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チェリスト・新倉瞳と歌舞伎俳優・尾上松也による『響 -ひびき-』 異なるジャンルの二人が新しい響を生み出す

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スイスに拠点を置きながら幅広く国内外で活躍している、チェリスト新倉瞳。

2018年7月14日に上演される、新倉瞳・尾上松也による、異色のコラボレーション公演『響 -ひびき-』について、なぜこの二人で上演することになったのか、内容の斬新さや、公演に向けての意気込み等の話しを聞いた。

ーー新倉さんと尾上さんによる『響 -ひびき-』は異色のコラボレーションによる、音楽劇とお聞きしました。改めて、どんな公演なのでしょうか。

尾上さんが持っている歌舞伎の技と、私が持っているチェリストとしての技が合わさった時に生まれる、新しい響、という意味で、今回『響 -ひびき-』という名前をつけました。その名前の通りに、新しい響きを皆さんにお届けできるような公演になるようにと思っています。

ーー新倉さんと尾上さんは、同じ芸術分野ではありますが、普段はコラボレーションする事のない斬新な組み合わせのように思いますが、どの様に出会い、またどのようにこの音楽劇『響 -ひびき-』は生まれたのでしょうか。

尾上さんとの出会いは、「クラッシック・ロックアワード」の司会を共にした事がきっかけで、その際に「いつか本業でも何かご一緒出来ると良いですね」と言葉を交わしたのですが、その後お友達として仲良くさせて頂くうちに尾上さんの歌舞伎自主公演を観劇し、おこがましくも共通する志を感じたので新しいことをご一緒して頂きたいと思いきってお願いしたところ、快く引き受けて下さり「響 ーひびきー」が生まれました。​

新倉瞳

新倉瞳

ーー「音楽劇」の企画の経緯を教えていただけますか?

私が暮らすヨーロッパのチューリッヒで、ショスタコーヴィチのオペラを鑑賞した際、トランペット奏者がピエロの役で出てきたのをみて、奏者も演者になることがあるということを知りました。そこで「音楽劇」にチャレンジして見たいと思うようになり、尾上さんに相談させて頂いたことがきっかけでした。

ーーこの「音楽劇」の題材に「セロ弾きのゴーシュ」を選んだ理由をお聞かせ下さい。

今までに、「セロ弾きのゴーシュ」を何回か朗読の方とご一緒し、演奏したことはあったのですが、宮沢賢治の物語を違う視点から描きたいという思いがありました。

ーー公演のチラシに、"普通のコラボレーションに留まらず新しい形態の舞台を魅せる事でしょう"とありますが、この公演の新しさのポイントとは、どういったところにありますか?

「まだ誰も見たことのない芸術」という事に重きを置いています。舞と音楽のコラボレーションには留まらず、尾上さんだからできること、そして、私だから出来ることがしっかりと表現できる舞台にしたいと思っています。

例えば、尾上さんは声優、ドラマ、ミュージカルとご活躍の場を広げ​、新しいことにどんどん挑戦していらっしゃいます。そんな尾上さんのご活躍を拝見し、大変刺激を受けております。新しいことへのチャレンジする情熱のような部分が生かされた舞台にしたいと思っています。

ですが、そんな多彩な尾上さんにとってもクラシック音楽とのコラボレーションは初めてのことでいらっしゃるそうですので、ただ、ご一緒しましたではなく、お互いの大元に還元できる舞台にしたいという気持ちがとても大きいです。

『響 -ひびき-』

『響 -ひびき-』

ーーまた、スイスに拠点を置いている新倉さんと、日本に住んでいる尾上さんにとって、お互いに多忙でかつ遠距離ですが、どのようにコミュニケーションをとっているのでしょうか。

尾上さんも大変ご多忙で、私もスイスに住んでおりますためなかなかお会いすることが出来ませんが、帰国する度に、「二人で何ができるか」ということを相談していました。海外からも連絡をとっておりましたが、一番話が進むのは、お会いしてお話しすることでした。

それと、私はチェリストとしてはプロですが、舞台の事となると素人なので、振付の先生、脚本家の先生に関しては全て尾上さんにお任せしました。私は、こういうことができるけれど、それをどうしましょう? と尾上さんへお伝えし、それを尾上さんが持ち帰り悩んで下さって、「某(それがし)はセロである」が生まれたのです。

ーー最後に、この公演の魅力、見どころ、聴きどころなどを読者の方にお知らせ下さい。

今回、サントリーホールのブルーホールで上演するので、何千人規模の何日間もある公演というわけではございません​。大きなホールではない一回公演であるからこそ、どちらかというと、ほのぼのしたアットホームな距離感で出来るのではないかと思っています。サロン的な要素も強いので、これから始まる新しくスタートするものとして、お客様にはそのスタートに立ち会っていただき、また今後の新しいことに興味を持って頂けましたらありがたいなと思っています。

新倉瞳と尾上松也、同世代の二人が生み出す『響 -ひびき-』は、まさに技と技がぶつかり合い、新しい響を生み出すことだろう。この斬新なコラボレーションによる、宮沢健二のセロ弾きのゴーシュが、とても楽しみで、可能性は無限だと感じた。

取材・文=エリザベス 撮影=岩間辰徳


三谷幸喜オリジナルミュージカル、舞台『オセロー』製作発表など【6/15(金)〜18(月)のオススメ舞台・クラシック記事】

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舞台:http://spice.eplus.jp/articles/play
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熱狂と興奮を巻き起こした、寺下真理子(ヴァイオリン)とSUGURU(ピアノ)の熱い共演! 

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“サンデー・ブランチ・クラシック” 2018.4.8日 ライブレポート

クラッシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう! 小さい子供も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK! そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のランチタイムコンサート「サンデー・ブランチ・クラシック」。4月8日に登場したのは、ヴァイオリニストの寺下真理子と、2ヴァイオリンとピアノのアンサンブルユニット「TSUKEMEN(ツケメン)」のピアニストとして親しまれているSUGURUだ。

5歳からヴァイオリンをはじめ、東京藝術大学附属音楽高等学校、同大学、ブリュッセル王立音楽院修士課程で研鑽を積んだ寺下真理子は、2004年に第2回東京音楽コンクール弦楽器部門第2位(ヴァイオリン最高位)を受賞し注目を集め、東京フィルハーモニー交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団をはじめ、多くの交響楽団との共演や、コンサート、リサイタル活動を展開。また、2013年にデビューCD、15年、17年と、コンスタントにアルバムをリリース。国内のみならず、韓国でもクラシック部門の週間1位を獲得するなど、多くの支持を集め、テレビ、ラジオ等にも積極的に出演を続けている。
また、SUGURUは、2010年桐朋学園音楽学部研究生を修了。それに先立つ2008年12月にアンサンブルユニット「TSUKEMEN(ツケメン)」のピアニストとして、東京サントリーホール・ブルーローズの2daysコンサートを完売の熱狂の中でコンサートデビュー。2010年に発売したCDアルバム『BASARA』でメジャーデビュー、今までに10枚のアルバムとマキシシングル1枚をリリースし、オリジナルアルバム7枚がクラシックチャートで1位を獲得。現在まで500本を超えるコンサートを開催し、のべ45万人を動員する活躍を続け、「題名のない音楽会」や、「僕らの音楽」に出演するなど、幅広い活動で支持を集めている。

そんな2人は、共にCDアルバムをキングレコードからリリースしていることが縁となり、2017年『美少女戦士セーラームーン 25周年記念 CLASSIC CONCERT』に参加した後、今回「サンデー・ブランチ・クラシック」に初登場するとあって、リビングルームカフェは満員の大盛況。開演を待つ観客の期待ではちきれそうな熱気の中、二人が登場。いよいよ演奏がはじまった。

寺下真理子(Vin)、SUGURU(ピアノ)

寺下真理子(Vin)、SUGURU(ピアノ)

 クラシックの大曲で聞かせる、それぞれの力強さ

最初に披露されたのは、ヴァイオリンの名曲として広く親しまれているクライスラーの「愛の喜び」冒頭から溌剌としたヴァイオリンとピアノの音色が響き渡り、軽快に進む。中間部ではヴァイオリンのメロディーはより美しく、ピアノはより軽やかに。歌うヴァイオリンにリズムを刻みながら寄り添うピアノに一体感があり、高らかに盛り上がった演奏に、客席からは大きな拍手が。1曲目とは思えないほどカフェの空気はヒートアップする。

寺下真理子

寺下真理子

SUGURU

SUGURU

その喝采を前に、二人は自己紹介。SUGURUが久しぶりのクラシックですと語ると、寺下がカフェの客席を見まわし「女性のお客様が多い! SUGURU君のファンかな?」と微笑むと、男性のお客様が自分たちもいるよ!とアピールする様も。二人は同じレコード会社で、『セーラームーンコンサート』で共演以来、とても気が合っていると話し、SUGURUが「今日は真理子さんのパワフルで男前なヴァイオリンを楽しんでください!」と、寺下のヴァイオリンの魅力を的確に紹介。2曲目に大曲のラヴェルの「ツィガーヌ」が披露された。

寺下真理子(Vin)、SUGURU(ピアノ)

寺下真理子(Vin)、SUGURU(ピアノ)

