっしゃると思います。演奏中にカチャカチャすると集中できないとか、バリバリ食べる音が気になるとか。ただ、私もLIVING ROOM CAFE & DINING​で演奏させていただいて感じたのですが、一つのステージの中にも起承転結や波があって、演奏者も「ここは聴いて欲しい!」という雰囲気を醸し出せば、お客様も集中して聴いてくださるんです。演奏者自身、自分たちが大事にしている音楽的な部分は譲らないというところをちゃんと持っていれば、しっかり聴いていただけますし、一方で、お客様が飲んだり食べたりしながらリラックスして聴けるところもある、そういうクラシックの演奏会があってもいいのではないかなというのが、私のスタンスなんです。

――スタクラフェスでの演奏はどのような感じになりそうですか。

スタクラフェスには色々なステージがありますね。私はオーケストラと共演するのも、もちろん好きなのですが、今回は「Sunday Brunch Classic」とのつながりで出演させていただくので、LIVING ROOM CAFE & DININGで演奏させて頂いたことのある両ジャンル、クラッシック×クレズマーを掛け合わせた内容でお届けすることにしました。

共演は、クレズマー音楽を通して知り合ったアコーディオン奏者の佐藤芳明さん。ジャズ、クラシック、タンゴ、ブルガリア音楽……どんなジャンルでも弾きこなしてしまうかたで、日本を代表するアコーディオン奏者さんです。ジブリ映画の『ハウルの動く城』のテーマ曲を演奏されていますし、他にもテレビ画面から流れてくるCMのアコーディオンの音色は実は佐藤さんであることが本当に多いです。国内外の様々な環境で演奏されていますし、小編成であればあるほど佐藤さんの凄さが聞こえてくるので、今回チェロとアコーディオンのDuoですがとても心強く、いいアイディアが閃きそうでとてもワクワクしています。

佐藤芳明

佐藤芳明

――スタクラフェスに参加するにあたり、演奏者/オーディエンスの立場を超えて、楽しんでみたいことは何かありますか?

他の人の演奏を聴きたいですね。出演しているアーティストたちの中には友達も多いんです。クラシックの世界って意外と狭いんですよ。だいたいみんな知っていたりするので、そこで友達の演奏を聴けるのが楽しみです。

――では、ご自身が弾いたり、お友達のを聴いたりと、大忙しになりそうですね。

そうなんです。三つのステージ全て聴きに行きたいと思っています。ステージによって響きも全然違いそうですよね。そういう意味でも演奏者たちにとって、初めてのことが多いのではないでしょうか。それぞれの演奏がどういう風になるか予想できないからこそ、どの演奏も楽しみになってきますね。

――会場の赤レンガ倉庫や横浜界隈で、ご自身が行ってみたいスポットやお店などはありますか? または思い出の場所などはありますか?

今は海外に住んでいますが、日本にいた時は横浜に住んでいたんです。あの辺は家族とも良く行った場所なので色々知っているんですけれど、みなとみらいにコスモワールドという遊園地があって、そこの観覧車が好きなので久しぶりに乗りたいと思います。思い出と言えば、たぶん期間限定だったように思うのですが、昔、その遊園地でクリオネを見たことがあるんです。それが凄く記憶に残っています。

――お客様にオススメするスポットやお店などはありますか?

音楽の余韻を楽しめるところがあるといいですよね。もしかしたら、先ほどお話しした観覧車に乗れば、スタクラフェスの会場も見えるのでは?と思うんですが……。フェスで聴いた演奏をそこで回想していただけるといいかもしれません。日中にスタクラフェスで演奏を聴いてもらって、夜の雰囲気のいい時間に観覧車に乗るというプランも素敵なのではないかと思います。

それから、演奏の合間に中華街でランチとかも最高ですね! 一方、フェスのもう一つの醍醐味として、そのフェスの会場の中の出店で色々買って食べるのも楽しいですよね、そういうの私、すごく好きなんです。だから、会場を出なくても充分に食を楽しめるのではないかとも思います。

――まわりに楽しそうな施設も沢山あって、想像力が拡がりますね。

ほんとうに! 演奏以外にも楽しい計画が色々立てられそうです。

野外フェスの楽しみ方を良くご存じの様子で、当日、自身の演奏以外にも色々楽しみたいという気持ちがとても伝わってくるインタビューだった。横浜が彼女にとって思い出の場所ということもあり、数多くの周辺情報を聞くこともできた。ひょっとすると、当日、チェロを抱えながら会場で演奏を聴いて楽しんでいる彼女に偶然会えるかもしれない。

【動画】新倉瞳さんよりメッセージ


取材・文=清川永里子  撮影=岩間辰徳(※except for 佐藤芳明’Picture)

【動画あり】三浦一馬(バンドネオン)「ピアソラは一生の目標」~『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018』<What’s “スタクラフェス”?>

$
0
0


<What's “スタクラ フェス”?> Artist Close-Up 三浦一馬


2018年9月23日(日・祝)秋分の日、『イープラス Presents STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018』(略称 “スタクラフェス” )が、横浜赤レンガ倉庫の特設会場にて開催される。会場には3つの野外ステージ「HARBOR STAGE」「GRASS STAGE」「Sunday Brunch Classic Stage(無料鑑賞ステージ)」が設けられ、気鋭の演奏家たちにより、クラシックのよく知られた名曲からオペラ、ミュージカルの名曲、さらにはアニメの音楽まで、多種多様なプログラムが朝から晩まで繰り広げられる。クラシックといっても決して堅苦しいものにはせず、屋外で潮風を感じながら、食べたり飲んだり、時には寝そべりながら、多様な音楽を気軽に楽しめる趣向という。また児童の入場もOKだ。

この新しいタイプの野外クラシック音楽フェスの中で「Passion Classic 三浦一馬 with フレンズ」(GRASS stage 15:20-15:50)に出演する若手実力派バンドネオン奏者の三浦一馬(みうらかずま)に、このほど話を聞くことができた。

10歳の時からバンドネオンを始めた三浦は、2006年に別府アルゲリッチ音楽祭でバンドネオン界の最高峰ネストル・マルコーニに出会い、現在に至るまで師事。2008年、国際ピアソラ・コンクールで日本人初、史上最年少で準優勝し、その後、マルタ・アルゲリッチやユーリー・バシュメットらと共演するなど華麗な活躍を続けている。「Passion Classic 三浦一馬 with フレンズ」では、上野耕平(サックス)、伊藤悠貴(チェロ)、金子三勇士(ピアノ)、岩城直也(ピアノ・編曲)、STAND UP! ORCHESTRAら、今回のために特別に集まったアーティストたちと共に、タンゴ発祥の国アルゼンチンに生まれた作曲家アストル・ピアソラの名曲を演奏する(※追記:このステージにDEPAPEPEの三浦拓也の共演も決定)。

──最初にスタクラフェスの話を聞いた時、どんなイメージを抱きましたか?

「これは面白いことになるだろう!」と、まず素直に感じました。こういう野外フェスティバルはクラシック以外のジャンル、特に「ロック・フェス」などではよく用いられてきた形式ですが、クラシックだってこういう形のものがあってもいいんじゃないか、と僕はずっと思っていました。

ヨーロッパなどでは各地で午前中から夜中まで開催するクラシック野外音楽イベントがたくさんあります。有料エリアが設置されている場合もありますが、野外だと遠くまで音楽が届きますから、もう境はあってないようなもので、誰もが一流の演奏を聴けてしまうんです。僕もそういうフェスティバルで幾度となく色々な素晴らしい音楽を聴いてきました。だから、この話を聞いた時、ヨーロッパの石畳の広場で特設ステージが出来ている光景が真っ先に脳内リンクできて、ワクワクしたものです。

──三浦さんご自身は、屋外での演奏経験はおありなのですか?

それほど多くはないですが、5回以上は経験しています。札幌のよさこい祭りに出演した時には、ステージの両端に高さ10メートル以上の櫓(やぐら)が建てられ、その上で弾いたこともあります。

──10メートル! それは怖いですね!

下を見ないように、落ちることを考えないように、と必死でした(笑)。でも今回はそれほど高いところで弾くことはなさそうですから大丈夫かなと(笑)。

──演奏の感覚は屋内と野外では、やはり異なるものですか?

いつもの楽器でいつものレパートリーを弾いているはずなのに、受ける感覚は全然違いますね。ホールでの演奏は内に秘めた情熱を持って突き進む感じですが、野外での演奏は細かいことを気にするよりも「とにかくこの場を楽しもう」という気持ちになれます。音の返りがありませんから、多少慣れの必要な部分もありますが、それよりも、開放的な気分にさせられることが心地いいです。

──「Passion Classic」では、「リベルタンゴ」「ブエノスアイレスの冬」等々、アストル・ピアソラの名曲を演奏されると伺っています。三浦さんにとってピアソラとはどのような存在ですか?

あまりに大きすぎる存在で、正直、ひと言でお話するのは難しいです。僕がバンドネオンという楽器に興味を持ち、この世界に足を踏み入れるようになったきっかけは、まさに大巨匠ピアソラの音楽と出会ったことによってもたらされました。そして、今までの演奏活動で最も多く弾いてきたのもピアソラでした。僕はピアソラと共にバンドネオン人生を歩み始め、そして現在も一緒に歩き続け、さらに今後、一生懸けて目指していきたい目標がピアソラという存在なのです。

──今回「with フレンズ」として共演する顔ぶれが豪華です。サックスの上野耕平さん、チェロの伊藤悠貴さん、ピアノの金子三勇士さん、ピアノ・編曲の岩城直也さん……。彼らの印象をお聞かせください。

このフェスティバルに限らず普段の公演からそうなのですが、初めての方とご一緒する時って、まずワクワクするんです。もちろん気心が知れていて互いに尊敬しあえる関係性にも素晴らしいものがありますが、初めてお目にかかって「はじめまして」の自己紹介を音楽を通じて行う瞬間って、とても新鮮です。今回、チェロの伊藤さん、ピアノ・編曲の岩城さんとは初めてご一緒させていただきますので楽しみです。このスタクラフェスをきっかけに、今後もまたご一緒していただけたらいいなと思っています。

一方、サックスの上野さんは去年の秋、僕のコンサートにゲストとしてお招きし、数曲演奏していただきました。金子さんとは先日初めてデュオコンサートをさせていただきました。そんな音楽の仲間たちとあまり時間をおかずに再会できて演奏できるということも、これほど楽しいことはないですね。

元々僕は、小学校の頃からイベントが大好きで、自分で言うのもなんですが、何かの催しがあると率先して中心的存在になっちゃうタイプなんです。とにかく盛り上げたくなって。大人になった今でも、こういうフェスティバルがあると、イベント好き魂が疼きますね(笑)。だから、このスタクラフェスも大いに盛り上げていきますよ!

──ご自身が出演される枠以外で、気になるプログラムはありますか?

真っ先に気になったのは、「Classic Revolution!新進気鋭の若手アーティストとオーケストラの饗宴」でした。これは是非聴きたいと思います。これだけのスーパースターが集まってどんなステージになるのかな?と。スタクラフェス全体のクライマックスでもありますからね。

──ときに、会場となる赤レンガ倉庫や横浜界隈でおススメのスポットはありますか?

この辺りには思い出があるんです。というのも、僕がお客様の前で演奏した最初のステージが、実は赤レンガ倉庫だったからです。

2022年にアコーディオンが生誕200周年を迎えるのですが、そのカウントダウンライブとして、「Bellows Lovers Night」という蛇腹楽器のための祭典を毎年、アコーディオ二ストのcobaさんが開催しているんです。僕が14歳か15歳の頃、そこに呼んでいただきました。それが赤レンガ倉庫ホールでした。「バンドネオンにこんな若手がいます!」と紹介してくださって。僕は10歳からバンドネオンをやっていましたが、大勢のお客さんの前で演奏したのは、その時がほぼ初めてでした。そんなこともあって、赤レンガ倉庫への思い入れは個人的に非常に強いんです。

横浜界隈でのおススメは、横浜港大さん橋から出ている水上バスでのミニクルーズです。僕もドライブで横浜に行った時に時間があれば、ふらっと乗ることがあります。

タンゴやピアソラの音楽は、アルゼンチンのブエノスアイレスで生まれ花開いていった音楽ですが、バンドネオンという楽器は、元々ドイツで発明された楽器で、それが移民と共に新天地アルゼンチンに渡ったんです。つまり、移民たちがアルゼンチンの港に船で着いた後に、その辺りの酒場などから広がっていった訳です。横浜港のミニクルーズには、そのこととどこかでオーバーラップする感覚があって、初めての土地に降り立つ移民の気持ちが想像できるんです。まぁ、「そんな、大袈裟な」と思われるかもしれませんが(笑)。

──では、最後にお誘いのメッセージをお願いします。

これだけヴァラエティに富んだプログラムを、素敵な場所で食べたり飲んだりしながら聴ける、これはまさに至れり尽くせりのフェスティバルだと思います。仮に僕が出演者として呼ばれていなかったとしても、きっと遊びに行くと思います。

今までクラシック音楽に興味はあったけれどもコンサートホールにはなかなか足が向かなかった方ですとか、祝日で予定もないしちょっと横浜にでも遊びにいってみようかという方にも強くお勧めしたいイベントです。僕のステージだけでなく、全体を通して素晴らしいプログラムが目白押しですので、是非、肩ひじ張らずに気楽に聴きにいらしてください。お待ちしています!

【動画】三浦一馬さんよりメッセージ


取材・文=橘凉香  撮影=鈴木久美子

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18『白鳥の湖』、カンパニーの総力結集の新制作

$
0
0


英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18のラストを飾るのは、古典バレエの王道中の王道、『白鳥の湖』だ。

今作は英国ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)が31年振りに取り組んだ新制作版で、追加振り付け・演出はリアム・スカーレット、美術・衣装制作にはスカーレットと長くコンビを組んできたジョン・マクファーレンを迎えている。

オデット/オディールはマリアネラ・ヌニェス、ジークフリード王子はワディム・ムンタギロフ。さらにベンノ役にはアレクサンダー・キャンベル、王子の2人の妹に高田茜とフランチェスカ・ヘイワードなど、プリンシパルダンサーも多数出演。前作のアンソニー・ダウエル版、そしてこの名作を生み出したプティパやイワノフ、チャイコフスキーらに敬意を表しながら新たに創り上げられた『白鳥の湖』はストーリーも一新され、とくにクライマックスの4幕はドラマティック。ROHが誇るダンサー達が濃厚な演技力で観る者を引き付ける。


 

■白鳥はチュチュが復活。豪華なセットと衣装を大スクリーンで

古典バレエの名作『白鳥の湖』はバレエの代名詞ともいえる作品で、バレエ団にとっても非常に重要な位置付けとなるものだ。ROHでは1934年からレパートリーに加えられ、1987年からダウエル版が上演されている。今回の改定はこれに継ぐもので、3年をかけて制作された。

ダウエル版の伝統の踏襲か、幕が開き登場する男性の衣装は19世紀から20世紀初頭の大英帝国時代を思わせる軍服。女王(エリザベス・マクゴリアン)の黒いドレスはヴィクトリア女王を彷彿とさせ、英国の香りが立ち込める。ロットバルトは女王の側近として登場。道化のポジションに王子の友人ベンノが配され、王子の2人の妹とパ・ド・トロワを踊るなど、30年慣れ親しんだ版を引き継ぎながらもストーリーや登場人物に新たな解釈が加えられている。

ⒸROH, 2018. Photogrpahed by Bill Cooper

ⒸROH, 2018. Photogrpahed by Bill Cooper

2幕と4幕に登場する白鳥の衣装は白いチュチュに。これは幕間のインタビューで登場したオヘア芸術監督が「最もこだわった点」と語ったところ。白鳥の衣装はこれまでの膝丈のものも味わいがあり、ROHらしさを醸していたが、チュチュ姿の白鳥のコールドバレエはやはり古典の伝統が感じられ、幻想的で美しい。

3幕はとにかく華麗で豪華。まさに王子の花嫁選びの晴れの舞台といった雰囲気。きらびやかさとともに、どっしりと重たい時の厚みを感じさせるのがこれまた英国らしい。次々と登場するスペイン、ハンガリー、イタリア、ポーランドの姫君とダンサー達の衣装も必見だ。クラシックなスタイルのなかにも現代的なテイストを盛り込んだデザインは、その匙加減が絶妙。衣装は370着を制作したというが、どれも細やかで品があり、目を奪われる。大スクリーンならではだ。

ⒸROH, 2018. Photogrpahed by Bill Cooper

ⒸROH, 2018. Photogrpahed by Bill Cooper

■個性豊かなROHスターダンサー達にも注目

ダンサー達にももちろん注目したい。ジークフリート王子を踊るムンタギロフは出てきた瞬間から王子のオーラともども目を奪われ、動きも優雅。さすが世界屈指のダンスールノーブルだと、しみじみため息が出る。友人ベンノのキャンベルは1幕、3幕と、所狭しと弾けるように踊り、王子と対をなす存在感を示す。
ヌニェスのたおやかで可憐なオデットと、妖艶かつどこか抗い切れない愛嬌すら滲むオディールも見応え満点だ。

ⒸROH, 2018. Photogrpahed by Bill Cooper

ⒸROH, 2018. Photogrpahed by Bill Cooper

そしてロットバルトを演じるガートサイドの不気味な存在感が終始舞台に漂う。女王の側近としては威圧的かつ不遜な態度で場を仕切り、ロットバルトとしては絶対的な力を持つ悪魔として君臨する様が見事。ロットバルトのその特殊メイクにも注目してほしい。

ROHの誇りをかけた総力結集の話題の新作。その誇り溢れる舞台をぜひ、この機会に目にしていただきたい。

ⒸROH, 2018. Photogrpahed by Bill Cooper

ⒸROH, 2018. Photogrpahed by Bill Cooper

文=西原朋未

遅すぎる指揮者デビュー! 元大阪フィルのコンサートマスター梅沢和人に聞く

$
0
0


今年は指揮者 朝比奈隆(1908年〜2001年)の生誕110年目に当たる記念の年。彼が亡くなってからも早いもので17年近くが経過。今も思い出すのは、オーケストラが去った後も鳴り止むことのない拍手に応え、何度もステージに呼び戻されるマエストロの姿だ。朝比奈隆と大阪フィルハーモニー交響楽団の最後の10年は、ファンにとっても当人たちにとっても、特別なものだった。

今年、生誕110周年を迎える大阪フィルの創立名誉指揮者 朝比奈隆 (C)飯島隆

今年、生誕110周年を迎える大阪フィルの創立名誉指揮者 朝比奈隆 (C)飯島隆

そんな10年をコンサートマスターとして音楽面で支え、ブルックナーやベートーヴェンの名演の数々を産み出すことに尽力したのが梅沢和人だった。

桐朋学園からイェール大学へ渡り、テネシー州ナッシュビル交響楽団のコンサートマスターを務めていた梅沢は、指揮者・秋山和慶のすすめで1989年に大阪フィルのコンサートマスターとして入団。朝比奈と運命的な出会いを果たす。朝比奈が亡くなり(2001年)、大植英次の監督就任(2003年)を経て、2010年に左腕の故障(医師からは復活は困難と宣告される!)により退団するまで、コンサートマスターとして数多くの演奏会に出演。また大阪フィル以外にも、東京交響楽団、札幌交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団などでも客演コンサートマスターを務め、その数は4000回を超える!