「ツィガーヌ」とはフランス語で「ジプシー」を意味する単語。西欧から離れた、スペイン音楽やジャズなどの技法を積極的に自作曲に取り入れていたラヴェルが、ハンガリーのジプシー音楽を素材に作曲した楽曲で、まず寺下のヴァイオリンが無伴奏のソロをたっぷりと奏でてはじまる。ジプシー音階が多用され、力強い和音が連なり、メロディーの魅力と共に、寺下のテクニックも発揮される中、ミステリアスなアルペジオでピアノが登場。ラヴェルならではの、幻想的な雰囲気が際立ってくる。ヴァイオリンとピアノが互いにソロのようでありつつ、見事に調和して鮮やか。音楽からはもちろん、演奏する二人の表情からも、豊かな表現力が伝わり、クライマックスに向けて互いに駈け上るようにフィニッシュを迎えると、カフェは大歓声に包まれた。

そんな喝采の嵐にやや照れたように微笑む寺下に、SUGURUが「この曲は、本来は2時間のコンサートのトリにくる曲だからね」と言うと、寺下が「しかも今日は時間が早いから……13時開演って、私にとっては早朝で……」と答え、場内には温かな笑いが広がり「音楽家は夜型なので」とSUGURUも笑い、更にカフェは和やかな雰囲気に満たされた。

寺下真理子

寺下真理子

SUGURU

SUGURU

作曲家の想いがダイレクトに伝わる自作曲

ここから、二人ならではの自作曲の演奏となり、まずSUGURUの「SAKURA」が演奏される。自分にとって大切な人と別れたあとも、その人との楽しい記憶を思い出せれば、大切な人はずっとすぐ傍にいてくれる……そんな想いで、SUGURUが書いた曲だそうで、作曲家が楽曲に込めた想いが本人の口から聞けるのは、自作曲ならではの味わいだ。
その想いの通りに、SUGURUのピアノが繊細に語りかけるように奏でられると、寺下のヴァイオリンも密やかに唱和。どこか幽玄な趣きの、懐かしさと共に幻のような儚い美しさを持ったメロディーが次第に雄弁になり、ヴァイオリンの天に昇って行くような澄み切った高音が響き、音楽が静かに終わったあとも、しみじみとした余韻が長く残った。

SUGURUはこの曲を女性とコラボしたのがはじめてだったそうで「優しくて、桜が静かに散っていくような切なさを感じた。今の季節にピッタリでしたね」と自らも発見と感慨があった様子が伝わって来た。

寺下真理子

寺下真理子

SUGURU

SUGURU

続いて寺下の自作曲「Home of Spirits」が披露される。迷った時には自分本来の姿に立ち返り、原点に戻って、どんな困難な時にも前向きに!という想いが込められているという楽曲に相応しく、寺下のヴァイオリンは豊かで幅のある音色で、メロディーを力強くたっぷりと届けてくれる。リフレインではピアノがメロディーをとり、ヴァイオリンは自由なカデンツを奏で、まるで歌詞のない歌を聞く思い。こちらも後奏に余韻を残して音楽が消えていくと、感嘆のため息と拍手が広がっていった。

鳴りやまぬ拍手を前に二人から、「実は1回も合わせていないぶっつけ本番だけど、30分があっという間だし、こんなに拍手も頂いているからアンコールやっちゃう?」という、あまりにも嬉しい申し出が。もちろん客席には更に大きな拍手が沸き起こり、なんと二人は楽譜なし! 本気のぶっつけ本番での、モンティの「チャルダッシュ」がはじまった。
ピアノの華麗な前奏に、寺下が入るタイミングを図っているのが伝わるのが、即興演奏の醍醐味を更に高め、ヴァイオリンとピアノがどこまでも自由に、アイコンタクトを交わしながらメロディーのスピード感をあげ溌剌と奏で合う様が、ジプシーの舞曲様式で書かれている「チャルダッシュ」の世界観にベストマッチ。楽曲が今ここで生み出されているような錯覚さえ覚えるほどで、この音楽に誘われて誰かが踊り出したとしても驚かなかっただろう。ヴァイオリンの張りつめた高音部から、華やかなフィナーレにかけてピアノもグリッサンドで呼応すると、もう待ちきれないかのように「ブラボー!!」の大歓声!! 熱気と興奮のるつぼの中、コンサートは幕を閉じた。熱狂と言って間違いない、40分間だった。

寺下真理子(Vin)、SUGURU(ピアノ)

寺下真理子(Vin)、SUGURU(ピアノ)

寺下真理子(Vin)、SUGURU(ピアノ)

寺下真理子(Vin)、SUGURU(ピアノ)

(右から)寺下真理子、SUGURU

(右から)寺下真理子、SUGURU

お互いに学ぶものの多かった、良い融合の共演

圧巻の演奏を終えたお二人に、お話を伺った。

ーー大変な盛り上がりでしたが、演奏していて会場の雰囲気などはいかがでしたか?

寺下お客様にとても近くで聴いて頂けるので、私達もそうでしたがお客様にも親近感を持って頂けたのかなと。普段のコンサートとは違う臨場感を楽しんで頂けたのではないか? と思っています。

SUGURU1番はとても場所がオシャレなので、その雰囲気を楽しんでいました。クラシック系の音楽は、食事をしながら聴いて頂ける場というのがほとんどないので、僕としては楽に聴いてもらえるのがとても好きなので、その意味でもとても良かったなと思います。

ーーその中で、今日の選曲はどのように?

SUGURUコンサートの名前が「サンデー・ブランチ・クラシック」で、毎週の企画ということなので、クラシックファンの常連の方もいらっしゃるだろうと思いましたので、定番曲をまず入れることと、ヴァイオリンとピアノですので、やっぱりヴァイオリンが生きる曲を。

寺下いや、ピアノも一緒だよ(笑)。

SUGURUうん、もちろんピアノもなんだけど(笑)、しっかりヴァイオリンの良さを見てもらえるように、と考えてラヴェルの「ツィガーヌ」は入れました。その上でせっかく僕らがコラボレーションさせてもらうのだから、各々が普段やっているものも出したいなというのがあったので、それぞれの自作曲も1曲ずつ取り入れました。あとは4月8日ということで、新年度のスタートでもありましたから、春爛漫の中で皆が明るい気持ちで新年度に向かえるようなプログラムを意識しました。

ーー寺下さんの「Home of Spirits」も人生の応援歌のような楽曲でもありましたね。

寺下そうですね。SUGURU君はたくさん曲も書かれているのですが、私は自作曲が1曲しかないので、季節感では選べなくて(笑)、でも確かに新しい出発というものには、言われてみれば合うかもしれないなと思います。

寺下真理子

寺下真理子

ーー勇気をもらえる楽曲だったと思います。今回の共演でお互いの魅力をどう感じていますか?

寺下それはすぐ出てきますよ!

SUGURUえっ? 本当?(笑)

寺下普段はとっても癒し系の人なんです。しかも、音楽をしている時はカッコよくキマるなぁと思って観ていましたが、こんなに音楽を楽しんでいる人と初めて共演させて頂いたと思いました。そういう意味でもすごく学ばせて頂いていて、弾いていて彼のスピリットに助けられるんです。「あー、楽しかった!」といつも思えて。クラシックって、理詰めで考える部分というのはどうしてもあるので、弾いていてもそういう面が優先される時もあるのに、SUGURU君といると音楽を楽しむ、その本質のところを思い出させてもらえるので、とても感謝しています。

SUGURU僕もいっぱいあるんですけど、真理子さんは楽譜に一つひとつ書かれている音符をすごく愛している人なんです。音符が書かれた意味とかを本当に突き詰めて考えていて。僕自身も学生時代はそういう勉強をしていたのですが、今、2時間のコンサートをもう500本以上やってきている中で、だんだん細かいところをあまり気にしなくなっていたなと。さっきスピリッツって言ってくれましたけれど、そういう自分の気持ちとか、演奏することが自分自身の言葉と思って弾いていて。でも彼女には音に対する裏付けがあって、ひとつの音に対して真摯に取り組んでいるんですね。それはやっぱり僕が学ばせてもらったことなので、お互いに良い融合があったのかなと。

寺下そう、それはすごいものがあったと思います。はじめは私とSUGURU君って合うんだろうか?と、たぶんお互いに思っていたと思うんですけど、同じレーベルということもあって、「セーラームーン」のコンサートで弾く機会を経て、二人だけで弾くのは今回はじめてだよね?

SUGURUうん、こんなにしっかりやったのはね。

寺下それがいざはじめて見るとすごく新鮮で、私自身もとても楽しかったし、私の演奏をずっと聞いてくれている友人が「二人の演奏すごく良かった!」と興奮気味に言ってきてくれたり、「すごく好きでした!」と、たくさんの方に声をかけて頂けて。私達も楽しかったのですが、お客様にも楽しんで頂けたのかな?私達合ってるのかな?と思いました。

(左から)寺下真理子、SUGURU

(左から)寺下真理子、SUGURU

ーー本当にカフェの熱気がすごかったです! お二人それぞれのファンの方も多くいらしたでしょうから、新鮮な感動も多かったと思います。

SUGURU僕のファンの方に、寺下真理子さんという素晴らしいヴァイオリニストがいるということを知ってもらえたのは良かったです。どうしても、僕のファンには女性の方が多いし、真理子さんのファンには男性の方が多いのですが、それを越えて、音楽の楽しさを伝えられたら嬉しいです。また、僕たち「TSUKEMEN」の活動ではクラシックを弾くことがあまりないので、世に残された名曲を知ってもらう機会になったら良いなと。音楽でも映画でも、たぶんなんでもそうだと思いますが、時代を越えて残っているものというのは素晴らしいので、こうした機会に触れてもらって、両方を楽しんでもらえたらと思っています。だから、このコラボレーションはすごく良かったなと!

ーーまた、アンコールの「チャルダッシュ」の即興的な自由度がすごくて! 聞いていてゾクゾクしましたが。

寺下本当ですか?

SUGURUあー、良かった!

ーーあの場でのぶっつけ本番で、ステージでアイコンタクトをしながら、という臨場感は大変なものでした。

寺下:若干、どこで入れば良いんだろう?と思っていたんですけど(笑)

SUGURU: ちょっと長めに前奏弾くね、くらいしか言ってなかったからね(笑)。

ーー作曲家の方達が、自作曲をサロンで発表していた時には、まさにこういう雰囲気だったのだろうな、と思いました。

SUGURU:そういう意味では、僕、真理子さんのクラシックのCDは知っていたんですが、自作曲が1曲とは言えある、ということを知らなかったので、やっぱり書いてくれると、音楽からその人の内面が見えるんです。今言ってくださったように、パガニーニも自分で書いて弾くし、モーツァルトも自分で書いて弾いていて、当時の人達にとってはそれが自然な流れだったと思うので、これからもちょっとずつ関わっていきたいです。

SUGURU

SUGURU

ーーそうしますと、これからもお二人での活動も期待して良いのでしょうか?

SUGURU:まだ1回目ですけれども、リハーサルの時間も含めてとても楽しいものだったので、今日のようなバランスで、クラシックと自作曲も入れて、またお互いがいいと思う曲があれば、例えば映画音楽なども弾いてもいいんじゃないかな?と思いますので、そういうことができたら良いなと思います。

寺下:是非またこういう機会を作りたいね。きっと何かあると思う!

SUGURU:そうだね!

ーー新しい楽しみが広がります。また「サンデー・ブランチ・クラシック」にもいらしてください!

SUGURU:あぁ、もう、是非、是非!

寺下:喜んで!

ーーその日を楽しみにしています。ありがとうございました!

(右から)寺下真理子、SUGURU

(右から)寺下真理子、SUGURU

取材・文=橘涼香 撮影=岩間辰徳

森下真樹、ベートーヴェンの『運命』をピアニスト・今西泰彦の生演奏で踊る‼︎「すべてを乗り越えるための同志を見つけたよう」

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森下真樹がベートーヴェン『運命』の全楽章にチャレンジする第2弾。MIKIKO、森山未來、石川直樹(冒険家)、笠井叡がそれぞれに第一〜四楽章を振り付けし、森下の身体が“運命”に抗い、包まれ、やがて昇天していくようなひと時は、固唾を飲み、思わず声援したくなる。昨年12月の初演に続き、この3月には第一楽章を海老原光が指揮するオーケストラの演奏とともに踊るというサプライズ! 快挙!もあった。その海老原に紹介されたのがピアニスト、今西泰彦。そもそもオーケストラ用に書かれたベートーヴェンの『運命』をピアノ一台で弾こうなんて無謀なことを考える人はほとんどいないそうだが、そういう人と巡り合い、意気投合してしまうところがすごい。つくづく森下の巻き込み体質、引力には驚くのだ。(※ベートーヴェン作曲『運命』をリストがピアノ一台に編曲したもの)

初演の舞台より

初演の舞台より

森下真樹と今西泰彦に話を聞いた。その前に、3月のオケをバックに第一楽章を踊ったステージはどうだったのだろう。紹介は過去の記事を読んでいただくとして……。森下真樹×海老原光対談は、こちら

森下「日本フィルハーモニー交響楽団さんの演奏で踊らせていただきました。第一楽章が始まる前の無音の時間に海老原さんと私の掛け合いのシーンができました。マエストロ海老原が舞台上に現れ、指揮台のそばに置いてある椅子に向かって歩いていく。すると私も客席から80センチの高さをよじ登って舞台に登場するんです。そこから私が椅子に座ると、背後から海老原さんが衣装のワンピースを着せ、私の身体を使って指揮をする。今度は二人の体がふわっと離れると、海老原さんは私を指揮で操り、今度は私が海老原さんを身体で操り...操り、操られ、翻弄される...というような動きが生まれました。そして海老原さんが指揮台に上がって、私が床に落ちたところで演奏が始まる。まるで海老原さんも踊っているかのようでした。ダンスのデュオみたいに。そこも見どころでした(笑)。

オーケストラは音の圧がすごかった。うわ、うわっとステージから落ちるんじゃないかというくらい。それまではCDでしか聞いていなかったんですけど、ステージ上でも場所によって音の聞こえ方が違うんです。聞いたことがない細かい音が聞こえたりして、その音を浴びながら、それを踊りで跳ね返すみたいな感じでした」

ピアノ一台で『運命』全楽章を弾けるのは……

森下真樹

森下真樹

マエストロ・海老原には、初演の際にベートーヴェンや『運命』に関するレクチャーを受け、実際の公演も見てもらった。そんな流れで、第一楽章だけだったものの、名門オケとの共演が実現した。そしてさらに、海老原の提案もあって急きょ浮上したのが、今西泰彦との共演だ。会場となるスパイラルも手を挙げてくれた。

森下「いずれ全楽章をオーケストラの生演奏で踊るという夢がありますが、その前段階で、生演奏で踊る場合、どういう編成の可能性があるのか...を海老原さんに相談させてもらいました。そうしたら、ピアノ一台はどうだろうと提案してくださいました。そしてもしピアノ一台だったら、ベートーヴェンの『運命』の全楽章を弾けるのは今西君しかいない、と。海老原さんは森下スタジオの公演を見てくださったイメージから、踊り、身体的にも対峙できる方として今西さんを紹介してくださいました」

今西「海老原さんとは一度しかお仕事をしたことはなかったのですけどね。私は普段クラシックを演奏してきていますが、ダンサーの方との共演は初めて。でも音楽も音楽の世界だけに留まっているべきではないという思いがあるんです。むしろ音楽そのものの中にダンスとの結びつきもあれば、文学や演劇、強いては人そのものが織り込まれている。ただベートーヴェンに振りを付けて踊るというのは、どうなってしまうのだろう、と。そこは未知の領域でした」

いやいや、その前にまず聞きたかったのは、そもそもベートーヴェンの『運命』をピアノで弾こうと思われたことだった。

今西「普通、しないですよね(笑)。とてつもなくベートーヴェンが好きだから、ということでもなければ。今回演奏する楽譜はリストが編曲したバージョンですが、なかなかコンサートでも取り上げられません。だったらオーケストラを聴きに行けばいいわけですし、あるいはピアノ一台で表現したときにオーケストラを上回る演奏ができるなんてお客様も思わないですから。私もそれに対する怖さはありました。音源を流せばいいじゃんということになりかねない。なので、お話をいただいてからお返事するまでに1カ月半要しました。その期間に練習して、予想以上にピアノ演奏ならではの魅力があると発見したんです。もちろんダンスの分野は専門家ではないのですが、音の表現に関しては精一杯やりますと」

アップビートはダンスの浮遊そのもの。踊っているかのような演奏がダンスに合うのでは?

今西泰彦

今西泰彦

それにしても一度の共演だけで海老原だって無責任にその名前を挙げることはないだろう。ではどんな理由で推薦されたのか、今西はどんなふうに思っているかを聞いたみた。

今西 「音楽のつくられ方としてダウンビート、アップビートがありますが、アップビートは自然に跳ね上がるもので、西洋音楽はそれをベースにつくられています。私は若いころから、まずアップビートの箇所を探せ、そして曲のどこからどこまでがアップビートで、そういうときの奏法はどうするのかということを徹底的に、身をもって教わってきました。それを海老原さんはオーケストラとの共演時に見抜いてくださったのではないでしょうか。当時の作曲家や演奏家、教育者にとっては当然の知識であったのに、まだまだ日本のクラシック音楽界はアップビートに対する知識や感覚が疎いと思います。いわばアップビートは舞踊で言えばカカトを上げた状態、宙への空間、浮遊そのもの。飛んでいる間は観る者にとっても特に魅力的に目に映りますよね、画としても感覚としても、その世界に惹き込まれる。ダウンビートのみで演奏してしまうと着地、着地、着地という感じで、耳や心が離れ、やがてたどり着くのは睡魔。1曲ワンスレーズのように壮大に、そして時に踊っているかのように流れや循環を失わずに演奏していくからダンスと合うよね、ということを含んでマエストロが推薦してくださったのではないか、と思います」

なんだか聞きようによっては今西のコメントは挑発的でもある。すごいことになってきた。「これ、書いてもいいんですか?」と聞けば「いいですよ」とおっしゃる。今西泰彦、クラシックのピアニストという僕の勝手なステレオタイプのイメージを軽々と飛び越える刺激的な人だ。

ピアノの音が物体として飛んできて、身体に刺さってくるよう

そんな今西の雰囲気を察知したのか、森下も初対面の瞬間から「アブない空気を持っている」とつぶやいたのだとか。今西からは「アブないっていうのはどういう意味か聞きたいなあ」と軽いジャブが繰り出された。