オーケストラの事を知り尽くしているそんな梅沢和人が、9月に指揮者としてデビューを果たすこととなった!

何故、61歳の今になって指揮者を目論むのか。本人に聞いてみた。

言葉を選びながら、丁寧に受け答えをする梅沢和人。

言葉を選びながら、丁寧に受け答えをする梅沢和人。

ーー左腕の具合はいかがですか?

おかげさまで、もうすっかり。医者には奇跡だと言われています(笑)。

ーーここ最近では、音楽監督をされている奈良県立ジュニアオーケストラの評判が頗る良いようですね。コンクール受賞者を次々に輩出されているとか。

ありがとうございます。実は、奈良県立ジュニアオーケストラを聴かれた関係者の方が、「梅沢にプロのオーケストラを指揮させたら凄いことになるのでは!」と、お膳立て頂いたことが、今回の指揮者デビューへと繋がりました。

ーーなるほど、そうだったのですね。梅沢さんと云うと、やはりクラシックファンの間では、大阪フィルのコンサートマスターのイメージが強いと思うのですが、指揮者としてオーケストラを指揮したいという思いは以前からお有りだったのでしょうか。

作品と対峙した時、自分の思い描く音楽をオーケストラを使ってカタチにしたいという思いは昔からから有りました。ただ学生時代は、ヴァイオリンとは別に、作曲の勉強もしていましたので、物理的にそういった機会はありませんでした。留学してからですね、本格的に指揮の勉強を始めたのは。

2011年に奈良県のジュニアオーケストラを指揮するようになってからどんどん指揮に対する興味が湧いてきました。

梅沢がプロのオーケストラを指揮するとどうなるのだろうと、興味を持っていただいたのは、まさに私自身が考えていた事でもあり、本当に光栄な話です。

ーー朝比奈隆の指揮は、晩年ますます判りにくくなって行ったように思います。あの指揮でオーケストラを揃えるのは並大抵の苦労ではなかったのでは?

先生、実はキチンと指揮出来るのに、あえて判りにくく振って、ここ一番でオーケストラメンバーの集中力を高めたのではないかという説があります(笑)。理論や技術があっても、先生のような大きな音楽は作れないのでしょう。やはりスケールの大きな先生の人間力が、音楽に現れるのでしょうね。それと、楽員の凄まじいまでの集中力が合わさって、重厚で迫力のある“大フィルサウンド”を作り上げたのかもしれません。私はコンマスとして、先生の考える音楽を創り上げるために努力して来ました。

ーーコンマス経験の長い梅沢さんなら、今回のようなケースで指揮者を迎えるオーケストラの気持ちも良く分かっておられると思うのですが。

オーケストラのメンバーは最初の8小節ほどで、その指揮者がどういう勉強をしてきて、どんな才能が有るのか見抜いてしまいます。なので、あまり構え過ぎずに、自然体で臨もうと思っています。ただ、指揮者も演奏者も共にベートーヴェンやブラームスといった作曲家の事をリスペクトしていて、彼らに喜んでもらえるような最高の演奏をしたいと願っているはずです。そんな気持ちを大切に、一緒に音楽を作って行ければいいのですが。

指揮者デビューを果たすオーケストラは、現在とても勢いのある大阪交響楽団! (C)飯島隆

指揮者デビューを果たすオーケストラは、現在とても勢いのある大阪交響楽団! (C)飯島隆

ーー記念すべきデビューコンサートで取り上げられるプログラムは、とてもバラエティに富んでいます。

はい、そうですね。オープニングからJ.シュトラウス2世の「トリッチ・トラッチ・ポルカ」、「雷鳴と電光」と「美しく青きドナウ」をヴァイオリンの弾き振りでお届け致します。そしてこのスタイルで、ブラームスのハンガリー舞曲の第1番と第5番も演奏します。

ーーヴィリー・ボスコフスキーのような感じですか。デビューコンサートから他の指揮者との差別化と言いますか、得意のヴァイオリンを生かす演出ですね。

デビューコンサートではヴァイオリンの弾き振りも披露する。

デビューコンサートではヴァイオリンの弾き振りも披露する。

実はこれ、主催者である民音さんからのリクエストなのです。お客さまに珍しいヴァイオリンの弾き振りをお見せしたいと云う事と、併せて指揮のスタイルの変遷のようなものを紹介出来ればと云う事のようです。

ーーなるほど。前半最後のベートーヴェン「エグモント」序曲からは、ヴァイオリンを指揮棒に持ち替えて、オーソドックスなスタイルでメインのベートーヴェン交響曲第7番を指揮する訳ですね。メインプログラムにベートーヴェンの7番を選ばれたのはどうしてですか?

「のだめカンタービレ」のテーマ曲として皆さまよくご存じの曲ですが、ベートーヴェン自身も自分の作品の中でも特に気に入っていた曲です。これなら、「今日、のだめの曲を聴いて来たで!」と人にも報告出来ると思いまして(笑)。

たいへんスケールの大きな曲ですが、第4楽章ではとんでもないことが起こっている。曲全体が勝利の喜びで盛り上がっていく中、ヴィオラから下の楽器は解決しない持続音を地鳴りのように繰り返していきます。喜びと苦悩が同時に現れて狂喜乱舞する様は、もう笑うしかない。大変衝撃的な音楽です。

前半最後の「エグモント」序曲から交響曲第7番は、弾き振りの雰囲気とガラッと変わって、指揮者としての勝負曲。これまでに色々な指揮者で数えられないほどオーケストラも演奏しているはずですので、どんな演奏になるのか私も楽しみです。

ーーそれは楽しみですね。最後に読者の皆さまにメッセージをお願いします。

バラエティに富んだプログラムも魅力的だと思いますし、指揮者の役割やスタイルの変遷がわかるという意味でも、興味を持って頂けるのではないでしょうか。平日の昼間という事で、会社勤めの皆さまには足を運び難い時間帯かもしれませんが、現在最も勢いのあるオーケストラの一つ、大阪交響楽団さんと一緒に素晴らしい演奏をお届け致しますので、ぜひお越しください。

ザ・シンフォニーホールでお待ち致しております。

皆さまのお越しをお待ちしております!

皆さまのお越しをお待ちしております!

取材・文=磯島浩彰

Kalafina“Wakana”と龍 真咲、浅利陽介など【8/17(金)〜20(月)のオススメ舞台・クラシック記事】

$
0
0

SPICE・8/17(金)〜20(月)オススメの舞台・クラシック記事


 

↓記事はこちらをチェック↓
▼一夜限りの音楽の魔法 Kalafina“Wakana”と龍 真咲 ローマ・イタリア管弦楽団との奇跡の共演
https://spice.eplus.jp/articles/203431

▼浅利陽介「俳優人生・第2ステージの幕開けになるかも!」新感線☆RS『メタルマクベス』disc2
https://spice.eplus.jp/articles/200583

▼新倉瞳「いいアイデアが閃きそうでワクワクしています」<What’s “スタクラフェス”?>
https://spice.eplus.jp/articles/194972

▼新国立劇場バレエの超話題作『不思議の国のアリス』~必読!ダンスみどころガイド by 高橋森彦
https://spice.eplus.jp/articles/198602

▼劇団四季『キャッツ』が首都圏に帰還、 ”3つの演出変更点”をレポート!
https://spice.eplus.jp/articles/203125

▼安倍康律『ダンナー・ジェンダップ』再演と『井上芳雄 by MYSELF』スペシャルライブについて語る
https://spice.eplus.jp/articles/203826

 


▽そのほかの記事はこちらから▽
舞台:https://spice.eplus.jp/articles/play
クラシック:https://spice.eplus.jp/articles/classic

【動画あり】麻衣(ヴォーカル)「日本の音楽を世界に届けたい」~『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018』<What’s “スタクラフェス”?>

$
0
0


<What's “スタクラ フェス”?> Artist Close-Up 麻衣

来たる2018年9月23日(日・祝)秋分の日、『イープラス Presents STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018』(略称 “スタクラフェス” )が、横浜赤レンガ倉庫の特設会場にて開催される。会場には3つの野外ステージ(HARBOR STAGE/GRASS STAGE/Sunday Brunch Classic Stage)が設けられ、午前10:30~午後8:30まで10時間にわたり、気鋭の演奏家たちにより、クラシックのよく知られた名曲からオペラ、ミュージカルの名曲、さらにはスタジオジブリの音楽まで、多種多様なプログラムが繰り広げられる。クラシックのコンサートといっても決して堅苦しいものではなく、屋外で潮風を感じながら、食べたり飲んだり、時には寝そべりながら、多様な音楽を気軽に楽しめるのが、このフェスの特徴だ。もちろんここでは児童の入場も可だ。

この新しいタイプの野外クラシック音楽フェスの「It's 吹奏楽!~ブラスで聴くスタジオジブリの音楽~」(HARBOR stage 10:30-11:20 (50min))に、ヴォーカリストの麻衣(まい)が出演する。作曲家 久石譲を父に持つ彼女は、4歳の時に映画『風の谷のナウシカ』幼少時回想シーンで流れる「ナウシカ・レクイエム」(ラン ラン ララ~)を歌い、大きな印象を残した。2005年韓国映画『トンマッコルへようこそ』テーマ曲によりソロ活動を本格化、数多くの映画・テレビ・CMでその歌声を聴かせている。2014年6月には、久石譲の出身地で、唱歌『故郷』のふるさとでもある長野県中野市の音楽親善アンバサダーに就任、「音楽のある豊かな心」の普及を目指し、日々歌い続けている。そんな彼女から、スタクラフェス出演について話を聞いた。

──スタクラフェスの話を最初に聞いた時、どんなことを思いましたか?

横浜って、日本の中でも一風変わった港町でもあり、とてもいい雰囲気の街ですから、その赤レンガ倉庫で野外のクラシックのフェスティバルが行われるということで、ワクワクした気持ちになりました。

──今回麻衣さんは、スタクラフェスの幕開けを飾る「It's 吹奏楽!~ブラスで聴くスタジオジブリの音楽~」に出演されますが、屋外で歌った経験は?

野外で歌うことはよくあります。私がやっている合唱団「リトルキャロル」のクリスマスコンサートが毎年、けやき坂にある六本木ヒルズアリーナで行われています。去年もジャズっぽい編成で、ジャズと現代音楽とクリスマスソングの3本立てコンサートを行いました。ですから野外コンサートはかなり経験していて、とても好きですね。というのも、野外ならではの良さがあるんですよね。歌う側は畏まりませんし、お客様もフランクに楽しんでいて、いい具合の相互性があるのが素敵だなと思います。

──「It's 吹奏楽!」では麻衣さんと非常に縁の深いスタジオジブリ映画の名曲ばかりが演奏されますね。麻衣さんが何を歌うのかが気になります。

私は今、父の久石譲と一緒に世界ツアーをしています。去年パリから始まりまして、今年は4月にメルボルン、5月はカリフォルニア、9月がロサンゼルス。その9月がこのスタクラフェスとちょうど同じ日程だったので、私はもちろんスタクラフェスのほうを取ったんですけど……。

──え? 本当に?

当然ですよ! もう一も二もなく、スタクラフェスに出ようと!

──ありがとうございます! なんだか申し訳ないようです。

9月のロサンゼルスがマイクロソフトシアター、11月にニューヨークのカーネギーホール、というツアーなんですが、私はその中で『千と千尋の神隠し』を担当していて、「あの夏へ」という曲が、歌になると「いのちの名前」というタイトルに変わるのですが、それを父のピアノと私の歌だけでやっているんですね。そのあとに「ふたたび」という、ハクと千尋の主人公2人が「昔から知ってたんだよね」「初恋の相手だったよね」と語る名シーンのところでかかる曲も私が歌っています。だからその2曲はスタクラフェスでも歌いたいなと思っています。

他には、『となりのトトロ』の「さんぽ」を私がソプラノ歌手とデュエットしていて、私がメロディーをとってソプラノ歌手が歌い上げるというのが、やってみたら結構素敵なんですよ。その後、あまり歌うことがなかった「さんぽ」ですが、最近になって新たな気持ちで取り組めるような気がしているので、できたらいいなと思っています。まあ、スタクラフェスでデュエットはできませんが。

あと、『風の谷のナウシカ』の「ナウシカ・レクイエム」は私が4歳の時に歌ったものですが、父との世界ツアーでは「ナウシカ・コーナー」がコンサートの冒頭に来ていることもあって「一番最初からソリストはいらない」と、私はリストラされてしまいました(爆笑)。だから、スタクラフェスでは是非歌わせていただこうと思っています。

──それは嬉しいです! 本当に様々な曲を聴かせていただけるのですね!

自衛隊さんの吹奏楽と共演したことはあるのですが、その時は私のオリジナル曲を披露したので、吹奏楽とジブリを歌うのは初めてです。だから、とても楽しみにしています。

──麻衣さんにとって、いま改めて、ジブリの音楽とはどのような存在ですか?

「生活」ですかね。まあ、生活の一部のようなものというか……。今の世界ツアーの話も、宮崎駿監督が引退されるというお話を伺って、もう新しい作品はないのかもしれないと思っていた頃に、では父の音楽もこれからどういう風に展開していくのだろうかって考えたことがきっかけでした。

その過程で私の留学時代からの交友関係を辿って、たまたま知り合ったのがコロンビア・アーティスト・マネージメント(Columbia Artists Management Inc. )、通称「CAMI」と言われている、ニューヨークにベースのあるクラシック専門のプロモーターだったんです。私が映画音楽作曲家ダニー・エルフマンのコンサートを聴きにいった折に、楽屋に遊びに行ったら「CAMI」の社長が来ていました。ちょうど私が父のコンサートのDVDを持っていたので、それを彼に差し上げたら、3ヶ月後くらいに「DVDを観た、是非コンサートツアーをやりたい」と言ってきてくれて。しかも彼はジブリ映画を知らなかったんです。映画を知らない人が曲だけを聴いて「ツアーをやりたい」と言ってくれたということで、もしかしたらこれは世界中で父の音楽のツアーができるんじゃないか?と思ったんです。今のところ父は元気ですし、まだしばらくは元気に生きると思うので(笑)、これを先駆けにして世界中にジブリの音楽を届けていけるのではないかなと思っているんです。だから、私にとってジブリの音楽は「世界に届けたい」という存在ですね。

──映画を離れて、音楽としての魅力が改めて認められたということですね。

それはやはり嬉しかったですね。

──ジブリの音楽はピアノ学習者のお子さんたちにも絶大な人気があって、発表会で弾きたがる子がたくさんいます。

あ、でもジブリを発表会で弾くとなるとポップスチックになっちゃうけど(笑)、それはいいんですか?

──簡単にアレンジされた楽譜ももちろんありますが、原曲の雰囲気をきちんと出して弾きたいとなると結構難易度が高いので、「君をのせて」をちゃんと弾きたいんだったら「エチュード」もしっかり弾こうね!という、飴と鞭というか(笑)、励みになるんです。

なるほど、意外と難しいんだ。 パパっと弾けそうだけど、実は練習を要する曲。歌うのも同じなんですよ。すぐに歌えそうだけど、実はかなり歌い込まないといけなくて。

──ですから、「It's 吹奏楽!」を楽しみにしているお子さんはたくさんいらっしゃると思います。普段コンサートホールに入れない未就学児童の方も、スタクラフェスは入場可なので、お子さんの聴衆もきっと多いと思います。

それはいいことですよね。本当に楽しみです。

──ご自身が出演されるステージ以外で、気になるプログラムはありますか?

まず、GRASS STAGEの反田恭平スペシャルステージですね。うちの母がピアノ好きで、反田君のコンサートはデビュー・リサイタルから聴きに行っているんです。当時彼はロシアに留学していたと思うんですが、まさにロシアの風が感じられました。土地って音楽に反映されるんだなって、すごく感じました。しかも彼は弱冠20歳くらいなのに既に成熟していて。ずっと一人でやってきたんだなということが一目でわかるというか。よくよく聞いてみたら、反田君って、中学生ぐらいでピアニストを志したけれども、親御さんが音楽に造詣の深い方ではなかったことから「まぁやりたいならやったら」という程度で、所謂親子で演奏家になるべくして突き進んだという形とは全く違う、自分の意志でこの道に入ってきた人なんですよね。その自立した感じと音楽がロシア風だというのが、すごく印象に残っているんです。今、反田君はポーランドに住んでいるんですよね。だから、音楽がポーランド風になっているのかどうかはわからないけど(笑)、現在の彼の演奏にはとても興味があります。

──反田さんはやはりロシアに行かないとチャイコフスキーは弾けないと思ってロシアに留学したそうですので、それは麻衣さんがまさに感じられた通りだと思います。その勉強過程でロシアの音楽はある程度つかめたので、今度はショパンを生んだポーランドにいらしたと。

あぁ、やっぱりね。反田君ってクラシックのど真ん中にいながら、演奏スタイルが現代ですよね。私も子供の頃は母の勧めでピアノの学生コンクールなどにも出ていたので、ピアノのことはわかるんです。そんなこともあって、彼の演奏はすごく気になるので是非聴きにいきたいと思います。

それから同じGRASS STAGEの「ブランチ on クラシック」のDEPAPEPEさんは父の曲を弾いてくれたことがあるんです。『トンマッコルにようこそ』っていう韓国映画なんですが、その時からすごくセンスの良いギターだったので、懐かしいです。あとはやっぱりHARBOR STAGEの「世界まるごとクラシック~みんなおいでよ、赤レンガ~」ですかね。青島広志さんは本当に面白いですし、クラシックを親しみ易くするという活動を息長く続けていらっしゃって。個人的にも青島さんの「11ぴきのネコ」という合唱組曲をNHKの合唱団で歌ったことがあるので、そのステージは楽しみです。で……、えっ? HARBOR STAGEの「クラシックinアニメ」では反田君が指揮棒を振るの!?

──そうなんです!

ピアニストっていいよね~。これは父が言っていたことですが、ヴァイオリンやオーボエのような単色の楽器よりも、ピアノって指揮に向いているの。基本的にピアノの人ってヘ音記号が普通に読めるでしょう? これね、物理的な問題として結構大きいと思う。ベートーヴェンの「交響曲7番」を振っちゃうのね!

──ベートーヴェンの「交響曲7番」は「譜面がすべて頭に入っているので、いつでも振れる曲だ」と反田さんがおっしゃっていました。

そういうポップなところがまた、いいですね! このスタクラフェスって、やり方が素敵だと思う。

──ありがとうございます。最初に横浜の魅力も語ってくださいましたが、会場となる赤レンガ倉庫や横浜界隈で行ってみたい、またはお客様におススメしたいスポットやお店などはありますか?

私、横浜でバイトしていたことがあって、所縁のある土地なんですが、今は神奈川県が運営している公共劇場、KAAT神奈川芸術劇場が凄いプログラムを企画しているので、よく観に行っています。バレエや演劇はどうしても東京一極集中になっているけれども、KAATの活動は芸術文化が地域に根付く最高のモデルだと思うし、それができる街=横浜だと思っているのでおススメですね。演劇もKAATに行かないと上演していない、素晴らしい公演がたくさんありますから。

──KAAT製作のオリジナル・ミュージカル『HEADS UP!/ヘッズ・アップ!」は、東京以外の地域発信の傑作として高い評価を得ましたし、芸術監督の白井晃さんが先鋭的な芸術を常に支持して、様々な面白い試みに挑んでいますね。

それはやっぱり横浜だからこそ可能になっている、というのはすごくあると思う。だからKAATには是非行ってみて欲しいです。

──最後にスタクラフェスへのお誘いのメッセージをお願いします。

スタクラフェスに出演します。スタジオジブリの曲を吹奏楽と一緒に歌いますので、是非たくさんの方に聴きにきていただきたいと思います。よろしくお願いします!

【動画】麻衣さんよりメッセージ


取材・文=橘凉香  撮影=鈴木久美子


熱狂の歓呼に満ちたピアニスト金子三勇士の卓越した名曲の花束

$
0
0

「サンデー・ブランチ・クラシック」2018.6.10ライブレポート

クラシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう! 小さい子供も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK! そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のランチタイムコンサート「サンデー・ブランチ・クラシック」。6月10日に登場したのは、日本と海外で精力的な活動を続け、熱い喝采を集めているピアニストの金子三勇士だ。

6歳で母方の故郷ハンガリーに単身で渡りピアノの英才教育を受けた金子三勇士は、様々なコンクールで優秀な成績を納め、11歳で飛び級によりハンガリー国立リスト音楽院大学特別才能育成コースで学んだのち、06年全課程習得と共に日本に帰国。東京音楽大学付属高等学校に編入学して更なる研鑽を積み、10年デビューアルバム「プレイズ・リスト」をリリース。レコード芸術誌の特選盤に選ばれた。11年第12回ホテルオークラ音楽賞、12年第22回出光音楽賞、同年第4回C.I.V.C.ジョワドヴィーヴル賞、13年、平成24年度上毛賞「第10回上毛芸術文化賞 音楽部門」等、数々の受賞歴と読売日本交響楽団、ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団、東京交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団等々をはじめとした数多のオーケストラとの共演や、ハンガリー、アメリカ、フランス、ドイツ、オーストリー他世界各地での演奏活動を積極的に展開。東京音楽大学ピアノ演奏家コースを首席で卒業し、同大学大学院器楽専攻鍵盤楽器研究領域修了。 16年日本デビュー5周年には新譜CD「ラ・カンパネラ~革命のピアニズム」をリリース、各コンクールで審査員を務める他、18年4月からは、NHKFM「リサイタル・ノヴァ」の支配人として番組を担当するなど、幅広い活躍を続けている。

そんな大人気ピアニストの金子三勇士がサンデー・ブランチ・クラシックに登場するとあって、リビングルームカフェは満員の大盛況。今か今かと登場を待つ熱気が頂点に達する中に金子が登場。万来の拍手に迎えられての演奏がはじまった。

金子三勇士

金子三勇士

広く知られた名曲に吹き込まれる新鮮な息吹

冒頭に披露されたのはショパン12の練習曲作品10第5番「黒鍵」。練習曲=エチュードと名付けられたピアノ曲の中で、最も有名なものが「ショパンエチュード」と言われる作品群で、練習曲という位置づけながら音楽的にも非常に完成度が高く、更に難易度も高い楽曲の宝庫だ。「黒鍵」と称されるこの曲も演奏会などでも頻繁に取り上げられる超有名曲で、変ト長調で作曲され右手による主旋律がほぼすべて黒鍵で演奏されることから、この通称が広く知られている。金子の演奏は華やかでダイナミックでありつつ、音色が実に軽やかで、黒鍵だけで演奏されるスリリングさを超越した明るさにあふれるオープニングとなった。

金子三勇士

金子三勇士

ここで自己紹介をした金子は、コンサートホールとは違うカフェならではの演奏を楽しみにしていましたと語り、当初ベートーヴェンの『エリーゼのために』ではじめようと思っていたのだが、明るい「黒鍵」を選びましたと話したあと「この中でピアノを習ったことがある方はどのくらいいらっしゃいますか?」とリビングルームカフェを見回して質問。大半の手が挙がり、ピアノを嗜むことが如何に広く浸透しているかを感じさせる。「では3年習った方は?」でもほとんど人数は減らなかったが、「10年習った方は?」で挙手は5分の1ほどに。「では20年習った方は?」というところで残ったのは3名ほど。思わずその方々にも会場から拍手が贈られる。その中で「今日はピアノを習っていた方達が発表会で弾いたことのある曲、習ったことのない方も聞いたことがある、知っている曲を演奏します」と選曲の趣旨が語られ、続いたのはベートーヴェンの『エリーゼのために』。知らぬ人とてない、というそれこそピアノ発表会で出ないことのない大定番曲だが、金子の『エリーゼのために』は、良く知られているメロディーだけに、音色の美しさと繊細さが際立つ。部分部分でややスタッカート的な軽やかな表現があるのも新鮮で、後半のダイナミズムにも適度な抑制があり、メロディーが秘めやかに終わる格段に精緻な演奏だった。

金子三勇士

金子三勇士

金子三勇士

金子三勇士

続いたのはラフマニノフの前奏曲ト短調作品23-5。「ロシアの民族的な土の匂いのする華やかな曲だけれど、内面はロマンチックです」という金子の説明通り、非常にダイナミックで雄大でテクニックが輝く中に、コケティッシュな香りもあり、中間部では一転して切ないメロディーの美しさが染み渡る。そこからどこか遊び心を感じさせるユニークな音色の部分を経て、クライマックスに向かって切なさとダイナミズムが融合。最後は軽やかなピアニッシモで締めくくった。

軽やかなスタッカートが生み出す独特の味わい

そこから演奏は再びショパンになり、練習曲作品10第3番「別れの曲」。「39歳で世を去ったショパンの人生の中で、肺結核を患った後期の作品にはロマンと共に夢が絶たれる切なさがあります」と語った金子は、美しいメロディー悲しみを秘めて、静かに切々と訴えるような演奏を披露。カフェ全体の空気も張り詰めて聴衆がその音色に集中していることが伝わる。重音の跳躍が続く難易度の高い中間部の激しさにも慟哭と葛藤が感じられ、主旋律に戻ってくるラストはまるで鎮魂の歌のように響いた。

金子三勇士

金子三勇士

金子三勇士

金子三勇士

静謐な演奏に聴き入ったあとは、金子から自分は父親が日本人、母親がハンガリー人で、半分ハンガリーの血が入っているので、ハンガリー出身のリストの曲を演奏することをとても大切にしています。という話しがあり「この曲は超絶技巧で、鍵盤の上でフィギュアスケートの4回転半ジャンプを続けている感じですから、見える人は是非手を見て、ピアノの中の動きも見てください。見えないお席の方は顔を見て!」という和やかな笑いを誘う解説のあと、演奏されたのはリストのハンガリー狂詩曲第2番。19曲あるハンガリー狂詩曲の中で最も有名な曲だが、金子のピアノにはスタッカートで作る音楽の間に独特の味わいがあり、ハンガリーの土の香りと共に生き生きとした躍動感を与えている。まさに超絶技巧としか言いようのない後半にもその雰囲気が失われないので、どこかでは手拍子をしたくなる雰囲気も。「難しそう、大変そう!」だけでは終わらない楽しさがあり、指の動きも実に軽やか。最後の休符にもその雰囲気が存分に生きて「くるぞ!」という期待でカフェの空気が一体になり、鮮やかなフィニッシュに「ブラボー!「ブラボー!」の大歓声と大きな拍手が湧き起こった。

金子三勇士

金子三勇士

そのアンコールに応えて再びステージに帰ってきた金子は同じリストの「ラ・カンパネラ」を。イタリア語で「鐘」を意味する「ラ・カンパネラ」はリストの数あるピアノ曲の中でも最も有名なもののひとつ。金子の魅力的で生き生きとしたスタッカートがここでも最大限に活かされ、全体に明るさと軽やかな美しさが満ちてくる。その美しい鐘の音とダイナミズムに盛り上がるパッセージとがより効果的な対比を生み、見事なフィニッシュへ。「ブラボー!」の声と共に、リビングルームカフェでは珍しい観客のスタンディングもあり、ピアニスト金子三勇士の世界に染まった熱狂の時間が過ぎていった。あまりにも贅沢な40分間だった。

金子三勇士

金子三勇士

音楽で人と人とをつなぐ演奏家でありたい

演奏を終えた金子にお話しを伺った。

ーー2回目のご出演とのことで、改めてこちらのカフェの雰囲気などはいかがでしたか?

日頃のコンサートとは全く違う、良い意味でリラックスできる空間で、本当に身近にお客様がいらして。小さなお子様連れの、おそらく普段なかなかコンサートにはいらっしゃれない方々を含めた皆様に、クラシックの世界ではあまりない空間で馴染み深いであろう良い音楽をお届けできて良かったなと思います。元はと言えば18世紀、19世紀にクラシックを演奏する場というのは、こういう規模のサロンでした。クラシック音楽はそこから生まれて発信されている分野ですので、そういう意味では原点に戻るというような気持ちもあるので、僕もいつも楽しみに伺わせて頂いています。

ーー未就学児童の方たちはまだコンサートホールには入れないので、今日が初めてクラシックを聞いた、ファーストコンタクトだったお子さんもいらっしゃると思います。

まさに今日、6ヶ月くらいの女の子とお父様がいらしていて、初のコンサートだとおっしゃってくださって。本当に光栄だなと思いました。

金子三勇士

金子三勇士

ーーそれは素敵ですね! きっと感性の中に音楽が残っていくと思います。そんなサンデー・ブランチ・クラシックの為に、ピアノ曲の中でも特に著名な楽曲が揃ったプログラムになっていたかと思いますが、選曲にあたってはどのようなお気持ちが?

基本的に曲目を決める時には、全体の流れを大事にしたいといつも思っています。それぞれの曲の調性のバランスでしたり、激しい曲があったら、気持ちが落ち着くような曲を、というようなメリハリを考えつつ、皆様がこの季節にどんな曲を聞きたいのだろうか? ですとか、日曜日ですのでホリデー気分はもちろんですが、1週間のお疲れもあるでしょうからちょっと安らげるような瞬間、また元気になるような瞬間があるように。自分が観客だとしたらどんな曲が聞きたいかな?をなるべく考えるようにしています。

ーー金子さんの演奏は特にスタッカートが快く弾んで、おっしゃる通りに楽しい気持ちや、元気をいただけたと感じましたが、金子さんご自身演奏活動と共に、今お仕事の幅を様々に広げられていますが、そこから受ける刺激も多いのでは?

毎日刺激が欲しい性格なんですね。演奏活動をさせていただくというのは自ずと旅が続くことになりますから、新しい場所、新しい人達に出会い、触れることでも十分刺激になるのですが、今の時代は色々なものが成長して発展している。それはどこの国にもある流れですが、音楽の中でも私が担当しているクラシックの世界は、人類の歴史上何百年も存在しています。それだけの時間を経てもずっと消え去らずに残り続けているということは、やはり人にとって必要な何かを持っているのだと信じているんです。それを今の時代の人々に、どうお届けしたらその魅力や喜びを感じて頂けるのかな?を考えた時に、自分自身が大切にしているコンセプトとして演奏そのものはいじらないというものがあります。過去にいた偉大な作曲家が懸命に書いた作品なので、そこに大きなアレンジを加えるというのは、ちょっと違うかなと思っていて。でもアプローチの仕方、現代に生きる皆様にクラシック音楽の素晴らしさをお伝えする為の工夫はどんどんしていきたい。特に自分と同世代の人達にとってクラシックの世界というのは、ちょっと抵抗のあるものだったりもするので、まずは年に1回でも「クラシックコンサートに行ってみても良いかな?」と思っていただけたら嬉しいなと、その為の色々な活動をしていこうと思っています。どこでそのはじめのご縁、きっかけがあるかはわからないので、意外なところからはじまる可能性もあると思うので。

ーークラシックの世界はどうしても、知識がないと難しいのでは? というような、ちょっと敷居が高いと感じる部分がありますよね。

そう思わせてしまう今までのアプローチがあった、ということは否定できないんですが、先ほども申しましたように、元々はもっと身近な場所で生まれたものなので、その原点に戻れたら良いなと思います。何の下調べもせず、準備をしなくても楽しめるものなんですよ、とお伝えしたいです。

金子三勇士

金子三勇士

ーーその中で、将来に向かって、更にこういう活動をしていきたいという夢などは?

わたしは半分ハンガリー人で、ずっとハンガリーで音楽を勉強してきて、ハンガリーの偉大な作曲家リストが立ち上げた学校で学ばせてもいただいたという背景があるので、どうしてもハンガリーの作曲家、中でもリストを心から尊敬しています。ですから彼の音楽をもっともっと世界中に広めたいという気持ちはもちろん、彼の生き方、人生にも魅力的な部分があって。彼は19世紀当時に、本当にグローバルに常に動き回って、色々な方たちに音楽を届ける、ある意味で音楽家の外交官のような人生を送っていて。その21世紀版と言えるような活動をしていきたいです。今の時代は、ここでは戦争があり、あそこでは災害がありという、決して平和とは言えないですが、そんな中だからこそ音楽というもので、人々の心に何かを届ける、伝える、或いは音楽で人と人とをつなぐ。必要とされる時に必要な場所に飛んでいけるピアニストであり、それ以前に社会人でありたいと思っています。常に動き回って、常に何かを発信し続けていきたいと思っています。

ーー素晴らしい活動が広がるのを楽しみにしていますし、是非またサンデー・ブランチ・クラシックにもいらしてください!

ありがとうございます! こちらこそ忘れないでいただけたら、是非また演奏したいと思っています!

金子三勇士

金子三勇士

取材・文=橘涼香 撮影=山本 れお

パク・ヒョナ(チェロ)&岡田奏(ピアノ)が誘う「音楽お国巡り」の多彩さ

$
0
0

「サンデー・ブランチ・クラシック」2018.7.1ライブレポート

クラシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう! 小さい子供も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK! そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のランチタイムコンサート「サンデー・ブランチ・クラシック」。7月1日に登場したのは、国内外でソリストとして活躍するチェリストのパク・ヒョナとピアニストの岡田奏だ。

韓国の淑明(スクミョン)女子音楽大学、桐朋学園大学院、ウィーン国立音楽大学、東京音楽大学大学院博士後期課程で博士号習得、および優秀賞を受賞するなどで研鑽を積み、2013年からソリストとして活動しているパク・ヒョナは、ヨーロッパ各地でのオーケストラとの共演、イタリアでのリサイタルツアー、ニューヨークのカーネギーホールリサイタル、ベルリン交響楽団との共演等で好評を博し、現在、東京音楽大学付属高校と東京音楽大学にて後進の指導と活発な演奏活動をしている実力派チェリスト。
一方、15歳で渡仏し、パリ国立高等音楽院を最優秀で卒業、修士課程を最優秀で修了し、第3課程アーティスト・ディプロマ科を経て、ヨーロッパと日本を拠点に活動しているピアニストの岡田奏も、国内外のオーケストラとの共演をはじめ、各地の音楽祭への出演の他に、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」および「きらクラ!」など、メディアへの出演を精力的に展開している。

パク・ヒョナ(チェロ)、岡田奏(ピアノ)

パク・ヒョナ(チェロ)、岡田奏(ピアノ)

人の声に近いチェロの音色が奏でるドイツの歌と、ピアノによるフランスの調べ

そんな二人が登場したサンデー・ブランチ・クラシックは、まずシューマンの「献呈」からスタート。シューマンが最愛の妻クララに贈った連作歌曲集『ミルテの花』の第1曲に位置するこの曲は、シューマンが結婚式前夜にクララに捧げた曲として知られている美しい愛の歌だ。人の声の響きに最も近いと言われるチェロの音色が、この歌曲にベストマッチ。パクのチェロの歌心と、岡田のピアノの繊細さが一瞬にしてリビングルームカフェ&ダイニングを、豊かな音楽世界に包んでくれる。

パク・ヒョナ(チェロ)、岡田奏(ピアノ)

パク・ヒョナ(チェロ)、岡田奏(ピアノ)

二人から「暑い中私たちのサロンにようこそ。素敵な時間を過ごしてください」と、演奏家が自宅にお客様を招いてのサロンを想定しているサンデー・ブランチ・クラシックの趣旨に沿った挨拶があり、ドイツロマン派を代表する作曲家シューマンの曲からはじまった演奏にちなんでパクが、この時開催中だったサッカーワールドカップで「母国がドイツに勝ちました!」と喜びを語ると、微笑ましい拍手がわきおこる。