森下「私は『運命』のCDはカルロス・クライバーが振ったオケの音源と、そのあとピアニストのグレン・グールドを聴いたんですよ。それでイメージができて、ピアノとやりたいと思った。ところが初めて今西さんがピアノを弾いてくださったときに、物体がぶつかってくるような、ものすごい迫力があったんですよ。痛い、痛いという感じで私に刺さってくる。スピードある球を投げてくるから、全身で受け止めるか、捨てて逃げるかしかないみたいな(苦笑)」

今西「私は人任せのようなトスはあげません。やる、やらない、どうする、どうしたい、という意志はクリアーに。それは作曲家からも教わってきたことでもあります、メッセージが降りてくる。日本人演奏家は時にグレーゾーンな表現者だからベートーヴェンは適さないと言われてしまうのですけど、タイミングは?音のカラーは?このぐらいなのかな?なんてアバウトに感じた程度ではもうアウト。間違ってもいいから彼がしゃべっているように、自分の言葉で話すことが重要なんです。だから私は困難に直面したとしても、安全運転で生ぬるい音楽になるより自分の意志を貫く。ベートーヴェンはそのくらい生半可な覚悟では格好さえつかない作曲家だと思っています」

今西の話はまだまだ続く。スパン、スパンと切り込んでいく話がとても心地よい。その言葉からはベートーヴェンへの敬意が伝わってくる。

今西「ベートーヴェンの作品は弾き始めた途端に、彼に実権を握られてしまう。森下さんのことだって心の視野に入っているのですが、それ以上にベートーヴェンが勝ってしまう。しがみついていないとふっ飛ばされちゃうよ。第一楽章などウォーミングアップしないまま、いきなり「 ! 」で。理想としては、ベートーヴェンがピアノ一台で弾いていたとしたら、こうだったかもしれないね、と抱いていただけたら。彼が作曲したまさにそのときのように演奏したい。私自身も聴き手の方々もその音楽と初めて出逢うかのように、理屈よりも感性が先行するように」

今西の最後の言葉は演劇とよく似ている。役者は1カ月稽古しようとも、そのせりふを初めて言うかのように、初めて聞くかのように演技をしなければいけない。クラシックを聞くときなど、つい“定番”がどう解釈されるかばかりにとらわれてしまいがちでもあるが。

森下「今西さんの演奏で『運命』を踊って感じたことは、楽章によってふたりの関係(音と身体の関係)が変わるんです。第一楽章は音にしがみつく、ぶつかり合う、第二楽章は心の中で起こっていることを音で現してくれるような寄り添うような感覚、第三楽章は知らない世界へひきずりこまれるような暗闇の世界、第四楽章はすべてを乗り越えるために一緒に闘う同士のような感覚。この先一人で上り詰めるしかないのかというときに、一緒に闘う相手ができた。それは敵ではないけど、仲間でもない。いや、仲間なのかもしれない」

もちろん森下だけではない。今西のピアノの挑発的な音を聞いて、4人の振付家のなかにもそれぞれの化学反応があるはず。それがどんな化学反応を起こすのかが楽しみだ。

今西「全楽章を演奏したときに、一緒に山を登る仲間ができたという気持ちになるといいよね」

森下「そう、二人でしかつくれない景色が観客のみなさんにもお見せできたらいいなと思うんです」

《森下真樹》幼少期に転勤族に育ち転校先の友達作りで開発した遊びがダンスのルーツ。2003年ソロ活動を開始、以降10か国30都市以上でソロ作品を上演。近年は様々な分野のアーティストと積極的にコラボレーションを行う。2013年には現代美術家 束芋との作品『錆からでた実』を発表、第8回日本ダンスフォーラム賞を受賞。2016年には若手ダンサーと実験的な場を求め新カンパニー「森下スタンド」を発足。100人100様をモットーに幅広い世代へ向けたワークショップや作品づくりも盛んに行う。周囲を一気に巻き込み独特な「間」からくる予測不可能、奇想天外ワールドが特徴。

《今西泰彦》静岡県浜松市出身。東京藝術大学、並びに東京藝術大学大学院ピアノ科卒。渡欧後、イモラ国際ピアノアカデミー、パリ、またミュンヘン国立音楽・演劇大学古楽科に於いては古楽奏法の研鑽を積む。これまでにソリスト・室内楽奏者として国内外各地でリサイタルを行い、メディアにおいては、イタリア・メディアセットでの中継、新聞、ラジオ、あるいはテレビ番組出演、NHK『純情きらり』(2006)、フジテレビ『HERO THE TV』(2015)、映画『四月は君の嘘』(2016)、TBS『ごめん、愛してる』(2017)等、撮影協力を行っている。また2017年には、全日本ピアノ指導者協会新人指導者賞受賞。

取材・文:いまいこういち(森下真樹ウォッチャー)

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18『マノン』~本家の誇り!人間の欲をさらけ出す濃厚なドラマ

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英国ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)の上演作品を映画館で楽しむ英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18。6月22日から上映されるのは英国を代表する振付家、ケネス・マクミランの『マノン』だ。

1974年、ROHにより初演されたこの演目は、マクミラン振り付け『ロミオとジュリエット』(1965年)と並ぶドラマチックバレエの傑作。主演マノンにはサラ・ラム、マノンに恋し人生を狂わせる青年デ・グリューにワディム・ムンタギロフ、マノンの兄レスコーに平野亮一のプリンシパルらが、さらにムッシューG.M.は世界屈指の名脇役の一人であるギャリー・エイヴィスが演じるという、実に濃厚な配役。主演から名もなき町人に至るまで、舞台上の人物一人ひとりがリアルに呼吸し醸し出す世界は、人間に潜む欲情を「これでもか!」というほどにさらけ出し続け、ただただ圧倒される。世界中で上演されている『マノン』だが、「これが本家による本物だ!」と言わんばかりの、ROHの誇り漲る圧巻の舞台だ。

■赤裸々に描かれる、ありとあらゆる人の欲

物語は1700年代のフランス。美しい少女マノンはパリで若く純朴な学生デ・グリューと出会い、恋に落ちる。駆け落ちをした2人を追ってきた兄レスコーは、妹マノンに富豪ムッシューG.M.の愛人となるよう勧め、マノンは豪奢な生活に目が眩み、デ・グリューを捨てムッシューG.M.のもとへ。マノンをあきらめ切れず、ひたすら純粋に思いを募らせるデ・グリューはマダムの娼館でマノンと再会。彼女は愛と富の間で揺れながらもデ・グリューの思いを受け入れ再び彼のもとへ走るが、それがムッシューG.M.の怒りを買い、兄レスコーは射殺、マノンは逮捕され新大陸の流刑地ニューオリンズへと送られる――。

©ROH  Photographed by Alice Pennefather

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原作はフランスのアベ・プレヴォ作『マノン・レスコー』で、男を破滅させる女「ファム・ファタル」をテーマとした最初の文学といわれるものだ。この作品にインスピレーションを得たマクミランは、舞台の上に貧富の世界にうごめく貧者、娼婦、貴族、富豪と、あらゆる階層の人間の欲を、赤裸々に描き出す。

兄レスコーを演じる平野亮一は、日本人なら見慣れた言語の「笑い」を表現しつつ、妹の美しさを利用し豪奢な生活を手に入れようとするしたたかな男を熱演。金と権力で美女も何もかもを欲しいがままにするムッシューG.M.役のエイヴィスは、権力者ならではの赤裸々な欲を、冷や汗が出るようなR指定ギリギリのような、猥雑で生々しい演技で熱演。小銭で動かされる貧者、相手を出し抜き“より良い男”を手に入れようとする娼婦たちのつば競り合い、美女を並べて得意満面の娼館のマダムなど、およそ「美しいバレエ」とは真逆の世界が描き出される。この欲まみれの世界では、マノンの愛を手に入れたいという、デ・グリューの純粋で真っ白な愛情さえも"欲"だ。

©ROH  Photographed by Alice Pennefather

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ヒロインのマノンもまた愛に、毛皮に、宝石にと欲に忠実だ。しかしラムの演じるマノンには計算は感じられない。兄に言われるがまま、蝶が花へと蜜を求めて飛ぶように己の本能に従い生きる純粋な少女である。中身は子供のままだからこそ、2幕娼館の黒いドレス姿は背伸びをして大人の服を着ているかのようなアンバランスさがあり、実に危うい。無意識に男の人生を狂わせるこの純粋さがまさにファム・ファタルであり、マノン自身がこの危うさに気付いていないことが後の悲劇へとつながるという説得力。唸るばかりである。

©ROH  Photographed by Alice Pennefather

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■マクミランならではのパ・ド・ドゥも必見

古典作品のピュアなプリンセスとは違い、人間の本能の赴くままに生き、破滅していくマノン役は「ドラマチック。女性ダンサーの憧れの役」と、シネマシーズンの案内役を務めるダーシー・バッセル(元ROHプリンシパル)は語る。その心情を表す演技力、ガラ公演でしばしば踊られる「寝室のパ・ド・ドゥ」「沼地のパ・ド・ドゥ」に代表される高難易度のリフトや、「フィギュアスケートにヒントを得た」と言われる、重力や惰力に身を委ねるような独特の振り付けなど、「挑戦し甲斐のある役だ」とも。女性ばかりでなく、マノンへの思いを切々と訴えるデ・グリューのソロ、レスコーの酔いどれの踊りなども男性ダンサーにとっては踊り甲斐もあり、また見応えも十分だ。