「今日はなるべく違う国の曲を選びました」という解説のあと、岡田のピアノソロのコーナーとなり、まずドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」。ドビュッシーの前奏曲集第1巻の第8曲に位置するピアノ曲だが、曲集から離れてドビュッシーの楽曲の中でも特に知られている有名曲。岡田の演奏にはフランス音楽に対する深い造詣に裏打ちされた、静寂の中に染みわたる幻想性があり、ポピュラーに知られたメロディーだからこそ、近現代の作曲家であるドビュッシーの音楽が持つ音色の複雑さが際立った。

岡田奏

岡田奏

続いて同じドビュッシーの「喜びの島」。ロココ時代のフランスの画家ジャン・アントワーヌ・ヴァトーの作品「シテール島への巡礼」に影響を受けて書かれたピアノ独奏曲。シテール島は神話の世界では愛の女神ヴィーナスの島とされているが、楽曲が単純な明るい「喜び」を連想させるものではないところが近現代音楽の面白さ。和声の響き、装飾音やリズムの変化に富む速いパッセージの軽やかな演奏が、岡田のテクニックの確かさを感じさせる。終盤の盛り上がりは圧巻で、大きな拍手が贈られた。

ウィーン、スペイン、ロシア、それぞれの音楽に流れる個性を際立たせて

パク・ヒョナが舞台に戻り、オーストリア出身のヴァイオリニストであり作曲家クライスラーの「愛の悲しみ」。「愛の喜び」「美しきロスマリン」との3曲が「ウィーン古典舞曲」の3部作の位置付けで作られていて、特に「愛の喜び」とセットで演奏されることが多い楽曲だが、チェロの深い音色で「愛の悲しみ」が単独で奏でられることによって、独特の味わいを生んだのが新鮮。愛することは、その愛が深いほどに必ず悲しみを伴うことが心に刺さる演奏となった。

パク・ヒョナ(チェロ)、岡田奏(ピアノ)

パク・ヒョナ(チェロ)、岡田奏(ピアノ)

ここで岡田が一端退場し、スペインのチェリストであり作曲家カサドの『無伴奏チェロ組曲から』「インテルメッツォ・エ・ダンツァ・フィナーレ」。晩年日本人ピアニスト原智恵子と結婚し、日本にも所縁の深い20世紀スペインを代表するチェリストの1人であるカサドの、スペイン情緒にあふれた情熱的な楽曲で、無伴奏であるからこそチェロという楽器が持つ様々な可能性が感じられる。パクの演奏は実に自在で、静かに歌うメロディー、躍動するリズムが次第に互いが互いを引き立て合うように盛り上がり、フィニッシュへと駆け抜けて尚、しばしの静寂があったほど集中していたリビングルームカフェ&ダイニングの空気が喝采に包まれた。

パク・ヒョナ

パク・ヒョナ

ここで再び岡田がステージに戻り「30分はあっという間ですね!」と語り、「日本人と変わらない日本語を話すばかりか、漢字も大丈夫なんですよ」とパクの語学力にも太鼓判を押して、音楽の旅の最後はロシアへ。チャイコフスキーのヴァイオリンとピアノの為の小品集『懐かしき土地の思い出』から「メロディー」が演奏される。タイトルの通りに豊かなメロディーを、チェロは歌いピアノは奏で双方の掛け合いも見事。チェロの温かい低音、ピアノの輝く高音が響き合い、その美しさは格別。ラストは共に高音を美しく響かせて消え入るように演奏が終わると大きな拍手が贈られた。

パク・ヒョナ(チェロ)、岡田奏(ピアノ)

パク・ヒョナ(チェロ)、岡田奏(ピアノ)

パク・ヒョナ(チェロ)、岡田奏(ピアノ)

パク・ヒョナ(チェロ)、岡田奏(ピアノ)

その拍手に応えた二人がアンコールに選んだのはモンティのチャルダッシュ。ヴァイオリンの華やかな技巧による演奏がサンデー・ブランチ・クラシックでもお馴染みだが、チェロの音色に漂う哀感が独特の香りを醸し出す。重音にも迫力があり後半の超絶技巧は圧巻。チェロが奏でる高音だからこその緊張感が独特で、その重厚さにピアノのグリッサンドが華やかさを加えた素晴らしい演奏に惜しみない喝采が贈られた。チェロという楽器の深み、演奏者のコンビネーションの良さを感じさせる40分間だった。

固い信頼とセンシティブな魅力で結ばれた二人の演奏

演奏を終えたお二人にお話しを伺った。

ーー素晴らしい演奏をありがとうございました。リビングルームカフェ&ダイニングでの演奏で感じた雰囲気や手応えから教えてください。

パク:あんまりこういう雰囲気の中で弾いたことがないな、というのを演奏してから気づきました(笑)。お食事もしながらクラシック音楽を楽しめる空間というのはなかなかないのでとても貴重だと思いますし、お客様の雰囲気もとても良かったです。

岡田:日本でこういうサロンで演奏することは、場所自体が少ないこともあってほとんどなかったので、本当に良かったなと。お客様との距離が近いので普通のコンサートホールで演奏するのとは全然違って、私たちもお客様を近くに感じられますし、お客様にも私たちを近くに感じていただけていたらいいなと思いながら演奏していました。

パク:それが第一ですよね。

パク・ヒョナ

パク・ヒョナ

ーーお客様の反応もダイレクトに伝わりましたか?

岡田:そうですね! すごくアットホームに感じましたし、クラシックというとカッチリして聴かなければいけないというお気持ちがある方も多いと思うのですが、ここはとてもフランクなので気楽に聴いていただけたのではと。

ーークラシック=難しいというイメージがどうしてもありますからね。

岡田:そうなんです! あとは「長いな」とか(笑)。でもこういう形でリラックスして聴いていただいて「クラシックも楽しい」と思っていただけたらいいですよね。

パク:本当にそうですね。

ーーそんな中で今日の選曲は「音楽で世界のお国巡り」というコンセプトでしたが。その意図というのは?

パク:奏ちゃん(岡田)はフランス音楽が専門なので、まずそれは絶対に弾いていただきたかったのと、私自身、クラシック音楽というカテゴリーの中にも色々な音楽があって、ヨーロッパの様々な国から生まれた音楽はそれぞれ似ているようですが、音色や演奏法なども違うということをお客様に伝えたいというのを常に意識しているんです。なので自分のリサイタルのプログラムでも曲目が生まれた国がかぶらないように選曲する、というのを1つのルールにしているので、今日もその提案をさせていただきました。

ーー冒頭がシューマンの「献呈」で、チェロの音色は人の声に最も近いと言われる通り、まるで歌を聞いているようでなんて美しいのだろうと思いましたし、またそこから岡田さんのドビュッシーは得意中の得意というレパートリーでしたね。

岡田:自分にとっては母国語みたいな感じで、嘘偽りのない自分が出せる音楽なので、これからもずっと演奏し続けていきたいと思っています。

ーーその後も多彩なプログラムで、きっとお客様もお国柄の違いなども楽しまれたことと思いますが、お二人はパリで出会われたとお聞きしていますが、共演も頻繁に?

パク:実は久しぶりなんです。3年ぶりくらい?

岡田:そうだね。お互いのスケジュールが微妙にすれ違っていて、ヨーロッパにいる時期と日本にいる時期が噛み合わなかったりしたので。

パク:だから今日は本当にベストなタイミングだったんです。

(左から)岡田奏、パク・ヒョナ

(左から)岡田奏、パク・ヒョナ

ーーその久々の共演で、改めてお互いの魅力をどう感じますか?

岡田:室内楽ってお互いの音を聞いて、お互いが尊重し合わないといけないので、どうしても合う人と合わない人というのが出てくるんです。音楽の方向性の問題も大きいので。でもヒョナちゃん(パク)とはすごくそこが一致しますし、彼女は心がおおらかなので一緒に弾いていても優しさを感じられて、一緒に演奏する時間がとても大好きです。すごくセンシティブなんですよね。

パク:センシティブという言葉は全く同じに私も奏ちゃんに感じていて。チェロという楽器はどうしても色々なピアニストと共演することになりますが、彼女はセンシティブだから私が「こう表現したい」というのをすぐに受け取ってくれて時差がないんです。その反応が良いところがお互いにすごく合うんじゃないかと思います。

岡田:そうなの!

パク:あとは、微妙なタイミングが例えズレたとしてもそれを楽しめば良いじゃない? というのを、お互いが持つことができるんですね。それを共通認識にできるピアニストに出会うのはすごく難しいことなので。

岡田:やっぱり音楽の中で何を大事にしているのか? があるから。

岡田奏

岡田奏

パク:それを言葉で言わなくても、初合わせの時にスッと通じたのが私自身もびっくりしたくらいでした。3年ぶりの共演でそう感じられたので。

岡田:それはお互いが心を開いていないとできないことなので、人と人との関係の延長線上にあるもの、人間性にも関わってくるんだろうなと思います。

ーーお互いがベストな関係性を保っていらっしゃるんですね。そんなお二人の今後の活動についての夢や、ビジョンなどは?

パク:今日演奏して強く思ったのは奏ちゃんと、本格的なリサイタルをしたいということです。今日は30分という形でしたから、取り上げられない楽曲も多かったので、それは今日サンデー・ブランチ・クラシックをやらせていただいたからこそ生まれた夢です。あとは私個人としては演奏活動を続けて成長して、今教える立場でもあるのでそれにも集中していきたいなと思います。

岡田:ピアニストって1人でいる時間が長い「孤独感」が親友みたいなところがあるだけに、室内楽をとても楽しいなと思っていて。ソロ、コンチェルト、室内楽と幅広く活動できるピアニストでありたいと思っています。また1人の音楽家としては、その時だけにしかできない音楽というのがあると思うので、聴いてくださる方、お一人おひとりに様々な状況がありますからあくまでも聴く方の自由に聴いていただければよいのですが、その中でも何かが残せる、伝えられる音楽家でありたいと思っています。

ーーでは、お二人での企画が広がることも楽しみにしています。是非またサンデー・ブランチ・クラシックにもいらしてください!

パク:こちらこそ、是非よろしくお願いします!

(左から)岡田奏、パク・ヒョナ

(左から)岡田奏、パク・ヒョナ

取材・文=橘涼香 撮影=福岡諒祠

バレエ界最大の話題作=リアム・スカーレット版『白鳥の湖』、英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18で上映へ

$
0
0


バレエ、オペラともに世界最高の名門歌劇場、英国ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)の人気公演の舞台映像を全国の映画館で上映している「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18」。2018年8月24日(金)より本シーズン12作目、今期のフィナーレを飾る『白鳥の湖』の上映が全国順次公開となる。

Swan Lake. Marianela Nuñez as Odette.  © ROH, 2018. Photogrpahed by Bill Cooper

Swan Lake. Marianela Nuñez as Odette. © ROH, 2018. Photogrpahed by Bill Cooper

チャイコフスキーの楽曲にマリウス・プティパとレフ・イワノフの振付で人気を博し、以後様々なアレンジをされながら不朽の名作として愛されてきた『白鳥の湖』。今や古典バレエの名作として不動の人気を誇る作品だが、今回31年ぶりとなる新プロダクション制作の動機について、ロイヤル・バレエ団の芸術監督ケヴィン・オヘアは「31年前に創られたものも素晴らしかった。ただ、時代は移り変わる。新世代のダンサーや観客の為に新たな演出を提供できればと思った」と話す。

Swan Lake. Marianela Nuñez as Odette.  © ROH, 2018. Photogrpahed by Bill Cooper.

Swan Lake. Marianela Nuñez as Odette. © ROH, 2018. Photogrpahed by Bill Cooper.

そんなケヴィン・オヘア芸術監督が「この2人なら古典や伝統を尊重しつつ、刺激的で新鮮なものを創ってくれると考えた」と太鼓判を押し、大抜擢したのが、振付家リアム・スカーレットと、美術家ジョン・マクファーレンだった。現在ロイヤルバレエのアーティスト・イン・レジデンスであるリアム・スカーレットは、NHK-BSでも放送された『フランケンシュタイン』や、先頃ROHシネマシーズンでも上映された『バーンスタイン・センテナリー』のうち「不安の時代」などで日本でもすっかりお馴染みの若干31歳の天才振付家である。また、ジョン・マクファーレンもまたリアム・スカーレットの上記振付作品等に美術デザインで参加してきた。

今回上映されるリアム・スカーレット版『白鳥の湖』は、従来の2幕の白鳥たちが舞う幻想的な湖畔のシーンはそのままに、1幕・3幕・4幕に新しい振付と演出を追加。 「おとぎ話の世界が真実味を持つように、登場人物をリアルに描くことに徹した」と話すリアムは、プティパ&イワノフ版の振付をベースにしつつ、より現代的なリアルで演劇性の高い演出を施した。

Swan Lake. Artists of The Royal Ballet.  © ROH, 2018. Photographed by Bill Cooper

Swan Lake. Artists of The Royal Ballet. © ROH, 2018. Photographed by Bill Cooper

さらに 370着ほどの衣装のデザインから舞台装置に至るまで美術パートを担ったジョン・マクファーレンは、「(意見を出し合っていく中で)これまでの『白鳥の湖』でいやだったことリストも作成した。」と制作過程を明かす。結果、舞台芸術はより豪華に、そして白鳥たちの衣装が従来の長いスカートからクラシック・チュチュへ変更されるなど、 新しい変化をもたらしつつも、いわゆる古典バレエ的要素を残したスタイルで、初めて鑑賞する方からバレエファンまで十二分に楽しめるプログラムを実現させている。

また新プロダクションの目玉ともいえるのが、贅を尽くしたキャスティング。白鳥のオデット&黒鳥のオディール二役をトップ・プリマのマリアネラ・ヌニェス、そして王子ジークフリートには、優雅な立ち姿と長い手脚、伸びやかな跳躍が貴公子そのもののプリンシパル ワディム・ムンタギロフが演じ、至高のパートナーシップの酔いしれること間違いなし。さらに、新たに追加された役柄のジークフリート王子の妹2人には、日本人プリンシパルの高田茜と、同じくプリンシパルのフランチェスカ・ヘイワード、王子の友人ベンノ役には抜群のテクニックを誇るプリンシパル アレクサンダー・キャンベルがキャスティング。この3人には従来のパド・トロワ(3人による踊り)の他にも見せ場が用意されるなど、まさにロイヤル・バレエ団の最高峰のダンサーが一堂に会する、豪華演目といえる。

Swan Lake. Vadim Muntagirov as Prince Siegfried and Marianela Nuñez as Odile. © ROH, 2018. Ph. by Bill Cooper.

Swan Lake. Vadim Muntagirov as Prince Siegfried and Marianela Nuñez as Odile. © ROH, 2018. Ph. by Bill Cooper.

チャイコフスキーの優美な音楽にのせて、名門ロイヤル・バレエ団が総力をあげて贈る新たな『白鳥の湖』。上演初日から絶賛の嵐を呼び、バレエ界最大の話題作と言われている本作、ぜひ劇場の大スクリーンで堪能してみたい。

【動画】『白鳥の湖』予告

 

うわさの串田和美版『兵士の物語』が東京などに進出~作品世界を支える二人の楽師、郷古廉(Vn)&谷口拓史(Cb)に聞く

$
0
0


『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』の作曲家リチャード・ロジャースと作詞家ロレンツ・ハートが出会って100年。プッチーニの三部作『外套』『修道女アンジェリカ』『ジャンニ・スキッキ』初演から100年。そんな関係の仕事にたまたま関わった。日本では松下幸之助が松下電器器具製作所を創立し、「浜辺の歌」「新金色夜叉」「宵待草」などの音楽が流行した1918年。そして、これから紹介するストラヴィンスキーの『兵士の物語』が誕生したのもこの年だ。音楽に語りと演劇、バレエを融合させた傑作を、まつもと市民芸術館では、サイトウ・キネン・フェスティバル松本(現セイジ・オザワ松本フェスティバル)との共同制作で、2011・2012年にロラン・レヴィが、2013・2014年に芸術監督・串田和美が演出し、公演は連日大盛況だった。その串田版『兵士の物語』が4年ぶりに復活、初めて東京など松本を飛び出て公演する。楽団メンバーとして全公演に出演しているコントラバス(Cb)の谷口拓史、3回の出演を果たしているヴァイオリニスト(Vn)の郷古廉に話を聞いた。二人はこの『兵士の物語』を語るのに欠かせない存在だ。

『兵士の物語』 (2014/撮影:山田毅)

『兵士の物語』 (2014/撮影:山田毅)


 
【ストーリー】
休暇を得た兵士が歩いて故郷を目指している。兵士が肩に背負った袋からヴァイオリンを取り出して弾き始めると、老人に化けた悪魔が現れ、字が読めない彼を丸めこんで「金のなる」本とヴァイオリンを交換させる。その本には未来の相場情報が書かれていた。悪魔は3日間だけ本の読み方を教える代わりにヴァイオリンの弾き方を教えてもらいたいと申し出る。悪魔の家から故郷にたどり着いた兵士だったが、どこか村の様子がおかしい。村人たちには幽霊扱いされるし、婚約者には夫と子供がいるのだ。悪魔の言った「3日」が実は3年だったのだ。自らを責めた兵士は、商人として再出発し大成功するが心は満たされない。昔を懐かしく思い、あてどない旅に出た彼はとある王女と出会う……。


ストラヴィンスキーが宿る超絶ヴァイオリニスト

−−まつもと市民芸術館での『兵士の物語』が久しぶりに帰ってきます。音楽面では欠かせないお二人にぜひお話をうかがいたかったんです。

谷口 僕は作品に取り組めるのもうれしいんですけど、プレイヤーとしては廉(すなお)とまた一緒にやれるのが楽しみ。強烈にストラヴィンスキーが宿る男なので。

郷古 その言い方、なんか嫌だなあ(笑)。

谷口 なんで? 宿りまくってるじゃん。

郷古 『兵士の物語』は谷口さん無しでは想像できないんですよ。弦楽器は二人だけじゃないですか。ここの連携は作品においてとても大事なんです。友人としても信頼しているし、音楽をやる上でも重要に作用すると思います。

『兵士の物語』 (2014/撮影:山田毅)

『兵士の物語』 (2014/撮影:山田毅)

——もうだいぶ前ですが、松本で『兵士の物語』をやるという話が来たときはいかがでしたか?

郷古 僕はこの作品を知らなかったんですよ。勉強不足だったのもあるし、若くてまだいろんな作品を知らなかったこともあるけど。最初に小澤征爾さんから暗譜でやるように言われたんです。楽譜が届いたとき「暗譜は無理だろ」と思ったのを強烈に覚えていますね。縦(よ)しんばみんなで暗譜しても何かあったら終わるなって。

谷口 これを指揮者なしで暗譜でやるというのは要求が高すぎる。八分音符一個ずれただけでバラバラになりますから。それくらい精密に書かれている。

郷古 そうだね。と同時にストラヴィンスキーはこんな曲を書いているんだという驚きがありました。編成の面白さと、僕が立ち入ったことのない領域の音楽だった。でも稽古が始まってからはすごく面白くて。基本的に僕はソロでやっているので、みんなで一緒に作り上げる、しかも同じような年代……じゃなかったかもしれないけど(笑)、音楽をやろうという気持ちが若い人たちとの共同作業は一番楽しかった。

谷口 僕は以前にも演奏したことがあったんですけど、松本でやったときに、廉のヴァイオリンを聞いた瞬間それまでやってきたものとは違う曲というか、こんな曲だったのかと驚きました。それくらい郷古廉は特別なヴァイオリン弾きなんです。最初に出会ったとき、彼は17歳だったんですけど、まあとんでもなかったんですよ。

郷古 そんなことないでしょう(笑)。

谷口 彼は僕より11歳下なんですけど、いつも怒られていましたから。

谷口拓史

谷口拓史

——ストラヴィンスキーの曲の魅力をもう少し聞かせてください。

谷口 まず『兵士の物語』は物語的にもヴァイオリンがキーワード。だからストラヴィンスキーもヴァイオリンに関してはものすごく繊細に、音楽的にもど真ん中に据えて書いている。だから当然ヴァイオリンがリードするんですけど、廉が違う演奏をすると周りも引っ張られて違う演奏になるんです。

郷古 ストラヴィンスキーを弾くときに僕が第一に考えるのは、楽譜に忠実にということですね。でもバッハとかモーツァルト、ベートーヴェンを弾くときの忠実にというのとは意味が違うんです。というのは、ストラヴィンスキーは作曲家というよりも職人的だから。たとえば『兵士の物語』でもタンゴ、ワルツ、ラグタイムとか出てくるけれど、そのものではない別のもの。そういう皮肉っぽいところがある。そういう意味では、ストラヴィンスキーの中でも『兵士の物語』はかなり高度な技法で作られていると僕は思ってます。

『兵士の物語』 (2014/撮影:山田毅)

『兵士の物語』 (2014/撮影:山田毅)

谷口 これを書いたときのストラヴィンスキーは原始主義といって革新的なものを提示しようとしていたんです。その後、彼は新古典主義へと思考が変わって、モーツァルトやハイドン、ベートーヴェンのころの音楽に戻そうとしたり、自分でもそういうものを書いたり。そして楽器の特性を生かしとにかく緻密に計算している。そう書いてあったら確かにそのように演奏できるし、無理がないんですよ。それも職人だなあと思わせるところ。

郷古 たとえればスイスの時計職人みたいな。本当に微細な歯車が回り回って最後の大きな針を動かしているみたいなところがある。それぐらいの精密な音楽ですね。先ほども話したように小澤さんが最初に暗譜で演奏しろとおっしゃったのは、それくらい深く楽譜を読めということだったのだと思うんですよ。今思い出したんですけど、ストラヴィンスキーは幼かったころ、見知らぬ老人と道端で出会った。老人は脇の下に手を入れて、ぷかぷか音を出して民謡みたいなものを歌ったんだけど、それをストラヴィンスキーがバカに気に入ったと。僕はストラヴィンスキーの音楽の原点はそこにあると思います。民謡って拍子がないじゃないですか。それは音楽じゃなくて言葉が優先されて生まれているから。もしかしたらストラヴィンスキーの変拍子は言葉優先、リズム優先の音楽から生まれたのかもしれない。そしてコントラバスはこの脇で出す音なんですよ。上でいろいろ動いていても、ベースに一定のリズムがある。それがまたロシア的なんです。

谷口 いわゆる、ザ・共産主義って感じ?

郷古 そういう解釈もできるけど、ロシアの音楽を弾くときに、同じリズム、同じものを繰り返すときの意味をどう考えたらいいかみたいな話で、僕の先生は、機関車に石炭をくべる行為だと言ってました。行為自体にはまったく発展性はないけれど、そこに溜まっていく石炭がある状態を想像すればいいと言われてなるほどなあって。ストラヴィンスキーもそういう性格は非常にありますよね。彼がさらに面白いのは、フランス風だったり、イタリア風だったり、晩年はアメリカに行きましたけど、いろんなフレーバーがある。それが彼をカメレオンと呼ばれる作曲家に仕立て上げている要因だと思うんです。

『兵士の物語』 (2014/撮影:山田毅)

『兵士の物語』 (2014/撮影:山田毅)

串田さんは「思いつき」を大事にする演出家

——ところで串田さんという演出家はいかがですか?

郷古 僕は串田さんの作品をさほど見てるわけじゃないけど、『兵士の物語』にかかわっている串田さんは面白い。思いつきを大事にする方で、しかもその思いつきがクール。センスがある。それに振り回される人もいるかもしれないけど(笑)。

谷口 それはあるね、ひらめきの達人。あとやっぱり要求が非常に高くておっかなかったなあ。僕の中では、若いころの豊臣秀吉のようなイメージなんですよ。

郷古 出た! 戦国武将。

谷口 みんなで面白いことやろうぜ、みたいな。革新的でもあるけれど、どこかで信長のクールさも持っている。

郷古 発想がジャズなんですよね。クラシックじゃない。思いつきと言いましたけど、ジャズもインプロヴィゼーション、即興でしょ。だけど、そこに絶対センスがないと続いていかないし、もちろん基本的なコードもわかっていないといけない。そこを感覚的に押さえているんですよ。僕らとしては、そういう彼の感覚に時々は齟齬を感じるんですけど、それはそれで噛み合わない感じが逆に面白いんですよ。

——では最後に楽しみにしていることを教えてください。

郷古 今回は4年ぶりじゃないですか。楽団のメンバーも全然違うので、音楽的なところがどうなるかがまず楽しみ。全体で言えば、役者陣は変わってないので、変わってないからこその変化が楽しみですね。幹二さんあそこをどういう感じでやるのかなあとか。いまの、駄じゃれじゃないよ。

谷口 大丈夫、まったくわからなかった(笑)。

郷古 こういうふうに音楽がものすごくシリアスで、演劇と絡める作品はあまりないと思うんです。もちろんオペラは別にして、すごく貴重だと思うし、まだまだやりがいがある作品です。どう演出するのかもいくらでもやり方がある。

谷口 今回、ミュージシャンをどうするかというときに、廉にも相談したんですけど、僕を信頼して一任してくれたので、メンバーのほとんどは僕が紹介した形になりました。結果、全員が男性になって、男臭さみたいなものが出てくるかもしれないし、そういうのは楽しみですね。新しいメンバーととことん話し合って、新たな『兵士の物語』を作ることができたらと思います。

 
※テレビ朝日系「題名のない音楽会」の9月1日(土)10:00放送分(「天才による前代未聞の音楽会」)に『兵士の物語』の楽師メンバーが出演します。※地域によっては放送日が異なります。
 
《郷古廉》1993年生まれ。2007年12月のデビュー以来、新日本フィル、読売日響、東響、東京フィル、日本フィル、大阪フィル、名古屋フィル、仙台フィル、札響、アンサンブル金沢等を含む各地のオーケストラと共演。共演指揮者はゲルハルト・ボッセ、秋山和慶、井上道義、尾高忠明、小泉和裕、上岡敏之、下野竜也、山田和樹、川瀬賢太郎ら。《東京・春・音楽祭》、《ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン》にも招かれている。またリサイタルにも力を入れており、2017年より3年かけてベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲を演奏するシリーズにも取り組んでいる。2006年第11回ユーディ・メニューイン青少年国際ヴァイオリンコンクールジュニア部門第1位(史上最年少優勝)。2013年8月ティボール・ヴァルガ シオン国際ヴァイオリン・コンクール優勝、聴衆賞・現代曲賞を受賞。現在、国内外で最も注目されている若手ヴァイオリニスト。
 
《谷口拓史》洗足学園音楽大学を首席で卒業し、同大学大学院を修了。同大学卒業演奏会、第75回読売新人演奏会に出演。これまでに山本修、吉田秀、高山智仁、菅野明彦、藤澤光雄、ミヒャエル・ブラデラーの各氏に師事。小澤征爾音楽塾プロジェクトⅧ、サイトウ・キネン・フェスティバル松本(現セイジ・オザワ松本フェスティバル)、別府アルゲリッチ音楽祭をはじめ、サイトウ・キネン・オーケストラや水戸室内管弦楽団、紀尾井シンフォニエッタ東京の定期演奏会等に出演。2011年9月より2014年7月まで兵庫芸術文化センター管弦楽団Co-Principal奏者を務め、2018年7月より岡山フィルハーモニック管弦楽団首席コントラバス奏者に就任。東京ジュニアオーケストラソサエティ、東京大学音楽部管弦楽団の講師を務めるなど、拠点を関東に置きながら国内各地で精力的に活動をしている。

取材・文:いまいこういち

JAPON dance project 2018×新国立劇場バレエ団『Summer/Night/Dream』インタビュー、「固定観念を外して自由に楽しんで」

$
0
0


海外で活躍する、あるいは活動経験を持つ日本人ダンサーを中心に、モナコ・東京の2都市を拠点として活動するJAPON dance project(JDP)。新国立劇場バレエ団のダンサーとのコラボレーションによる3回目の公演はシェイクスピアの『真夏の夜の夢』を題材にした『Summer/Night/Dream』だ。ダンスを通じて現代の日本文化を表現することを目的に活動してきたJDPとしては初のストーリー物の舞台となる。

今回の出演はJDP設立メンバーの遠藤康行、小池ミモザ、柳本雅寛に服部有吉(元ハンブルクバレエ/H/Wバレエ学校芸術監督)、津川友利江(元バレエ・プレルジョカージュ)を迎え、さらに新国立劇場バレエ団(以下新国)からは米沢唯、渡邊峻郁のほか8名が参加する。8月25・26日の公演を前に遠藤、小池、柳本の3人に話を聞いた。(文章中敬称略)

■3回目でストーリー物に挑戦

――今回はシェイクスピア『真夏の夜の夢』がテーマということです。JDPとしてストーリーのある作品を取り上げるに至った経緯を教えてください。

小池 今回3回目ということもあり、ストーリーのあるものに挑戦してみたいと思ったのがきっかけです。その中でいろいろなストーリーを検討した時、『真夏の夜の夢』が一番しっくりきた。 作品にいろいろなメッセージが込められ、JDPのチャレンジも含め、柔軟性がある見え方ができると思いました。 

遠藤 今回の作品はダブルミーニングではないですが、シェイクスピアが言いたいであろうことと、僕らが考えていることを舞台上で表現したいと思っています。

――JDPのメッセージというと。

小池 私がひとつ思ったのは、例えばシェイクスピアの時代にしても今にしても、「こうしなければいけない」「誰と結婚しなければいけない」「これがいい、これが良くない」など社会の枠がありますよね。お話では登場人物がその「一番大切だ」とされている枠から逃れようとして自然界に迷い込むのですが、自然の中では一番大切だと思っていた枠はそんなにたいしたものではなかったという、そういうイメージです。そして登場人物は自然界でいろいろな経験をして、人間界に戻ってくるわけですが、その時は以前と全く同じではないなと。

またシェイクスピアが言いたかったことのひとつには愛情の形もあると思うんです。今回は職人たちをはじめ細かい役は割愛していますが、原作の中では人間たちや妖精たち、職人は職人なりの自分たちのやっている仕事に対しての愛情だったりと、いろいろな愛が描かれています。そのどこを見せるかということを、今後話し合って詰めていきたいなと。シェイクスピアからインスピレーションをもらいながら、JDPなりのオリジナルなものを創作して行くという感じです。 

■ボキャブラリーの違うダンスの表現にも注目

――オベロンを遠藤さん、タイターニアを小池さん、パックを柳本さんのお三方が演じられますね。配役についてのお話を。

遠藤 タイターニアはすんなり決まったのですが、パックは柳本さんか服部君で迷いました。

柳本 服部君は昔ハンブルクバレエで踊っていて、小柄でシャープでテクニシャン。最初は彼にパックをと思っていたんですが、そこからいろいろ話し合いをして僕がやることになりました。というのも、この物語は4人の人間の、2つのカップルによって物語が展開する。ならば服部君の方がよく動けるなと。それにつくりながら踊るのは結構大変。だったらパックであれば自分を外に置けるので。そうすれば後ろに下がって作る方に専念できるし、僕は僕の立ち位置を自分で作れる。

――フレキシブルに動けるというのもあるのですね。

小池 柳本君はすごくパックに合っていると思うんですよ。一般的なイメージではパックは小柄でよく動くというのがありますし、バレエでもそういう配役をされることが多いですが。だからそういう固定概念を逆に壊したいなと思いました。

――そこですでにJDPらしさが出ていると。妖精王と女王、オベロンとタイターニアについてはいかがでしょう。

遠藤 妖精王とはいえ、結構人間的なキャラクターでもあるんですよね。

小池 妖精と人間をはっきり分けた感じではないかな。もちろん妖精の王・女王ですが、原作では人間界の王・女王も登場します。ですからその両方の意味合いも含むところがあるかもしれません。

――さきほどお話にも出ましたが、今回は服部さんと津川さんがゲストで出演されています。このお2人を選ばれた経緯と理由を。

柳本 服部君はドイツにいたときの僕の繋がりです。

遠藤 津川さんは僕がマルセイユバレエにいた時にプレルジョカージュにいて、その時から知っていたんです。昨年横浜バレエフェスティバルで津川さんに『ロミオとジュリエット』を踊ってもらった時に親しくなり、彼女の踊りも何度も見ているのでぜひ、ということでお願いしました。

――服部さんと津川さんでデメトリアスとヘレナ。ここにライサンダーとハーミア役で新国の渡邊・米沢の2人が加わりますね。

小池 踊りの種類が違うので、それによってキャラクターの見方がはっきりして面白いかなと思いました。服部君と津川さんはコンテンポラリーベースの人で米沢さんと渡邊さんはベースがクラシック。もちろんコンテンポラリーの動きもしてもらいますが、動き自体で違ったキャラクターが見えてくるのではと。

撮影:西原朋未

撮影:西原朋未

■一人ひとりが感じたものすべてが正解

――お客様にはどういったところを楽しんでほしいと思いますか。

小池 観る方が一人ひとりの想像力やイマジネーションを掻き立てられるようなものができればいいなと思います。

遠藤 ダンス面でも、いいものを追求して見せたいなと思っています。

柳本 先入観や固定概念を取り払いたい。例えば今回はシェイクスピアの『真夏の夜の夢』で、お客様もそれなりに知っていて、それぞれ頭に思い描いているものがあると思います。でもそういうベースから離れて、違う視点で何か提案できるようなものになればと。コンテンポラリーというのは、そういう意味では過去の2作品もそうですが、ベースとなる物語がないので、ストーリーは自分で想像して楽しむというおもしろさがある。でもクラシックバレエはある意味逆で、ストーリーの上に成り立っていて、ベースがある。だからコンテンポラリーを見慣れていないとちょっと距離を置かれてしまう。そういう垣根を越えられるきっかけになるようなものになればいいなと思います。そういう意味で、先入観にとらわれないような、新しい『真夏の夜の夢』をお届けできたらなと。ストーリーもあまり本来の原作にとらわれず、原作の裏に何があるのかといったようなところや、コンセプトやメッセージも僕らなりにあるのですが、それを言うとまたそれにとらわれてしまうので敢えて言いませんが(笑)。

――頭を自由にして、見たままのものを感じる、と。

柳本 ご覧になったもの全てが正解なんですよ。

――お客様一人ひとりが見たもの全てが正解だと。

柳本 つまらなかったと思ったら、それもまた正解です(笑)。

■JDPを通し、日本を出て得たものを日本のダンスに還元したい

――JDPの結成から現在まで目指しているものは何なのかを、お話いただけますか。

柳本 今回は服部君と津川さんの2人が入っていますが、新国のダンサー達のほかに毎回こうしたゲストを呼ばせてもらっています。彼等のように日本を離れ海外のプロのバレエ団で踊ってきている日本人ダンサーはたくさんいるんですよね。そういうキャリアと経験を持ったダンサー達がダンサーとして、あるいは振り付け家として発表する場所があまりない。そういうもののきっかけになればいいなと思うのが、このJDPプロジェクトであり、重きを置くところだと僕は思います。

小池 逆輸入じゃないけれど、日本を出たからこそわかる日本の良さというものを、私たちはよく知っている。そういうのは日本にいる時には分からないんですよね。 日本にいた時に見られなかったものが向こうに行くと分かったり、見えたりする。そうやって学んできたことをバレエ界に繋げる架け橋のような、そんなプロジェクトになりたいなと。

――それぞれが海外で蓄積してきた経験などを、日本のダンス界に還元したい、そしてさらに新しいものを作りたいと。

柳本 そういう意味では、定期的にこうして新国で公演ができるのは非常にありがたいなと思います。

――2年に一度ではなく、毎年あってもいいですね(笑)。

小池 できればやりたいけどクリエーションが大変なんですよね。実は1年ってあっという間。それぞれのキャリアもあるし。舞台装置や衣装など、クリエーションは結構時間をかけてやるものなので。

柳本 モナコにロゴスコープという芸術研究機関があり、JDPはそこに所属しているので今度は「日本からの作品で」ということで、そこに呼ばれるようなものができればとも思います。隔年で日本とモナコ、1年ずつで。

撮影:西原朋未

撮影:西原朋未

――最後にお客様にメッセージを。

遠藤 固定概念から脱し、一人ひとりの心が動いてほしいと思います。精一杯、一生懸命頑張ります。

小池 見た後にも心に残るような舞台にしたいです。結構後になってじわじわきて、そこからインスピレーションが湧いてくるとか、こんな考え方もあるのかとか。観客の方々の中に残れたら、普段使わないようなイマジネーションの扉を開けられたらいいなと思います。