©ROH  Photographed by Alice Pennefather

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音楽はフランスの作曲家ジュール・マスネの『エレジー』『聖処女』などを使用。マスネはオペラ『マノン』を作曲しているが、マクミランはオペラの曲は一切使用していない。編曲は元ダンサーであり作曲家であるレイトン・ルーカス。今回の上演では指揮を務めたマーティン・イエーツが、ルーカスの構成はそのままに「まるでこのバレエのための音楽として書かれたよう」に再構成したものを使っている。ドラマチックなオーケストラの音楽は、しかし同時にどこか昔の愛おしい思い出を探るように響くオルゴールの音も連想させ、物語に一層の味わいを加える。

ROHの誇りと力を集結した本物の『マノン』、必見である。

取材・文=西原朋未

サラ・ラム&ムンタギロフの「沼地のパ・ド・ドゥ」は鳥肌もの!~英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2017/18 ロイヤル・バレエ『マノン』開映

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バレエ、オペラともに世界最高の名門歌劇場、英国ロイヤル・オペラ・ハウスの人気公演の舞台映像を全国の映画館で上映している「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18」。2018年6月22日(金)からは、ロイヤル・バレエ『マノン』(振付:ケネス・マクミラン)が全国順次公開となる。

【動画】ロイヤル・バレエ『マノン』予告編


今シーズン11作目となるロイヤル・バレエの『マノン』は愛や裏切りや嫉妬などが描かれる、バレエの中でも最もドラマティックで破滅的な作品のひとつ。原作は、18世紀フランスで聖職者だったアベ・プレヴォ(プレヴォ神父)による小説「マノン・レスコー」。

美しく衝動的な少女マノンは、若くハンサムな学生デ・グリューと出会い恋に落ちる。しかし、兄レスコーの手引きから富豪ムッシューG.M.から愛人にならないかと誘われたマノンは、デ・グリューとの愛と、G.M.との豪華な生活の間で引き裂かれ……。オペラや映画にもなったこの有名な物語を、ケネス・マクミラン(1929-1992)が1974年にバレエ化。『ロミオとジュリエット』『うたかたの恋』などの振付も手掛けたケネス・マクミランは当時、ロイヤル・バレエの芸術監督だった。

Gary Avis as Monsieur GM and Sarah Lamb as Manon in Manon  ©ROH  Photographed by Alice Pennefather

Gary Avis as Monsieur GM and Sarah Lamb as Manon in Manon ©ROH Photographed by Alice Pennefather

初演時には、オペラ版も手掛けたフランスの作曲家ジュール・マスネの音楽(約20のオペラおよび、さまざまな曲)を用いたが、オペラ版とは全く違うタイプの音楽となっている。現在のバージョンは今回の指揮者でもあるマーティン・イエーツが2011年に再編曲を手掛けた。マスネが最初からまるでバレエ組曲として書いたように再構成して完成させた。

シネマシーズンのナビゲーターの1人であり、マクミランに見出されて本演目を何度も踊ってきた、ロイヤル・バレエ団元プリンシパルのダーシー・バッセルが「最も難しい」と振り返るのが『マノン』のパ・ド・ドゥ。本編のインタビュー映像では、マクミランの妻デボラ・マクミランが、振付当時マクミランがフィギュアスケートに夢中だったことを明かす。くるくると回る”パ・ド・ドゥ”の振付がそこから着想を得ていることが見て取れる。

Sarah Lamb as Manon and Vadim Muntagirov as Des Grieux in Manon  ©ROH 2014. Photographed by Alice Pennefather

Sarah Lamb as Manon and Vadim Muntagirov as Des Grieux in Manon ©ROH 2014. Photographed by Alice Pennefather

本演目を鑑賞した舞踊評論家の村山久美子氏も、「マノンの死に至る恋人とのデュオは、フィギュアスケートの要素を入れ、滑るような急速な移動、女性を投げてキャッチ等々、最後の力を振り絞る様子が、アクロバティックな振付で見事に表現されています」とコメント。

このマクミラン振付の本演目で迫力の演技を魅せるのは、本シーズン『くるみ割り人形』の”こんぺいとうの精"で魅力的な演技を見せたマノン役のサラ・ラムと、世界中のファンに“王子”の愛称で親しまれている人気ダンサー、デ・グリュー役のワディム・ムンタギロフ。この2人が最後にルイジアナの沼地で繰り広げる渾身のパ・ド・ドゥ(沼地のパ・ド・ドゥ)は本当に全てのバレエファンにとって必見のシーンである。

さらに、日本人プリンシパルのレスコー役平野亮一が全身を駆使して魅せる酔っ払い演技にもご注目を。シネマシーズンの見どころの一つである舞台裏でのインタビューの途中では、そんな演技直後のキャストたちの様子も確認する事が出来る。

振付や音楽など様々な想いが込められているロイヤル・バレエ『マノン』。人気ダンサー達による迫真の演技を臨場感たっぷりの大スクリーン&大音響で鑑賞することをお勧めする。

Vadim Muntagirov as Des Grieux in Manon ©ROH  Photographed by Alice Pennefather

Vadim Muntagirov as Des Grieux in Manon ©ROH Photographed by Alice Pennefather

Sarah Lamb as Manon in Manon  ©ROH  Photographed by Alice Pennefather

Sarah Lamb as Manon in Manon ©ROH Photographed by Alice Pennefather

舞台『魔界転生』、舞台『魔法先生ネギま!』など【6/19(火)〜21(木)のオススメ舞台・クラシック記事】

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SPICE・6/19(火)〜21(木)オススメの舞台・クラシック記事

 

↓記事はこちらをチェック↓
▼原作ファンの上川隆也「無茶苦茶やらないと出来ない作品」と決意 舞台『魔界転生』制作発表会見
https://spice.eplus.jp/articles/194254

▼生駒里奈主演 舞台『魔法先生ネギま!~お子ちゃま先生は修行中!~ 』全キャストが解禁!
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▼三宅健主演で舞台『二十日鼠と人間』の上演が決定! 演出を務める鈴木裕美と不朽の名作に挑む
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▼屋良朝幸主演『THE CIRCUS!-エピソード2 Separation-』稽古場レポート
https://spice.eplus.jp/articles/192363

▼柳家三三に聞く「任侠流れの豚次伝」の魅力『またたびさんざ 四都市五ヶ月連続独演会』は8月開幕
https://spice.eplus.jp/articles/193007

▼森下真樹、ベートーヴェンの『運命』をピアニスト・今西泰彦の生演奏で踊る‼︎
https://spice.eplus.jp/articles/193898


▽そのほかの記事はこちらから▽
舞台:http://spice.eplus.jp/articles/play
クラシック:https://spice.eplus.jp/articles/classic

TVアニメ『ピアノの森』メインピアニスト連続インタビューvol.4~シモン・ネーリング(レフ・シマノフスキの演奏を担当)

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NHK総合テレビにて2018年4月8日より放送中のTVアニメ『ピアノの森』が話題を呼んでいる。一色まことの同名漫画作品をアニメ化した本作は、森に捨てられたピアノをおもちゃ代りにして育った主人公の一ノ瀬海(カイ)が、かつて天才ピアニストと呼ばれた阿字野壮介や、偉大なピアニストの父を持つ雨宮修平などとの出会いの中でピアノの才能を開花させていき、やがてショパン・コンクールで世界に挑む姿を描く、感動のストーリーである。

TVアニメ「ピアノの森」PV ©一色まこと・講談社/ピアノの森アニメパートナーズ


さらに、このアニメに登場するクラシックピアノ曲は、世界で活躍する気鋭のピアニストたちが各キャラクターの役を担いつつ実際の演奏に参加している。阿字野壮介の演奏には反田恭平、雨宮修平には髙木竜馬、パン・ウェイにはニュウニュウ、レフ・シマノフスキにはシモン・ネーリング、そしてソフィ・オルメッソンにはジュリエット・ジュルノーと、それぞれのキャラクターの出身国と雰囲気に合せながら、高い実力と人気を兼ねた若手ピアニストたちが"メインピアニスト"として起用されている。

TVアニメ「ピアノの森」ピアニスト紹介VTR ©一色まこと・講談社/ピアノの森アニメパートナーズ


SPICEでは、この"メインピアニスト"たち5人に焦点をあてたインタビューを連続リレー企画として掲載してゆく。その第4弾として登場するのは、ショパンの故郷ポーランドで現在最も注目を集める若手トップ・ピアニスト、シモン・ネーリングである。2017年ルービンシュタイン・ コンクール優勝者であり、2015年ショパン・コンクールのファイナリストでもある。アニメではポーランドの新星として期待を集めるレフ・シマノフスキの演奏を担当する。


――ピアノとの出会いについてお教えいただけますか?

「5歳からピアノを始めたので、その当時のことはあまりよく覚えていませんが、これまでの人生でピアノはつねに私と一緒でした。ピアノは一台でオーケストラのような役割を果たすこともできますし、歌手のように歌うこともできます。私にとってピアノは、世の中で想像しうる、もっとも美しい音色を持つ楽器なのです」

――そんなピアノが与えてくれたものとは?