柳本 メンデルスゾーンでもないしシェイクスピアでもありません(笑)。どこまでいろいろなことにとらわれずに見られるかという、遊びのようなところもあるので。その極みですね。リスペクトを込めていい加減にやっていきます(笑)。

取材・文=西原朋未

現代の風を運びこんだ、大石将紀のサクソフォンの多彩な音色

$
0
0

「サンデー・ブランチ・クラシック」2018.6.17ライブレポート

クラシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう! 小さい子供も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK! そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のランチタイムコンサート「サンデー・ブランチ・クラシック」。6月17日に登場したのは、クラシック音楽だけでなく現代の作曲家によるサクソフォンのための作品の初演を積極的に展開しているサクソフォ二ストの大石将紀だ。

東京藝術大学、同大学院修了後渡仏し、パリ国立高等音楽院に入学した大石将紀は、フランスの伝統芸能ともいえるサクソフォンのテクニック、クラシック音楽はもちろんのこと、クラシック音楽の現在形「現代音楽」という前衛を学び、「伝統を現代化しなおす」作業を経験。より時代に密着した表現方法としての音楽、サクソフォンの奏法、また音楽以外での様々な芸術とのコラボレーションなどを経験しながら、サクソフォンカルテット「OSMOSE」のメンバーとしてフランスを始めとするヨーロッパ各地で演奏活動を行った。
08年に日本に帰国し、東京オペラシティーでのリサイタルシリーズ「B→C」に出演してからは主に現代音楽の世界で活躍。国内外の著名な作曲家達と親密な関係を築き、数々のサクソフォンのための作品を初演。後進の指導にもあたりながら「音楽は旅と出会いそのものである」という信条の元、フランス、イギリス、イタリアなどのヨーロッパ諸国を始め、アジア、アフリカでも演奏活動を続けている。

そんな大石が東京藝術大学時代の同級生という旧知の仲であり、「ラヴェルリサイタルシリーズ」や、「透明な風~ラヴェル名曲集」のCDアルバムリリースなど、近現代の作品を得意のレパートリーとし、室内楽奏者としても高い評価を得ている新居由佳梨と共にサンデー・ブランチ・クラシックに2回目の登場を果たし、クラシックから現代音楽のレパートリーを披露してくれた。

大石将紀(Sax)、新居由佳梨(ピアノ)

大石将紀(Sax)、新居由佳梨(ピアノ)

ピアノと、またサウンドトラックと共に奏でられた楽曲が示すサクソフォンの可能性

コンサートのはじめは現代音楽の作曲家カーゲルのRrrrr…5つのジャズ的小品より「リード」。大学では文学と哲学を学び、前衛音楽に関心を持ち独学で作曲を学んだカーゲルは、ユーモアにあふれた音楽劇を推し進めた作曲家として知られ、演奏中に指揮者が倒れることを指示した「フィナーレ」など、ユニークな発想の楽曲が有名。その中でもアルトサックスの為に書かれたこの曲は、ジャズアドリブのような激しさがやがて切なさに変換されていくソロが印象的だった。

大石将紀

大石将紀

続いてインターバルをほとんど挟まずに大石が楽器を持ち替えて、スペインの作曲家ファリャの「7つのスペイン民謡より」アストゥリアス地方の歌、ムーア人の織物、ナナ(子守歌)、ポロ(フラメンコの踊り)が演奏される。
「アストゥリアス地方の歌」では新居のピアノがミステリアスに入ると、大石のサクソフォンがエキゾチックなもの悲しいメロディーを切々と奏でる。「ムーア人の織物」ではピアノがリズムを刻みはじめると、音楽と共にベールが舞うような自由さで、サクソフォンとピアノが共に掛け合いながら特段の盛り上がりを示す。一転、「ナナ」では静かにセンチメンタルなメロディーでサクソフォンの高音の響きが澄みきって、柔らかな低音との対比が実に印象的。サクソフォンが吹奏楽団における木管楽器と金管楽器の橋渡しを目的に開発された楽器である出自を思い起こさせる。そこから連打の続くダイナミックな新居のピアノ前奏から入る「ポロ」では、大石のサクソフォンの迫力のメロディーがより引き立ち、まさに目の前でフラメンコがクライマックスに向かって踊られているような、互いに駆け上っていきながらのフィニッシュに大きな拍手が湧き起こった。

大石将紀(Sax)、新居由佳梨(ピアノ)

大石将紀(Sax)、新居由佳梨(ピアノ)

ここで改めて大石が挨拶。「まだ眠っていたい方もいるだろう日曜の午後にサンデー・ブランチ・クラシックにおいでくださりありがとうございます。どうぞ食べながら飲みながら演奏をお楽しみください」という言葉に一層和やかな雰囲気が広がる中、1度新居が退場し、続いたのはサウンドトラックとの共演によるヤコブTVの「ガーデン・オブ・ラブ」。現在ヨーロッパで最も活躍している作曲家の1人ヤコブTVは、楽曲に人の声や電子音楽をコラージュさせる等、宗教、政治、アルコール中毒、ドラッグなど現代社会の様々なものを作品のテーマにしている。このガーデン・オブ・ラブも冒頭で、鳥の声と共に18世紀の詩人ウィリアム・ブレイクの「愛の園」が朗読され、人々を神の手から遠ざけているのは他ならぬ教会であるとの批判がこもった詩の世界観から構築されている。

大石将紀

大石将紀

 
ウィリアム・ブレイク「愛の園」

  心はずませ 愛の園に出かけてみたら
  見たことのない光景に出会った
  いつも遊んでた広場の上には
  教会の建物が建っていたんだ
  教会の門は閉じられていて
  立ち入り禁止と書いてあるんだ
  仕方なく花壇のほうへ引き返し
  すずしい木陰を探そうとしたら
  そこは墓地に変わっていたんだ
  花のかわりに墓石が並び
  牧師たちが見張りをしている
  僕は茨で縛られたように 
  悲しい気持になったんだ


大石将紀

大石将紀

サウンドトラックの斬新な音源に大石のサクソフォンが自在に切り込んでいく様が独特の興趣を生んでいく。時に空を飛ぶように伸びやかな音が響くかと思うと、リズミックに刻まれるメロディーが奏でられ、次々に場面が切り替わっていく様が面白い。今度は何が出てくるのだろう? と意識が音楽世界に引き込まれていく、得も言われぬ感覚に包まれていった。

大石将紀

大石将紀

再び新居がステージに戻り、イギリスのやはり現代の作曲家フィトキンの手になるピアノとサクソフォンのための楽曲「ゲート」が演奏される。ピアノが流れる水のような、また風のような趣の連打を奏でると、サクソフォンが遠くからその風に乗るがごとくメロディーを吹き始め、それが次第に近づいて荒々しさを増してゆく。その音楽のダイナミズムは、ピアニストが譜面を持っていることからもそうでないのは明白でありながら、どこかでサクソフォ二スト奏者のアドリブにすら感じられる。やがてサクソフォンとピアノのリズムが同調し迫力を増していき、その激しさから一呼吸あって、サクソフォンの自由度が更に高まっていく。カフェいっぱいにサウンドが響き渡る、迫真のパフォーマンスとなった。

大石将紀

大石将紀

大石将紀(Sax)、新居由佳梨(ピアノ)

大石将紀(Sax)、新居由佳梨(ピアノ)

大きな拍手に迎えられた大石と新居は、アンコールにファリャの「7つのスペイン民謡」のうち、演奏されていなかった「ムルシア地方のセギディーリャ」「ホタ(アラゴン地方の踊り)」「歌」を披露。現代音楽が中心だった今日のプログラムの中にあって、美しく平易なメロディーが迫力と共に優しい空気も醸し出し、アンコールに相応しい演奏となった。サクソフォンの様々な音色の美しさ、可能性、奥深さが感じられる40分間だった。

様々なコラボレーションからサクソフォンの世界を広げていきたい

演奏を終えたお2人にお話しを伺った。

ーーお2人共サンデー・ブランチ・クラシックには2回目の登場でしたが、改めて今日感じられた会場の雰囲気や、演奏していての手応えを教えてください。

大石:すごくスペースが広いですし、お客様が色々なところにいらっしゃるところがコンサートホールとは違うので、開放的な感じがして、お客様も伸び伸びと聞いてくださるのが、ここのカフェの特徴的だなと思っています。今日も楽しく演奏させていただきました。

大石将紀

大石将紀

新居:お客様との距離が近いですし、照明も綺麗に仕上げてくださっていて、コンサートホールとはまた違ってライブ感が高い楽しさの中でさせていただきました。

ーー今日の選曲についてはどのような工夫を?

大石:僕は普段クラシック音楽と新しく創っていただく現代の音楽をよく演奏していて、その自分のレパートリーの中から新しい音楽で、且つこの場に相応しいと思える音楽を選んで演奏しました。ですから普段やっている現代音楽のコンサートでは、静かに集中してどんな小さな音も聞き逃さないような感じで聴くようなものが多いので、今日に関しては自由に楽しんで聴ける雰囲気に合った、リラックスして聴いていただける現代のものと、サンデー・ブランチ・クラシックですので、クラシック音楽のファリャも演奏しました。

ーーリビングルームカフェに合わせた選曲をしてくださったのですね。その中でご一緒された新居さんはいかがでしたか?

新居:私は普段クラシック音楽を弾いているのですが、今日のような現代音楽もとても好きなんです。また、同じ時期にヨーロッパに留学していたので大石さんとは旧知の仲でもありますし、お互いの信頼関係もあるので、楽しく演奏できました。

新居由佳梨

新居由佳梨

ーーその旧知の間柄ということで、お互いの魅力をどう感じていますか?

大石:新居さんはラヴェルのリサイタルシリーズや、名曲集のCDアルバムのリリースなど近代音楽が得意でいらして、サクソフォンはフランスで1840年代に生まれた楽器で、やはりサクソフォンのレパートリーはフランスの近現代のものから、現代のものなんですね。ですから彼女の得意とするレパートリーと同じ時代の音楽なこともあって、彼女の演奏にあるフランスものの色彩感が、サクソフォンと合う……と言うと偉そうなんですけど(笑)、相性の良さを感じています。また彼女とは大学時代から同級生なのですが、彼女がフランス近現代のものだけでなくて、サクソフォンの新しいレパートリーが好きだというのを学生時代から知っていて。ピアノの人から見たらちょっと変わったレパートリーを喜んでやってくれる、良い意味で変わっている方で(笑)。僕はその辺がすごく面白くて、ご自分のソロのレパートリーにもいずれ是非入れてもらいたいなと楽しみにしているのですが、今日のフィトキンの「ゲート」などにもすごく興味を持ってやりたいと言ってくれる珍しいピアニストですから、そこに魅力を感じています。更にやはり一緒に演奏していて安心感があるピアニストです。

新居:ありがとうございます。大石さんはサックスという楽器を本当に自由に操られる方で、学生時代から音と共にフレーズの作り方にすごく美しさを感じていて。現代音楽の分野は私はまだなかなか得意とは言えないのですが、クラシックのサクソフォンの演奏を聴いていると、無理強いをしないで自然体に音楽を創っているのが素晴らしいなと。今回のコンサートに関しても私の興味をそそるような曲を提案してくれたりですとか、私の世界を広げる機会をくれているのがとてもありがたいです。また同じ大学で同じ時期に学んだ人と、留学後日本に帰ってきてまた一緒にお仕事ができるというのは本当に嬉しいことです。人間としても音楽家仲間としても共に成長していけたらいいなと思って、尊敬している存在です。

大石:ありがとう。

(左から)大石将紀、新居由佳梨

(左から)大石将紀、新居由佳梨

ーーそのコンビネーションの良さが伝わって素敵な演奏でしたが、今後の活動に向けての夢や、ビジョンなどは?

大石:新しい音楽のジャンルで言えばサクソフォンの可能性をもっと広げたいと思っていて、ソロや、他の楽器との共演での、サクソフォンの為の新しい曲を作曲家に書いてもらう、今もやっている活動をもっと間口を広げてやっていこうと思っています。具体的には邦楽器とのプロジェクトが進んでいます。あとは毎回のことなのですが、楽器を演奏するところから一歩進んで、もっとサクソフォンを使った活動、コンサートを超えたところでの演奏ですとか、表現を模索していて。そのひとつとして今年の12月に前々から興味があった楽器同士ではない、ダンサーとのコラボレーションをします。そうした他のアートとのコラボレーション、新しいものを創っていきたいというのが目標と夢です。

新居:私はソロもアンサンブルも両方好きなので、どちらもずっと探求していきたいですし、ここ数年アウトリーチ活動と言って小学校に伺って音楽を届ける活動をしているのですが、そういう子供たちの音楽世界を広げる活動も更に進めていきたいと思っています。またクラシックだけに限らず増えているのがスタジオの仕事で、TVドラマやアニメゲーム音楽などの録音で、色々な作曲家さんに会えるんです。その方々のクラシックの作曲家とは違う視点での曲創りがすごく面白くて、それらのお仕事を通じて自分の経験を広げていって、それをまた自分に取り込んで成長していけたらなと思っています。

ーーそんな新しい世界をまた是非サンデー・ブランチ・クラシックでも聴かせてください!

大石:はい是非! 今日はありがとうございました。

(左から)大石将紀、新居由佳梨

(左から)大石将紀、新居由佳梨

取材・文=橘涼香 撮影=安西美樹

STAND UP! ORCHESTRA「自由なスタイルで聴いて」~『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018』<What’s “スタクラフェス”?>

$
0
0


<What's “スタクラ フェス”?> Artist Close-Up STAND UP! ORCHESTRA


2018年9月23日(日・祝)秋分の日、『イープラス Presents STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018』(略称 “スタクラフェス” )が、横浜赤レンガ倉庫の特設会場にて開催される。会場には3つの野外ステージ「HARBOR STAGE」「GRASS STAGE」「Sunday Brunch Classic Stage(無料鑑賞ステージ)」が設けられ、気鋭の演奏家たちにより、クラシックのよく知られた名曲からオペラ、ミュージカルの名曲、さらにはアニメの音楽まで、多種多様なプログラムが朝から晩まで繰り広げられる。クラシックといっても決して堅苦しいものにはせず、屋外で潮風を感じながら、食べたり飲んだり、時には寝そべりながら、多様な音楽を気軽に楽しめる趣向という。また児童の入場もOKだ。

この野外フェスにおいて「クラシック in アニメ」(HARBOR stage/14:10~15:10)、「クラシック紅白歌合戦!オペラからミュージカルまで」(HARBOR stage/、16:00~17:10)、「Classic Revolution!新進気鋭の若手アーティストとオーケストラの饗演」(HARBOR stage/18:30~20:30)の3ステージに出演するのが、STAND UP ! ORCHESTRAだ。

STAND UP! ORCHESTRA 練習風景

STAND UP! ORCHESTRA 練習風景

STAND UP ! ORCHESTRAは、ソニー・ミュージックエンタテインメントによる「STAND UP ! CLASSIC」プロジェクトのために、約1000人の応募者からオーディションによって選ばれた若い音楽家たちによって結成されたオーケストラ。「さあ立ち上がろう!クラシックをもっとエンターテインメントに」のコンセプト通り、彼らも立ち上がって演奏する。BSフジの「世界の音楽~ハロー!クラシック」への出演でもお馴染みだ。

このほど、コンサートマスター的な役割を担うヴァイオリンの桐原宗生、チェロの飯尾久香、トロンボーンの若田典子の3名にスタクラフェスへの思いをきいた。

--まず、皆さんがSTAND UP ! ORCHESTRAに参加したきっかけをお聞かせください。

桐原 ずっといろいろな方にクラシックを聴いていただきたいと思っていました。私は、普段、オーケストラ(注:東京シティ・フィルの第2ヴァイオリン首席奏者を務めている)で弾いていますが、そういうオーケストラの演奏会には、もともとクラシックが好きな人しかなかなか来てくださらないので、それ以外の方にもお客さんになっていただきたいと思い、普段からアウトリーチ活動にも取り組んでいます。STAND UP ! ORCHESTRAは、そういうことをするのにこれ以上の機会はないと思い、参加しました。

若田 フェイスブックでオーディションを知りました。椅子に座って聴かなくてもいいんじゃないという今までにないクラシックの楽しみ方のできるオーケストラが私にぴったりかもと思って、参加しました。

飯尾 私はクラシック以外の音楽も好きで演奏もしているのですが、それらに比べて、日本でのクラシックの普及はまだ低いと感じています。クラシックは値段が高いとか、長いとか、眠いとか、敷居が高いとか、ネガティヴなワードを聞くことがありますが、クラシックはこんなに素晴らしいものだから、もっと身近にならないかなといつも考えて、自主コンサートにも取り組んできました。そんな活動を見ていた友人がSTAND UP ! ORCHESTRAが始まることを教えてくれて、私も参加したいと思いました。

--STAND UP ! ORCHESTRAってどんなオーケストラですか?

桐原 みんな若く、一人ひとりが自分の思いを表現できるオーケストラだと思います。

桐原宗生(ヴァイオリン)

桐原宗生(ヴァイオリン)

若田 BSフジの番組などで若い人たちにも知ってもらえるので、これからますます活気のあるオーケストラになると思います。

飯尾 若いオーケストラで新鮮です。みなさん、どうしたらクラシックを楽しんでもらえるかを考えているメンバーなので、そこが面白いです。

--先日の製作発表記者会見でも立って演奏してられましたね。

桐原 暗譜して、立って弾くのは、普通のオーケストラではなかなかできないことです。

若田 オーケストラが、パフォーマンス重視で演奏するのは、新しいし、いいなと思います。

飯尾 チェロは基本、座って弾く楽器ですが、STAND UP ! ORCHESTRAでは立って弾くことが多いです。立ってチェロを弾くのは、ポップスやダンス・イベントなどではやったことがありましたが、クラシックではなかなかないことで、演奏は難しくなりますが、楽しんで弾いています。

--今回、スタクラフェスに参加されますね。

桐原 オーケストラとして、共演するゲストの方々の音楽性や世界観に合わせていければいいなと思っています。

若田 芝生に寝転がったり、食べながら、飲みながら、フランクにクラシックが楽しめるので、ポップスのフェスと同じように、友人たちにも勧められます。一人でも多くの人に来てもらって、楽しい一日を過ごしてもらいたいですね。

若田典子(トロンボーン)

若田典子(トロンボーン)

飯尾 フェス形式は自由なので、クラシックは敷居が高いと思っている人に来ていただきたいですね。

--共演のアーティストでは誰が楽しみですか?

桐原 ピアノの反田(恭平)くんは昔からよく知っているので(注:反田は桐朋学園の高校で2年後輩)、一緒に演奏するのが楽しみです。反田くんはベートーヴェンの交響曲第7番の指揮もしますが、指揮の形なんかはどうでもいいから、自分の思い描く音楽を表現してもらいたいですね。オーケストラもそれに全力で応えたいと思います。

若田 編曲の岩城直也さんが同期で、面白い人なので、スタクラフェスでまたご一緒できるのが楽しみです。

飯尾 反田くんやヴァイオリンの小林美樹さんとの共演が楽しみです。二人は桐朋学園大学で一緒で、反田くんとはランチをする学生ホールでよく冗談を言い合っていました。こうして舞台で再会できるのがうれしいです。小林さんとは同い年で、よくやり取りしているのですが、共演は初めてで楽しみです。

飯尾久香(チェロ)

飯尾久香(チェロ)

--スタクラフェスでは何が楽しみですか? また、会場の横浜赤レンガ倉庫や横浜の街に思い出はありますか?

桐原 昨日、赤レンガ倉庫に行ったのですが、「あそこでやるのか、いろいろ思い切ったな」(笑)と思いました。クラシックが急に違う世界に飛び出した感じで、何が生まれるのか楽しみです。

若田 私は横浜が大好きで、クリスマスのデートは絶対、赤レンガ倉庫と決めています(笑)。赤レンガで演奏できるのは素敵。ブルーノートのジャズ・フェスティバルと同じステージで演奏できるのかと思うと興奮します。

飯尾 私もブルーノートのフェスティバルが好きで、それと同じ場所でクラシック?と始めは驚きました。驚きの多い企画なので、本番も楽しみです。

--最後にメッセージを。

桐原 クラシックは、一度聴きに来ていただければ、二度、三度とどんどんはまっていく音楽だと思います。今回のスタクラフェスが、最初の一回の素敵な経験になるように頑張りますので、是非、来てください。

若田 クラシックで、野外のフェスティバルをやるので、自由なスタイルで聴いていただければと思います。若い人から、大人、子供まで、みんなで楽しい一日を過ごしましょう。

飯尾 何でも入口が大事だと思うので、初めの一歩として、聴いていただきやすい曲を演奏します。気軽にいらしていただければ、うれしいです。

【動画】STAND UP! ORCHESTRAさんよりメッセージ

取材・文=山田治生  写真撮影=福岡諒祠


快活に自由に届けられた弦楽四重奏の調べ「アレグロカルテット」

$
0
0

「サンデー・ブランチ・クラシック」2018.6.24ライブレポート

クラシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう! 小さい子供も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK! そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のランチタイムコンサート「サンデー・ブランチ・クラシック」。6月24日に登場したのは、このサンデー・ブランチ・クラシックの為に結成された弦楽四重奏団「アレグロカルテット」の面々だ。

ソリストとして活躍しているヴァイオリン奏者の鈴木舞と伊藤亜美、ヴィオラ奏者の安達真理、チェロ奏者の内田麒麟が、「カルテットをやりたい!」という鈴木の呼びかけのもと結集。実に「ものの1時間で」話がまとまり「アレグロカルテット」としての初披露を、リビングルームカフェ&ダイニングのステージで果たしてくれるという、魅力的な企画に、カフェの熱気も大いに高まった。

スタンドアップの演奏に独特のスタイルを感じさせるカルテット

そんな空気の中に登場した「アレグロカルテット」は、女性陣が全員鮮やかな真紅のドレス姿。まるでカフェに一気に花が咲いたように艶やかな上に、女性たちが立ったままというのが、カルテットとしては珍しい興趣を生む。チューニングの音から期待感がいっぱいになっての1曲目は、モーツァルトの「ディベルティメント K.136」モーツァルトの弦楽四重奏曲の中で最も有名な楽曲だ。
第1楽章は、モーツァルト独特の弾むような明るさ、楽しさがそれぞれの楽器の掛け合いから立ち上り、まるで浮き立つような心持ちになる。「アレグロカルテット」が登場した時からカフェに放たれた華やかさが、一層高まり輝かしい雰囲気に包まれた。
第2楽章に入ると、落ち着いたメロディーにもカルテットならではの厚みがあり、静けさと同時に豊かな響きが楽しめる。鈴木の第1ヴァイオリンの高音が澄み切って美しく奏でられ、そのメロディーを伊藤の第2ヴァイオリン、安達のヴィオラ、内田のチェロのハーモニーが温かく引き立てて呼応するのが素晴らしい。
第3楽章は軽快で快活な、モーツァルトの音楽に常にあるどこかでは音で遊んでいるような感覚が際立つ。弾むリズムの楽しさ、聴く者の心を浮き立たせるスタッカートがピッタリと合い、豊かに歌うメロディーとの対比がキラキラと感じられる演奏に大きな拍手が湧き起こった。

(左から)鈴木舞(Vn)、伊藤亜美(Vn)、内田麒麟(Vc)、安達真理(Vla)

(左から)鈴木舞(Vn)、伊藤亜美(Vn)、内田麒麟(Vc)、安達真理(Vla)

 (左から)鈴木舞(Vn)、伊藤亜美(Vn)

(左から)鈴木舞(Vn)、伊藤亜美(Vn)

(左から)内田麒麟(Vc)、安達真理(Vla)

(左から)内田麒麟(Vc)、安達真理(Vla)

その拍手の中まず鈴木が挨拶。今日はじめて4人で演奏する「アレグロカルテット」ですが、普通と違うところはヴァイオリンとヴィオラが立って演奏するというスタイルです。ヴァイオリニストは普段から立って演奏しているので、座って弾くよりも自由に演奏することができます。という説明があり、なるほどと納得するものが大きい。
続いて安達が冒頭に演奏したモーツァルトの「ディベルティメント」について、この時代は貴族が音楽家に作曲を依頼して演奏させていた。例えば食事の時に楽団に演奏させたりというところから生まれた曲がほとんどなので、お食事をされながらお客様がクラシックを聴くという、サンデー・ブランチ・クラシックの趣旨にピッタリだと思い選んだものですと解説。「このあとも是非気軽に聴いてください」と呼びかけつつ「真っ赤なドレスで熱い感じですが」と笑わせる一幕も。

(左から)鈴木舞、伊藤亜美

(左から)鈴木舞、伊藤亜美

(左から)鈴木舞、伊藤亜美、内田麒麟、安達真理

(左から)鈴木舞、伊藤亜美、内田麒麟、安達真理

続いて演奏されるドヴォルザークの「アメリカ」について、ドヴォルザークという作曲家は今でいう「鉄道マニア」で、当時ちょうどSLが登場したばかりの時代でそれを見るのがすごく楽しみだったという人なので、リズムの刻みに汽車の音がイメージされている部分がたくさん出てくるのでそれを感じてもらえたら、という話があり、いよいよドヴォルザーク 弦楽四重奏曲「アメリカ」第1楽章の演奏がはじまる。

自由でいながらピタリと呼吸のあった演奏の妙味

ヴィオラの深い音から奏でられた主題が、ヴァイオリンの輝く高音へと受け渡され、心に響くどこか郷愁を感じさせるメロディーは、徐々に厚みを増していく。それは確かに汽車の旅の途中で様々に出会う光景を想起させ、人の声に極めて近い弦楽器が共に歌いあうことで、言葉のない歌を聴いているかのよう。強弱の変化、巧みな表現力が感じられる豊かな演奏になった。

鈴木舞

鈴木舞

伊藤亜美

伊藤亜美

安達真理

安達真理


内田麒麟

内田麒麟

そこから続いて、ブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」へ。誰もがどこかでは耳にしたことがあるだろうお馴染みのメロディーは、テンポの揺れ動きと変化に独特のものがあるが、4人全員がアイコンタクトでピッタリと息を合わせるのがライブ感にあふれ、聴いていても気持ちが高揚してくる。冒頭のメロディーが再びあらわれる後半には演奏の自由度は更に増して、それぞれの掛け合いがまるでセッションのよう。クライマックスへと駆け上り、最大の盛り上がりを見せたフィニッシュに、大歓声と「アンコール!」の声が響いた。

(左から)安達真理(Vla)、鈴木舞(Vn)、内田麒麟(Vc)、伊藤亜美(Vn)

(左から)安達真理(Vla)、鈴木舞(Vn)、内田麒麟(Vc)、伊藤亜美(Vn)

喝采に応えて登場した4人は、「リベルタンゴ」を代表曲とするアルゼンチンの作曲家アストル・ピアソラの「ギター二重奏のためのタンゴ組曲」を内田が弦楽四重奏曲にアレンジし、今回が初演となるものをアンコールとしてお届けしますという心躍る発表が。3曲の組曲のうち、2曲目と3曲目が披露される。
1曲目は哀愁のメロディーがたっぷりと奏でられ、ヴァイオリンの高音、ヴィオラの深み、チェロの厚み、いずれもが美しい。全員でのピチカート奏法が入るのが非常に効果的で耳を奪われた。
続いた3曲目はピアソラらしい激しいリズムの刻みが連なり、全員の息があった心地よい緊張感が広がる。それぞれの奏者の技術の高さ、表現力と感性の豊かさがふんだんにあふれ、どこかではミステリアスな香りも放ちながら高みへと盛り上がった鮮やかなフィナーレに「ブラボー!」の声が飛び交った。

(左から)内田麒麟(Vc)、安達真理(Vla)、伊藤亜美(Vn)、鈴木舞(Vn)

(左から)内田麒麟(Vc)、安達真理(Vla)、伊藤亜美(Vn)、鈴木舞(Vn)

自由度の高い弦楽四重奏という新たな喜びを存分に届けてくれた40分間だった。

音楽をやっていて良かったと思えた、4人の生んだ化学反応

演奏を終えた4人にお話しを伺った。

ーー素晴らしい演奏をありがとうございました。今日のリビングルームカフェ&ダイニングの印象はいかがでしたか?

安達:私はお客さんの立場で来たことがあったので、ここの雰囲気は知っていたのですが、弾く側になってみるとライトも結構本格的ですし、ライブ感もあって面白かったです。

内田:お客様が入ってもう少し響き的に弾きにくくなるのかな? と思いきや全くそんなこともなく、とても弾きやすかったですね。わりと僕はこんな風にお客様が近いところで弾くことが多いので、やっぱりお客様が近くてお顔が見えるのは良いなぁと思いました。

内田麒麟

内田麒麟

鈴木:ここでは何回か演奏させていただいたのですが、これまではピアノとの共演だったのでピアノが後ろに下がっている状態で弾くのは初めてで。いつもピアノとのバランスを気にしながら弾いていましたが、今回弦楽器ばかりなのでいつも以上に伸び伸びと演奏できたような気がします。お客様もアンコールが終わった時には満面の笑みで拍手してくださったのが印象的でした。

伊藤:最初突然モーツァルトを弾いたので、お客様が「あ、クラシックが始まった!」と少し身構えてしまわれた部分もあったのかな? と思ったのですが、その雰囲気を1曲1曲崩していけた気がします。ステージも結構広いので、今日は立って演奏したのですが、かなり自由に動きながら演奏できたのが私たちも楽しかったです。演奏以上に演じている感じで楽しかったです。

鈴木:飛び跳ねたよね(笑)

内田:シンコペーションの途中でね(笑)

伊藤:私も色々な編成で演奏させていただくのですが、セカンドヴァイオリンという立場で弾くことが1番少ないので。

安達:ヴィオラも弾くものね。

伊藤:そうヴィオラで入ることも多くて、セカンドヴァイオリンって1番「時々美味しい」というパートなので(笑)、自分の役目が出てきた時にちょっと気合が入り過ぎちゃって飛び跳ねちゃった。

安達:そういう事情が(笑)。

伊藤:そう(笑)。でもそんな雰囲気も許してくれるような自由度で幸せでした。

ーー今お話しにもありましたように、皆さん立って演奏されたのがとても印象的でしたが。

安達:ヴァイオリンの2人は普段ソリストでやっているので、やはり立って演奏する時の体重の乗せ方や、音の出し方、またオーケストラとの共演での指揮者に対する指示の出し方、今回のような室内楽でしたら私たち共演者へのアプローチの仕方が立っていた方がずっと自然なんですね。それが伝わってきて立っている方がずっと躍動感が出るので、チェロの人さえ気まずくなければ(笑)、この形が良いんですよね。

安達真理

安達真理

内田:いや僕も本当は立って弾きたいんだけど(笑)。

伊藤:リハーサルでは1回立ったよね?

安達:そう立って弾いてたね。チェロも台に乗っちゃって皆で立つというカルテットもあるんだけど、今日はそこまではね。

伊藤:1番最初は皆で椅子を並べて座って弾いてみたんだけど。

安達:2曲目から皆だんだん立ちはじめて、(鈴木)舞ちゃんも「立っても良い?」って言ってね。

ーーそれに対して内田さんは「どうぞ、どうぞ」と?

内田:もちろん皆さんの自由にしていただきたかったので。

安達:その辺が非常にフレキシブルなチェリストなので。

ーーものの1時間で結成されたカルテットです、ということでしたが皆さんがアイディアを出しながら?

安達:本当にアイディアを出していったら1時間で決まったという(笑)。元々舞ちゃんが連絡をくれて。

鈴木:カルテットをやりたいと考えた時に、真っ先に浮かんだのが(伊藤)亜美ちゃんと(安達)真理ちゃんで、じゃあチェロはどうしよう、紹介して! と頼んだんです。

伊藤:それで「どんな曲がやりたいの?」と訊いたら、タンゴもあったら良いねという話が出てきたので、そういう熱い曲もやりたいということだったらと、学生時代から色々とやってきたウッチー(内田)がいいんじゃないかな? と。舞ちゃんが品格系のタイプだから、ウッチーのアグレッシブな感じが面白いと思って。

安達:美女と野獣的な?(笑)。

内田:いや、でも安達さんもわりと暴れん坊系じゃない?(笑)

伊藤:舞ちゃん以外は暴れん坊だよ(笑)。でも意外と(内田)麒麟が1番優しいんじゃない?

鈴木:そう、麒麟は1番優しい!

鈴木舞

鈴木舞

内田:いや「おいおいおい、皆落ち着け!」と言ってただけ(笑)。

安達:すごく良い化学反応が起きたよね。たまたま今回ウッチーの自宅に連絡した時に「タンゴもやりたいみたいで」と言ったら、アンコールにやったピアソラを編曲したところの、できたてほやほやで。

内田:そうそう。

安達:もうこれはやるしかないよ! となって、トントン拍子とはこのことでした。

ーーそんな風に良い流れに乗ってできた「アレグロカルテット」として今日演奏してみた手応えはいかがでしたか?

安達:皆誰がどう出ようと大丈夫という信頼感と自由度の高いメンバーで、それぞれが好きなことをやってもパッと反応できるので、率直に楽しかったですね。このメンバーで弾くのは初めてだったのですが、最初から不安は全くなかったですし、思ったように本番ができました。

鈴木:真理ちゃんが言った通り信頼できるメンバーなので、音楽をする楽しみと言いますか……。

安達:言葉の端々にロイヤル感が!

内田:良いじゃない、ロイヤル!(笑)

鈴木:室内楽をやる時ってファーストヴァイオリンがリードして皆がそれに合わせるというパターンになることが多いのですが、このメンバーだとどんどん皆からインスピレーションを与えてもらえて、それが積み重なって音楽が豊かになるという感覚がリハーサル、本番を通してずっとありました。

ーー聴かせていただいていても、セッションのようだなという感覚は大きかったです。

安達:途中からロックな感じだったよね(笑)。「ハンガリー舞曲」なんかは完全にロック!

伊藤:私も皆も、それぞれに弦楽四重奏に対する強い想いがあって、ものすごく確立されたバランスの良い編成なんです。でもそれだけにすごく難しくて、作曲家も創る時には悩みます。ヴァイオリン×ヴァイオリン×ヴィオラ×チェロというのは音楽の黄金期みたいな感じなので。それに取り組むのは本当は時間のかかることなのですが、このメンバーは各々が経験を積んできていて、私もそれぞれとデュオをやったことがありましたし、そういうメンバーがパッと集まった時に、弦楽四重奏でこんなにも自由にできるんだ!というのが想像以上だったんです。自分でもびっくりしたような感覚だったので、これは続けていきたいなと思っています。だいたい連絡したら「曲を書きあげたところ」って「話が出来過ぎだろう?」くらいだったので。

伊藤亜美

伊藤亜美

内田:本当に楽しいの一言でしたよね。あー音楽やっていて良かったなとか、チェロやっていて良かったなとか。

鈴木:すごい! 原点!

内田:生きてて良かったなくらい楽しかったし、舞ちゃんが言ったようにどんどん音楽が重なって、これでお客様が楽しくない訳がないと思えましたし、演奏していてただただ楽しかったですね。

安達:幸せなものが共有できましたね。

ーーでは「アレグロカルテット」としての活動も続けていただけると期待して良いのでしょうか?

伊藤:続けたいよね。

鈴木:是非やりたいです。

安達:ちなみに「アレグロカルテット」は1時間で話が決まったカルテットなので、速度標語の「快活に速く」という意味で「アレグロ」と名付けたので。

伊藤:「プレスト」(極めて速く)だよね(笑)。

安達:「プレスト」が最上級の速さなのですが、語感的に「アレグロ」とね(笑)。でもこのメンバーで、このリビングルームカフェで最初にやれたのは本当に良かったです。

ーーでは個々の活動もたくさんおありでしょうが、是非また「アレグロカルテット」としてもサンデー・ブランチ・クラシックにいらしてください!

安達:是非お願いします!

鈴木:ありがとうございました!