「ピアノそのものというより、ピアノを通して音楽にたくさんのものを与えてもらいました。私には、音楽のない人生がまったく想像できないのです。一日でもピアノを弾かなかったり、音楽を聴かなかったりすると、身体の調子が悪くなるくらい(笑)。音楽はまず第一に、はかり知れない喜びを与えてくれます。それから、多くの方々との素晴らしい出会いをもたらしてくれます。まったく初対面の音楽家であっても、2時間くらい充実したリハーサルができれば、もう何年も知っているような感覚を持つことができるんですよ。そして音楽のおかげで、私はいろいろな土地へ旅することができます。旅は趣味でもありますが、ここ2年ほど本当に多くの演奏旅行をし、その経験が私を大きく変えました」

――ショパン・コンクールは、やはりピアニストにとって特別な場ですか?

「多くのピアニストにとって、夢であることは確かでしょう。ライバルと競い合って勝ち抜き、自分の夢を達成する場。ショパン・コンクールに限らず、世界的なコンクールとはそういうものです。私もかつてはそうでしたが、18~19歳くらいの頃から意識が変わり、コンクールは競い合う場ではないと考えるようになりました。ですから20歳でショパン・コンクールに参加したときも、今の自分が持っているものを聴衆の方々と分かち合う場のように感じていましたね。一次予選の前日は一晩中眠れなくて、そんなことは私の人生で初めてというほど強いストレスがありましたが、聴衆は私の音楽のすべてを敏感に聴き取ってくれましたし、ファイナルでのオーケストラとの共演も非常に意義のある瞬間でした。コンクールの結果はほとんど関係なくて、それとは別次元の充実した気持ちを味わっていたのです」

――今回、レフ・シマノフスキとして演奏するにあたり、意識したことは?

「レフというキャラクターに、どこか親しみを感じました。私自身、ショパン・コンクールから2年あまりの月日が過ぎて、あのときステージ上で一体なにが起きていたのか、当時よりはっきりと理解できている気がしています。そうして振り返ったとき、自分にもレフと同じような感情があったのではないかと思うんです。経験の少なさからくる子どもっぽさというのでしょうか、決して悪いものではないのですが。そうしたレフへの気持ちと、作品そのものに対する私の解釈を通して演奏しました」

――最後にご覧になるみなさんへメッセージを。

「大きなコンクールであっても、少人数のために弾くささやかな演奏会であっても、音楽はつねに等しく大切な存在です。ですから競争の手段としてではなく、喜びや楽しみをもたらしてくれるものとして、音楽に触れていただけたらと思います」


シモン・ネーリング Szymon Nehring (レフ・シマノフスキ):
1995年ポーランドに生まれる。クラクフのF.ショパン中等音楽学校でオルガ・ラツァルスカに11年間にわたり学び、2013年よりビドゴシュチュの音楽院でステファン・ヴォイタス教授のもとで学び、現在米国イェール大学にてボリス・ベルマン教授に師事している。2014年若手ピアニストのためのアルトゥール・ルービンシュタイン・イン・メモリアム国際コンクールで優勝。2015年クリスティアン・ツィマーマン奨学金を授与された。第17回フレドリック・ショパン国際ピアノコンクールではファイナリストとなり、聴衆賞を始めとする数々の栄誉ある賞を授与された。2017年にはアルトゥール・ルービンシュタイン国際ピアノコンクールで第1位に輝き、ベスト・ショパン・パフォーマンス賞を始めとする多くの賞を手にした。ポーランドの作曲家による作品を収めた彼のデビューCDは、2016年度フレドリック賞(ソロリサイタル‐年間アルバム部門)をポーランド録音協会から授与された。2016年にはショパンのピアノ協奏曲第1番、2番をユレク・ディバウ、そしてクシシュトフ・ペンデレツキ指揮のもと、シンフォニエッタ・クラコヴィアと共に、さらにクシシュトフ・ペンデレツキのピアノ協奏曲《復活》を指揮者自身の指揮で録音している。最新録音はピリオド楽器(エラート1858)を用いてのショパン作品の演奏を収めたCDとなっている。将来を嘱望される次世代のポーランドのピアニストである。



グラミー受賞の現代タンゴ界の巨匠パブロ・シーグレルがトーク&ライブ

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日本でタンゴをラテンミュージックの枠を超えてクラシックのジャンルまでに広げたアストラ・ピアソラ。今は無きピアソラの五重奏団で最後のピアニストとして10年に渡って彼を支えてきたのがパブロ・シーグレルだ。

その彼が昨年第60回グラミー賞ベスト・ラテン・ジャズアルバム賞に輝いた自信のアルバム「ジャズ・タンゴ」を携えての来日公演をおこなう。7月18日(水)東京 COTTON CLUBを皮切りに北は仙台から南は福岡まで全国7カ所で公演が予定されている。

その来日公演でSpiceのオススメは、ラストである2018年8月14日(火)に東京渋谷のLiving Room Cafeで行われる「Pablo Ziegler Talk & Live~ピアノで紡ぐタンゴミュージックの変遷~」というスペシャル企画。この日は彼のオリジナルは勿論だが、ピアソラを10年にわたって間近で見続けてきた彼にしか語れないピアソラとのエピソードも交えてタンゴミュージックの昨今を音と言葉で紡ぐスペシャル企画。これは見逃せない。

岩城直也(Pf,編曲)がスタクラフェス(STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018)出演決定

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<What’s “スタクラ フェス”?> TOPIC NEWS

作曲家・編曲家で、電子オルガン・ピアノ・キーボード・鍵盤ハーモニカ奏者でもある岩城直也『イープラス Presents STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018』(略称 “スタクラフェス” )に参加することが決定した。

クラシック音楽を、野外で気軽に楽しむことができる“スタクラフェス”は、2018年9月23日(日)、横浜赤レンガ倉庫の特設会場にて開催される。会場内には3つのステージ(HARBOR STAGE/GRASS STAGE/Sunday Brunch Classic Stage)が設けられる。モーツァルトなどクラシックの定番曲からオペラ、ミュージカルの名曲、そしてスタジオジブリまで、誰もが聴いたことのある音楽を聴衆に届ける音楽祭だ。野外のため、空の下、潮風を感じながら音楽とともに、食べたり、飲んだり、時には寝そべりながら、朝から夜まで一日中、あるいは朝から14時までの半日間、親子も含めた全ての人々が楽しむことができる。

出演者も豪華。ピアニスト・反田恭平。そして、本音楽祭の総合司会を務めるだけでなく、アーティストとして演奏も披露する、女優でピアニストの松下奈緒。さらにLE VELVETS、サラ・オレイン……等々、いま勢いのあるアーティストたち総勢300名が大集結する。

そして、このほど“スタクラフェス”の「Passion Classic 三浦一馬 with フレンズ」「プレミアムナイト ~夜風に吹かれて~ 」に岩城直也の追加出演が決定した。岩城は、東京音楽大学・作曲〈映画・放送音楽コース〉を首席卒業、ヤマハエレクトーンコンクール2014では最高位を獲得した俊英だ。現在放送中のTBS「A-Studio」番組タイトルバックをはじめとして、あらゆるジャンルの作・編曲活動やライヴ・コンサート、バレエやダンスとのコラボレーション、介護施設等での演奏などを行っている。

“スタクラフェス”において彼の出演する「Passion Classic  三浦一馬 with フレンズ」は、15:20~15:50にGRASS STAGEで行われる。若手実力派バンドネオンの三浦一馬のリードで、上野耕平(サックス)、伊藤悠貴(チェロ)、金子三勇士(ピアノ)らが参加し、ピアソラの名曲演奏を繰り広げる、文字通りパッションのみなぎる白熱のライブとなるだろう。また、もうひとつの出演ステージ「プレミアムナイト ~夜風に吹かれて~ 」は、17:50~18:20に同じくGRASS STAGEで行われる。こちらは、ヴォーカリストでヴァイオリニストのサラ・オレインをメインに据えたコンサート。みなとみらいの夕景を背に夜風に吹かれながら癒しのサウンドに包まれる。

潮風かおる秋の横浜で繰り広げられる野外クラシック音楽フェス“スタクラフェス”への期待はますます高まる一方だ。6月23日(土)午前10時よりチケット一般発売が開始される。詳しくは公式HPをチェックのこと。

岩城直也プロフィール
作・編曲家、ピアノ・電子オルガン・鍵盤ハーモニカ奏者。日本作編曲家協会理事。
東京音楽大学 作曲〈映画・放送音楽コース〉首席卒業。ヤマハエレクトーンコンクール2014最高位。
これまで、玉置浩二・佐藤竹善・R.グラスパー・尾上松也・沖仁らのオーケストラ共演曲や城田優×昆夏美、Sing Like Talking・岡本真夜・NOBU・大谷康子らの楽曲、ミュージカル「狸御殿」(演出:宮本亜門 音楽:服部隆之)劇中曲、「聖剣伝説25周年コンサート」、ヤマハ音楽教室教材、現在放送中のTBS「A-Studio」番組タイトルバックなど多くの作編曲を手掛ける。一方、前田憲男・国府弘子・小原孝・塩谷哲・根本要・鈴木雅之・中山美穂・My Little Lover/小林武史ら多くのアーティストとの共演を重ねる。
 

 

【動画コメントあり】サラ・オレインの歌声が魅せるスタクラフェス~『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018』<What’s “スタクラフェス”?>

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<What’s “スタクラ フェス”?> Artist Close-Up ② サラ ・ オレイン