(左から)内田麒麟、伊藤亜美、鈴木舞、安達真理

(左から)内田麒麟、伊藤亜美、鈴木舞、安達真理

取材・文=橘涼香 撮影=岩間辰徳

【動画あり】スタクラフェス総合司会&ピアノ演奏の松下奈緒に聞く~『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018』<What's “スタクラフェス”?>

$
0
0

 

<What's “スタクラ フェス”?> Artist Close-Up ③ 松下奈緒


来たる2018年9月23日((日・祝)秋分の日、『イープラス Presents STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018』(略称 “スタクラフェス” )が、横浜赤レンガ倉庫の特設会場にて開催される。会場には3つの野外ステージ(HARBOR STAGE/GRASS STAGE/Sunday Brunch Classic Stage)が設けられ、午前10:30~午後8:30まで10時間にわたり、気鋭の演奏家たちにより、クラシックのよく知られた名曲からオペラ、ミュージカルの名曲、さらにはスタジオジブリの音楽まで、多種多様なプログラムが繰り広げられる。クラシックのコンサートといっても決して堅苦しいものではなく、屋外で潮風を感じながら、食べたり飲んだり、時には寝そべりながら、多様な音楽を気軽に楽しめるのが、このフェスの特徴だ。

そのような規模の大きいフェスにおいて、全体の総合司会をつとめるのが、女優でピアニストの松下奈緒だ。そればかりか、彼女は、ピアニストとして「クラシック in アニメ」(HARBOR STAGE 14:10~15:10)にも出演する。そんな、スタクラフェスの顔ともいえる松下に、イベントに対する思いを聞く機会を得た。

──スタクラフェスという、新しいタイプの野外クラシック音楽フェスティバルで、松下奈緒さんは総合司会という、最も重要な役目を務めることになりました。まず、このフェスの話を最初に聞いた時、どのようなイメージを抱きましたか?

ロックやポップスではなく、クラシックというアコースティックなジャンルの音楽を野外で聴くというのは、日本では本当に珍しいことだと思いました。私は、アメリカのマサチューセッツ州で行われているタングルウッド音楽祭に行ったことがあるのですが、これが本当に凄かったんですよ! 風が吹くと、それによって聴こえ方も全く変わります。ステージからかなり遠い場所でも「こんなに遠くまで?」と驚いてしまうほど最後の音までよく聴こえました。クラシック音楽のパワーを改めてそこで感じさせられました。

ただ、やはり楽器は繊細ですので演奏家の方々は心配なこともあると思います。それでも今回、皆さんが「このフェスティバルを是非成功させたい!」という思いで集まってくださるのは、凄いことだと純粋に思います。このフェスが実現することによって、ちょっと敷居が高いと思われがちのクラシック音楽をオーディエンスの皆様に身近に感じて頂けたら嬉しいですね。

──そのためにも、松下さんが参加してくださることはとても大きな力になります。これまで大きな番組などで司会を務めたことのある松下さんですが、今回、総合司会及びピアニストとしてスタクラフェスへの参加オファーを受けた時にはどんな思いが頭をよぎりましたか。

音楽のライブイベントに呼んで頂けてとても嬉しく思います。普段、私もライブをさせていただいていますが、プラス司会となると違う緊張感も出てくるなっ。と思いました。私自身も大いに楽しむつもりでいます。司会は久しぶりで、きっとお客様に助けていただく部分も大きいだろうと思いながら、頑張りたいと思います。

──お客様にとっても、目の前に松下さんがいらっしゃるというのは、とてもエキサイティングなことです。

緊張します! 演奏するよりも緊張するんですよ、司会って!(笑)。

──楽器に向かわれている時の方が楽なのですね。

もう、全然気持ちが違います。そこにしか神経がいっていないですし、ピアノが前にあるのは長年共にやってきた相棒が一緒にいるということでもあるので。でもその場を楽しむことさえ忘れなければ大丈夫だ、と信じている部分もあります。だから当日を存分に楽しみたいですし、自分にとってもすごく刺激的な日になると思います。

──演奏者としての松下さんは、HARBOR STAGEでの「クラシックinアニメ」に出演されます。『のだめカンタービレ』や『四月は君の嘘』など、クラシック音楽を学ぶ人々を描いたアニメが人気を博し、クラシック音楽界に対してより広い注目が集まるようになりました。クラシック音楽を学んでこられた松下さんご自身は、思い出に残っているアニメ作品などはありますか?

『のだめ…』はずっと観ていました。音楽大学が舞台になっているので、自分が音大生だった時代を思い出します。登場人物のキャラクターに「あぁ、こういう人いたな!」と思ったりしていました(笑)。音楽の中でも特にクラシックには「未知の世界」感が強いという気がするのですが、それをすごくわかりやすく楽しく描かれていましたね。登場する楽曲を通じて作曲家の音楽を知るようになったり、「この曲はこういう風にしてできた曲なんだ」ということが、本で読むよりも心に残りやすかったりします。そういう意味でもクラシック音楽の世界をアニメで観ていただけるというのは、クラシック音楽を勉強した者として、とても嬉しいことです。

──ご覧になっていて共感する部分も多かったのでは?

ドラマや映画ですと自分も女優として演じる側の気持ちもわかるので「この演奏シーンの撮影は大変だったろうな」と思ったり。また、「クラシック音楽は決して難しくないものなんだよ」というメッセージは常に自分の中にもあることなので、そういった部分にはとても共感できました。

──今回「クラシックinアニメ」のステージで演奏される曲については当日のお楽しみと伺っていますが、演奏に向けて考えていることは何かありますか?

オーケストラの皆さんと一緒に演奏できるので、本当に華やかなステージになるだろうなとワクワクしています。CDで聴く音楽とは違う、野外の生演奏ならではの音の圧も皆様に感じていただけたら嬉しいですね。

──屋外での演奏経験はおありですか?

つい先日、福岡の護国神社で演奏してきたばかりなんです。拝殿を背にして、6000人のお客様の前で演奏をしてきました。その時が初めての野外フェスでの演奏で、ピアノの鍵盤がとても熱くなっていて、びっくりしましたね(笑)。

──陽が当たっていたんですね。

私の演奏時間が16時~17時くらいのところだったので、西日がすごく当たって(笑)。これまでは室内でしか演奏していなかったので開放感があり、気持ちはとても良かったんです。ただ、熱いなと(笑)。でも外で演奏するのって、ピアノの場合は家でも無理なことですから(笑)。

──持ち運べない楽器ですものね。

そうなんです。それだけに、あれほど広いところで演奏できるというのは、とても気分が高揚しました。照明ではない自然の明るさの中でやれるという喜びを感じられて、とても面白かったです。ただ、皆さん汗まみれになっていましたね(笑)。夏にしか味わえない経験ができ、とても良い思い出になりました。

──そうすると、今年は野外の演奏に縁のある年ということになりますね。

護国神社の演奏がとても楽しかったので「病みつきになりそう!」と言っていたところでした。だから、とても嬉しいですね。場所も違えば音も違うと思いますし、心配なのはお天気だけです。「晴れて欲しい!」と願っています。

──お客様の立場でスタクラフェスを楽しむとすれば、どんな楽しみ方が考えられますか。

本当に盛りだくさんのステージが目白押しなので、スケジューリングが大事だなと思います。このアーティストを絶対観たいとか、この音楽を絶対に聴きたいというものをまず先に押さえて、そこから計画を立てていくといいですよね。暑さ対策もありますから、どんな服装でいくかも考えます。あとは、その場その場で思い立ったところの演奏を聴いたり、ちょっと疲れたら飲んだり食べたりして休んだり、1日中自由に楽しめるイベントだと思います。私もアーティストの皆さんが、野外でどんな演奏をなさるのか、どんなステージを創られるのかとても大きな関心があります。

──会場となる赤レンガ倉庫や横浜界隈で行ってみたい場所、またお客様におススメしたいスポットやお店などはありますか?

やっぱり中華街です! 横浜と言えば中華街ですよね。大好きです! 初めて鯉を食べたのも中華街でした。「鯉って食べられるんだ」とびっくりしました。池にいる鯉とは全然違うそうですが、とても美味しくて。横浜にはドラマのロケなどでもよく行きます。海も近いし、きっと夕方から陽が落ちていくと景色も変わるでしょうから、サンセットの光景も綺麗だろうなと思います。また、みなとみらいの夜景もムードたっぷりですよね。

──最後に読者の方々に向けて、お誘いのメッセージをお願いします。

野外で聴けるクラシックの素敵なイベントになると思います。音が潮風に乗り会場の外から「何か聴こえる?」と思って来てくださる方もいらっしゃるのではないでしょうか。無料で聴けるステージもありますので、是非、気楽にいらしていただきたいですね。この野外フェスをきっかけにクラシックに興味を持ってくださる方が増えてくれたら本当に嬉しいです。会場でお待ちしております!

【動画】松下奈緒さんよりメッセージ

取材・文=橘涼香  写真撮影=中田智章

『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018』(スタクラフェス)はこんなにも楽しい! イラストレーター春原弥生がキュートなイラストで紹介!

$
0
0

2018年9月23日((日・祝)秋分の日、『イープラス Presents STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018』(略称 “スタクラフェス” )が、横浜赤レンガ倉庫の特設会場にて開催される。日本初開催となるクラシックの祭典をかわいいイラストで人気を博す、イラストレーター・漫画家の春原弥生が紹介してくれた。

「どんな服装で行けばいいの?」

「子供を連れて行っていいの?」

「フェスって飲んだり食べたりできるけど、スタクラフェスもできるの?」

といった、気になることやどうしたら満喫できるかをイラストとともに解説。

また、スタクラフェスのすごさや出演するアーティストたち、そしてチケットのお得さなども紹介し、魅力を伝えてくれている。

本フェスティバルは松下奈緒が総合司会を務め(彼女はピアニストとしても出演)、ほかに青島広志、上野耕平、サラ・オレイン、反田恭平、宮本笑里(以上、50音順)ら数多くの音楽家たちが出演し、若手からベテランまで業界が一丸となって、魅惑のクラシック・サウンドを届けてくれる。9月23日は家族や友人を誘って横浜赤レンガ倉庫でクラシックしよう!

スタクラフェスの松下奈緒インタビュー、『生きる』のMay'n×唯月ふうかなど【8/21(火)〜8/23(木)のオススメ舞台・クラシック記事】

$
0
0

SPICE・8/21(火)〜8/23(木)オススメの舞台・クラシック記事


 

↓記事はこちらをチェック↓
▼スタクラフェス総合司会&ピアノ演奏の松下奈緒に聞く~『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018』
https://spice.eplus.jp/articles/197385

▼May'n×唯月ふうかがWキャストで二役を交互に演じるミュージカル『生きる』
https://spice.eplus.jp/articles/201963

▼三島由紀夫原作『命売ります』が初の舞台化 東啓介×上村海成が作品への思いを語り合う
https://spice.eplus.jp/articles/202482

▼問題作『スリル・ミー』で、成河が福士誠治と共に新たな“私”と“彼”の関係性に挑戦
https://spice.eplus.jp/articles/198528

▼串田和美にインタビュー、『兵士の物語』を再び!
https://spice.eplus.jp/articles/204522

▼松岡昌宏に草笛光子がラブコール!『新・6週間のダンスレッスン』製作発表会見
https://spice.eplus.jp/articles/204306

 

▽そのほかの記事はこちらから▽
舞台:https://spice.eplus.jp/articles/play
クラシック:https://spice.eplus.jp/articles/classic

 

東京二期会プッチーニ「三部作」公演に向けてプレ・イベントを開催 プレ講座&ミニ・ライブで名曲の数々に客席が酔いしれた

$
0
0

9月に東京二期会が上演するプッチーニ「三部作」公演に先立つプレ・イベントとして、プレ講座&ミニ・ライブが8月16日にすみだパークギャラリーSASAYAにて開催された。満席となった客席は、プッチーニと『三部作』についての解説に聞き入り、プッチーニの名曲の数々の生演奏に酔いしれた。

講座に登壇したのは、テノール歌手の高田正人。NHK「ラジオ深夜便」“ミッドナイトオペラ”に出演中で、甘美な歌声と知的でわかりやすい解説が好評を呼び、人気沸騰中の話題の歌手だ。「三部作」には、『外套』の〈流しの唄うたい〉役で出演する。

東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から

東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から

プッチーニの生涯と作品

前半は、高田によるプッチーニの生涯と作品についての話。宗教音楽の作曲家の一家に生まれながら、ヴェルディ作曲の『アイーダ』との出会いによって、オペラ作曲家を目指したプッチーニ。生涯で12本のオペラを遺したが、『マノン・レスコー』『ラ・ボエーム』『蝶々夫人』『トスカ』……など、多くの作品がイタリア・オペラ界に燦然と輝く傑作となった。

高田は、プッチーニがオペラ作曲家として活動していく様子を、イタリアの街並みをスライドに映しながら巧みに解説した。

東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から

東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から

東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から

東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から

途中、プッチーニの代表作から『トスカ』の〈星は光りぬ〉を披露。銃殺される直前にカヴァラドッシが、空に輝く星に向かって、愛するトスカを想いながら歌う珠玉のアリアだが、高田の伸びやかで熱のこもった歌声に聴衆は魅了された。会場の雰囲気が、一気にオペラの世界に変わったのを感じた。

続いて、プッチーニの人生にとって重要な出来事となっていく、エルヴィラとの結婚についての話に移る。プッチーニは、すでに別の男性と結婚していたエルヴィラとのミラノへの駆け落ちをして、その20年後に正式に結婚する。しかしその後、プッチーニの自動車事故をきっかけに、エルヴィラは看護をする女中ドーリアとプッチーニの浮気を疑い、彼女を責め立てた。事実は潔白であったが、気を病んだドーリアは自殺してしまい、エルヴィラは遺族から訴えられることとなる。

イタリア中の大きな話題となり、後に映画の題材にもなったスキャンダラスな事件だったが、プッチーニのその後の作品に大きな影響を与えることとなった。一説には自殺したドーリアの面影が「三部作」の『修道女アンジェリカ』や未完の遺作となった『トゥーランドット』のリューに反映されているとも言われている。

東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から

東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から


東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から

東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から

プッチーニを代表するこれらの作品の背景にあったエピソードを、聴衆も興味深く聞き入っていた。

前半のラストには、ミラノを拠点に活躍するソプラノ歌手で、「三部作」出演のために帰国している新垣有希子が『トゥーランドット』の〈リューのアリア〉を歌った。プッチーニが人生の最後に書いたアリアであり、短剣で自らの胸を刺して死ぬ間際のリューの痛切な想いが、新垣の澄み切った美声を通して、見事に表現され、胸を打つものがあった。

「三部作」について

後半は、いよいよ今回の講座の本題である「三部作」についての話だ。

「三部作」は、『外套』『修道女アンジェリカ』『ジャンニ・スキッキ』という3つの作品からなる。

プッチーニは、この作品を地獄篇/煉獄編/天国編と三部からなるダンテの『神曲』から着想を得たと言われている。『神曲』の暗・暗・明という構成は、『外套』『修道女アンジェリカ』が悲劇、『ジャンニ・スキッキ』が喜劇というつくりと相似形をなしている。また、『ジャンニ・スキッキ』の話は、地獄篇 第30歌をモチーフにしており、『神曲』から大きな影響を受けていることがわかる。

「三部作」の一つひとつの作品には、物語上のつながりはない。『外套』の舞台は、1910年のパリ。『修道女アンジェリカ』は、17世紀末イタリアのとある修道院。『ジャンニ・スキッキ』は、1299年のフィレンツェ。それぞれの作品の時代も国も違い、舞台美術や衣裳もまるで異なったものが必要となるため、公演規模は大きくならざるを得ない。これが、3作品が通して上演されることがなかなかない大きな理由のひとつだ。

天才演出家ダミアーノ・ミキエレットが見出した共通点

しかし、今回演出するダミアーノ・ミキエレットは、3つの作品の共通項を見出し、現代のひとつの連続した作品に仕上げた。その共通項が《親子》というキーワードだ。それぞれの作品には、何かしらの形で《母と息子》また《父と娘》の関係性が描かれている。最後の『ジャンニ・スキッキ』で、娘のラウレッタが〈わたしのお父さん〉を歌い、父の許しを得ることになるが、それが何故なのか。その答えは、この3作品を通した《親と子》というキーワードの連鎖とつながってくるとのことだ。劇場でぜひとも確かめてほしい。

また、同じ歌手がそれぞれの作品で別の役を演じることで、まったく違う役でありながら、どこかに共通点やつながりが見えてくる演出的な仕掛けもあるとのこと。通奏低音のように響き続ける共通のイメージを探りながら観るのも面白いだろう。

プッチーニ音楽の魅力を存分に堪能

イベント終盤には、テノール歌手で本公演のカヴァーキャストの一人である菅野敦が登場。数多あるプッチーニのアリアの中でも最も有名であろう『トゥーランドット』の〈誰も寝てはならぬ〉を披露した。フィギュアスケートでも多く取り上げられる人気曲だけあって、曲目を発表しただけで客席がざわついたのが印象的だった。聴衆の期待感が高まる中、豊かな声量と真摯で瑞々しい歌声が会場に響き渡った。

東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から

東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から

感動的な空気が客席に広がり、目頭をハンカチで押さえる観客も散見した。

菅野は近年『ダナエの愛』ミダス役での主演したほか、『ばらの騎士』『ローエングリン』などでもその実力を遺憾なく発揮しており、二期会歌手の層の厚さを改めて感じた。

東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から

東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から

ラストは、再登場した新垣有希子の『ジャンニ・スキッキ』から〈私のお父さん〉、そして高田正人との〈ラウレッタとリヌッチョの二重唱〉の熱唱でイベントを締めくくった。満席の客席からは鳴りやまない熱い拍手が贈られた。

東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から

東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から

《講座》と題名は付いていたが、オペラの専門的な知識がなくても分かりやすく楽しめ、そして興味をそそられる内容だった。ユーモアたっぷりの高田の語り口は親しみが持て、終始和やかな雰囲気をつくり出し、随所で笑いを取った。普段、舞台の上でしか見られないオペラ歌手と実際に接することで、よりオペラを身近に感じられるきっかけになるイベントだったと思う。こうしたイベントは、敷居が高いと思われがちなオペラの世界の裾野を広げる非常に大切な取り組みであると感じた。

「三部作」は9月6日~9日まで新国立劇場オペラパレスにて上演される。二期会が「三部作」を通し上演するのは1995年以来。数少ない貴重な上演をお見逃しなく!

Viewing all 4631 articles
Browse latest View live