食べて、飲んで、聴いて!クラシック音楽の進化形野外フェスティバル『イープラス Presents STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018』(略称 “スタクラフェス” )が、今秋2018年9月23日(日)、横浜赤レンガ倉庫にて開催される。そこではHARBOR STAGE 、GRASS STAGE 、SUNDAY BRANCH CLASSIC STAGEの、三つのステージが用意され、オーケストラが奏でる壮大なシンフォニーから、ヒーリング音楽、アニメの曲まで芝生に囲まれた会場で横浜港の風を感じながら、様々な音楽を一日中聴くことが出来る。

今回、GRASS STAGEでの「プレミアムナイト ~夜風に吹かれて~」(17:50~18:20)に出演するヴァイオリニストでヴォーカリストの、サラ・オレインにスポットを当てる。夕暮れ時の野外ステージで「糸」「Time To Say Goodbye」「You Raise Me Up」等が披露される予定だ。そんな彼女に “スタクラフェス” への意気込みや想いを聞いた。

--“スタクラフェス”においてサラさんは、GRASS STAGEラストを飾る「プレミアムナイト ~夜風に吹かれて~」に出演されます。横浜港すぐ近くの野外特設会場で夕暮れ時に演奏することについて、どのようなお気持ちですか。

今回のコンサートはとても珍しいと思います。というのも、野外でクラシックのコンサートを行うということは、普通なかなかありませんからね。そして、私は夕暮れ時に出演します。その時間帯に演奏することは私自身も楽しみなのですが、聴きにいらっしゃっている方々も、その夕暮れ時の風景の中で音楽を感じ、幻想的な気持ちになるのではないでしょうか。今回は夕暮れ時や夜に合う曲を選んでいるので、それが会場の雰囲気にぴったりと合うといいなと思っています。

--夕暮れを見ながら音楽を聴けるなんて素敵ですね。

そうですね。それと、演奏する場所が野外なので、たぶん風も吹いてくるのではないでしょうか。クラシック音楽って、どうしても息苦しいというイメージもあるかと思うのですが、いつものクラシック音楽のホールとは違い、自然の音と共に楽しんでいただけるコンサートになればいいなと思っています。

--こうしたコンサートって、確かに他にはあんまりないですよね。

私自身も夕暮れの景色の中で歌ったり、風を感じながら演奏することになりますよね。そういう体験は演奏者としてなかなかないことなので楽しみです。

--「プレミアムナイト」では、STAND UP! ORCHESTRAとの共演となります。彼らとの共演に期待することはありますか。

私、普段はバンドやピアノと演奏することが多いのですが、今回はオーケストラと共演できるので、とても気持ちいい演奏ができそうです。しかも野外ですので、いつものコンサート会場とは響きも違ってくるかもしれないですよね。そういうことを感じられることも楽しみにしています。

--今回“スタクラフェス”に参加するにあたり、奏者/オーディエンスの立場を超えて、この野外フェスで楽しんでみたいことは何かありますか?

食べたり飲んだりしながら演奏を楽しめるというのはとてもユニークなので、私もそんな風に他の方の演奏を聴けたらいいなと思います。

--サラさんは、横浜にご縁があるとお聞きしているのですが、横浜の思い出やイメージを教えていただけますか。

「横浜」と聞いてイメージするのは港町ですね。私はオーストラリアのシドニーで育ちました。横浜とシドニーはとても似ていると思います。

--そうなのですね。どんなところが似ていると思いますか?

例えば、建物や赤レンガの雰囲気ですとか、街の広さとか、海が見えるとか……初めて横浜に行った時から何か懐かしい感じがしています。東京とはまた違って、ゆったり過ごせるという気もします。自分の育った所に似ていると感じているので、とても落ち着ける街だと感じています。

--“スタクラフェス”の会場付近でお勧めのスポットやお店などはありますか?

私は赤レンガ倉庫には結構行っています。その中で皆さんにお勧めしたいのが、オーストラリア料理の「bills​」というレストランです。パンケーキが有名なお店でとても美味しく、雰囲気がとても好きなんです。海を見ながら食べられるというのも魅力です。人気店なので、時間帯によっては行列が凄いですけれど、是非いろんな方々にオーストラリア料理を楽しむために足を運んでいただけたらと思います。

サラさんおススメのお店bills赤レンガ倉庫店

--サラさんも当日は沢山楽しめるといいですね。

普段と違う会場で演奏することで、私も、もちろん緊張感はあると思いますが、野外ステージの効果で、お客さまと一緒にリラックスして演奏できるのではないかとも思っていますので、本当に今からとても楽しみなんです。

【動画】サラ・オレイン “スタクラフェス”に向けてのコメント


取材・文=神道桜子  写真撮影=山本れお

「冨田勲 映像音楽の世界」コンサート~手塚アニメから特撮音楽、大河ドラマ主題曲まで by 高木大地(金属恵比須)

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「従来の演奏会ではステージでの上にピアノがあり、演奏者がヴァイオリンやチェロをかかえて出てくれば、もうそれでどのような音がでてくるのか楽器としての音色そのものは聴衆にわかってしまう。しかし、ステージの上にポンと置かれたシンセサイザーは、いったいどういう音ででてくるのか、とにかく始まってみなければわからない(後略)」
『惑星/冨田勲』(1976年)「制作メモ――冨田勲」より

シンセサイザーの“魔術師” 冨田勲(1932-2016)は、オーケストラの名曲をシンセサイザー(と若干のキーボード)のみでつくりあげ、次々とヒットさせていたころ、こう語っていた。当時、シンセサイザーはナイーヴな精密機械だったのでコンサートで使われることはまれ。にもかかわらず冨田は当時から未来を予測し、現在はシンセがステージ上にてなくてはならない存在となり、予測は的中することとなる。

かくいう筆者は、小学校のころに『惑星』を聞いてシンセサイザーの無限大の可能性に惹かれ、シンセの虜となった。現在もプログレッシヴ・ロック・バンド「金属恵比須」を率い――冨田の予想通り――ステージ上で惜しげもなくシンセを使い倒している。スペイシーな音は確実に影響を受けている。

シンセの“魔術師”のイメージの強い冨田だが、映像音楽(いわゆるサウンドトラック)の作曲家でもある。1958年、映画『地獄の午前二時』を手がけて以来、数えきれないほどの映画・テレビの音楽をつくってきた。

代表的なのは手塚治虫の『ジャングル大帝』。オープニングの歌のメロディで、獣の雄叫びを再現すべく、音楽の常識ではありえない1オクターヴ以上開きのある「音飛び」を使い、音楽に造詣のある手塚治虫にダメ出しされたという逸話がある(結局〆切の都合上、冨田のメロディが採用されることとなる)。

ほかにも、1963年、記念すべきNHK「大河ドラマ」第1回である『花の生涯』を手がけ、以降1983年の『徳川家康』まで計5回も担当している。どれも音数が少なく、象徴的な「音飛び」を多用した覚えやすいメロディなのが印象的だ。『徳川家康』にいたっては、フルオーケストラと合唱団(慶應義塾ワグネル・ソサィエティー)に加え、シンセサイザーやシーケンサー(自動演奏機器)もふんだんに使用し、その後のサウンドトラックの方向性に影響を与えたであろうエポックメイキングな作風となっており、個人的には最もイチオシの曲である。

そのように冨田が1960~1970年代に作曲した映像音楽ばかりを集めたコンサートが催されることとなった。スリーシェルズ企画コンサート「冨田勲 映像音楽の世界 SOUNDS OF TOMITA ~冨田勲メモリアルコンサート~特撮・アニメ・映画音楽特集~」である。

先に挙げた曲のほかにも、当時シンセサイザーの大胆起用で話題となった『ノストラダムスの大予言』(1974年)をフルオーケストラで演奏、円谷プロの特撮ドラマ『マイティジャック』(1968年)の映像付き演奏など、目玉はたくさん。

指揮は冨田が絶大な信頼を寄せていた藤岡幸夫。2012年度大河ドラマ『平清盛』の指揮を担当した人物である。プログレ・ファンであれば、吉松隆氏(『平清盛』作曲者)のアレンジによるエマーソン・レイク&パーマー「タルカス」のオーケストラ版を指揮した、と聞けばピンとくるだろうか。ちなみに、冨田も藤岡も吉松も慶應義塾大学出身で、綿々と連なる慶應の音楽歴史の系譜だというのも興味深い。

藤岡幸夫 (c)Shin Yamagishi

藤岡幸夫 (c)Shin Yamagishi

そして、このコンサートにおけるシンセサイザー担当は篠田元一。『キーボード・マガジン』(リットーミュージック)の連載で有名なシンセサイザー奏者の第1人者である。また、監修を映画監督・映画評論家の樋口尚文が務めるのも心強い。

樋口尚文

樋口尚文

冒頭の冨田の言葉では、オーケストラが出てきてもどんな音色が出されるかがわかってしまう、と述べていた。しかし、手塚治虫がメロディの奇抜さに驚かれたり、大河ドラマでシンセを使ってしまったりと、冨田の音楽はとにかくいい意味で裏切られることが多い。

よってこのコンサートは、ステージ上にフルオーケストラが登場しようが、合唱団が登場しようが、シンセサイザーを使おうが、まったく予想のつかない音が待っているに違いない。よく考えてみよう。シンセサイザーの原義[Synthesize]は、「音を合成する」という意味である。今回のステージに並べられている楽器すべての音がその場で合成され、「いったいどういう音ででてくるのか、とにかく始まってみなければわからない」状態になる、非常に興味深いコンサートになる事は間違いないだろう。

文=高木大地(金属恵比須)

反田恭平、全国ツアーの演奏プログラムをおさめた『悲愴/月光/熱情~リサイタル・ピース第2集』ミュージックビデオを公開

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ピアニスト・反田恭平が7月18日にリリースするCD『悲愴/月光/熱情~リサイタル・ピース第2集』からミュージックビデオが公開された。


『悲愴/月光/熱情~リサイタル・ピース第2集』は、反田が夏に開催する全国ツアー『2018リサイタル・ツアー』の演奏プログラムを収録した作品。公開されたMVでは、収録曲の「熱情」と「悲愴」の演奏が収められている。パッションあふれる「熱情」と抒情性をたたえた「悲愴」の対照的な2曲を、反田はツアーでどのように演奏するのか。

また、CD発売に先駆け、全国の対象店舗で先行試聴もスタートしている。

反田恭平

反田恭平

 

【来週の星占い-12星座別おすすめエンタメ情報-】(2018年6月25日~2018年7月1日)

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なんとなく壮大な夢を語りたくなる気分の人が多くなります。実際よりも盛った話が取り上げられやすくなるのかもしれません。誰かさんのエモい話、熱量や言葉遊びに酔ってしまうのもいいですが、リアクションしない人達の方が実は物事をよく見ています。共感や同調のし過ぎには注意したいとき。

月の前半に比べると、大きな動きが公になったり、気分の変化を実際の行動に移す人が多くなります。お互いの考え方や意見のすり合わせに、結構なパワーをもっていかれてしまうかも。なかなか着地しない状況があるかもしれません。お互いの「お気持ち」が大切にされる反面、いつまでたっても対立が収束しなさそうだったり、結論付けが先延ばしされたり、なかなかスッキリとはいかなさそう。

せっかく前もって準備を重ねて来た大きな晴れの舞台なのに、足並みの揃わなさ、向いてる方向がまとまっていない様子が他者からも見えやすく、結果的にこの企画や計画の目的はなんだったんだろうねぇ、という不完全燃焼な出来事も起こり得ます。誰かさんの意図や狙いがあまりにも利己的で、メリットがあるからと我慢してきた人たちでもついに匙を投げたくなったり、表向きには穏便でも裏側では決別が起きていたり、二面性や二極化の中、次の一手ではハッキリと物申す準備が行われる時期かもしれません。

イヤなものは嫌だと主張するために、状況やその後の展開を考えておくと周りからの影響に振り回されすぎないでいられます。ここから夏にかけては、言葉のやり取りよりも行動や事実に目を向けて行くと、思わぬダメージを回避することができそうです。

 

【12星座別 今週のラッキーワード】
・おひつじ座(3月21日~4月19日 生まれ)
新規作成、初体験
・おうし座(4月20日~5月20日 生まれ)
クラシック、オールドスクール
・ふたご座(5月21日~6月20日 生まれ)
カラフル、キラキラ
・かに座(6月21日~7月22日 生まれ)
直感、スピード
・しし座(7月23日~8月22日 生まれ)
スリリング、ギャンブル
・おとめ座(8月23日~9月22日 生まれ)
大舞台、オーバービュー
・てんびん座(9月23日~10月22日 生まれ)
情感豊か、コミュニケーション
・さそり座(10月23日~11月21日 生まれ)
現実的、ドライ
・いて座(11月22日~12月21日 生まれ)
未知の世界、イマジネーション
・やぎ座(12月22日~1月19日 生まれ)
デトックス、解放
・みずがめ座(1月20日~2月18日 生まれ)
美しいもの、インスタ映え
・うお座(2月19日~3月20日 生まれ)
こだわり、主義

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指揮者・佐渡裕が語る恩師バーンスタインと名作『ウエスト・サイド物語』の魅力

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20世紀を代表する作曲家・指揮者の一人であるレナード・バーンスタインの生誕100周年を記念し、2018年8月4、5日に東京・国際フォーラムにて『ウエスト・サイド物語 シネマティック・フルオーケストラ・コンサート』が開催される。これは、映画の全編映像に合わせ、フルオーケストラが生演奏するという奇跡の競演。すべての演奏者と映画の登場人物とが一体となる興奮のひととき、指揮を執るのはバーンスタイン最後の愛弟子、佐渡裕だ。

佐渡にとって『ウエスト・サイド物語』を全曲通して指揮するのは2012年の映画上映50周年記念コンサート以来。今回の公演について、バーンスタイン作品の魅力を恩師との思い出も交えながら、その心境を聞いた。

珠玉の名作「ウエスト・サイド物語」とは

ーーバーンスタインは「キャンディード」「オン・ザ・タウン」など数々の名作を生み出しましたが、何といっても『ウエスト・サイド物語』はずば抜けて多くの方に愛されてた作品だと思います。佐渡さんから見た『ウエスト・サイド物語』の魅力はどこにあると思いますか?

いろいろなジャンルの音楽が共存しているのがバーンスタインの音楽の特徴の一つ。ジャズ、ロック、ラテン音楽……様々な音楽がクラシック音楽と繋がっているんです。そういう点から見てもこの「ウエスト・サイド物語」は最も優れた音楽だと感じます。「キャンディード」や「オン・ザ・タウン」も非常におもしろい楽曲なのですが、「ウエスト・サイド物語」という作品はものすごく理論的に書かれているんです。どの曲もある一つのメロディ「ソ、ドー、ファ#」を用いて書かれているんです。一番平和なドとソの和音にいちばん対立するファ♯の音が加わることで、ちょっと不良な音の組み合わせが生まれる。人はこの不良な音に心惹かれるんですよ。

この作品のテーマは「平和」と「戦い」。人は皆平和を望んでいるはずですが、一方でいつまで経ってもどこかで誰かが争っています。1961年にこの作品が出来た時、人々はショックだったと思います。ミュージカルって最後は幸せに終わるものだと思っていたところに、最後に人が死んで終わるミュージカルを見せられたらね(笑)。

今見ても色褪せない音楽、振付、役者たち。それが柱となっていて、メロディやオーケストラの音楽が作られている。スタッフもキャストも才能に満ち溢れた人たちで作られたこの映画は、今でもすごい映画だなと思います。

誕生から50年経ってもいまだに人と人がなかなか手を繋ごうとせず、どこかで争っている世界の状況をみると、あえてこの作品を今、演奏する事はとても意義のある事だと感じますよ。

佐渡裕

佐渡裕

ーー2012年に初めて『ウエスト・サイド物語』を映像と合わせて全曲通して演奏されていますが、その時の感想を聴かせてください。

もう、大変だったんですよ。“職人技”を連発しないと出来なかった(笑)。映像作品ならともかく、目の前にいる70人くらいのオーケストラメンバーとライブで演奏するんですが、映画の映像を再生し、そこにライブの音楽を共存させるんですよ。すごくおもしろいんですが、演奏する方は本当に大変なんです。だって映画は止まらないし、冒頭のフィンガースナップしても合わせるのが本当に大変で。当たり前ですが、映像はオーケストラには一切合わせてくれないのでドキドキものでした。僕の前にはモニターがあり、その映像を見ながら指揮を振るんですが、映像そのものに合わせようとすると、生音が遅れてしまうので、ちょっと早めに振らないとシンクロしない。スローな曲もあればアップテンポの曲もある。それを100人近い人間で合わせにいくって本当に大変でした(笑)。

ーー全曲振ったことで改めて感じたことは?

全曲を通して眺めると、それぞれの楽曲や、その楽曲が置かれている順番、いろいろなドラマが一つのゴールに向けて動いていく凄みがあるんです。シャーク団とジェット団がこれから喧嘩しに行く、マリアはトニーの帰りを待っている、トニーは喧嘩をなんとかおさめてマリアに会いに行こうとする、そしてアニタも加わり「トゥナイト」(今夜)に向かって繋がっていく……これは圧巻ですよね。ある時間に向かってすべてが一斉に動いていくこの興奮はすごいですよ。全曲振るというのは大きな経験になりました。

ーー様々な色合いの楽曲がある「ウエスト・サイド物語」ですが、正直なところ佐渡さん的に振りづらい楽曲というのも存在するのでしょうか?

振りづらいというか、不思議と映像と音楽がしっくりこないと感じたのは「マリア」です。この楽曲は映画でマリアを演じたナタリー・ウッド本人ではなく、歌だけマーニー・ニクソンという歌手が吹き替えを担当したんです。そのせいか、映像を見ながら指揮をしていると「あ、これは違う人が歌っている」というちょっとした違いを感じましたね。

「マンボ」に関しては何度もやっているともっとアップテンポでやりたくなります(笑)。映画のは自分が振りたいテンポよりちょっと落ち着いたテンポなんですよ。

ーー指揮者だからこその感覚、興味深いですね。

佐渡裕

佐渡裕

恩師バーンスタインへの想い

ーー佐渡さんの師匠であるレナード・バーンスタインについても聞かせてください。「ウエスト・サイド物語」絡みで何か思い出す事はありますか?

レニー(バーンスタインの愛称)が70歳の誕生日を迎える年、僕は彼のアシスタントでした。その年の9月はウィーンにて演奏旅行をしていたんです。行く先々でレニーの誕生パーティーなど、地元の人たちが様々なイベントをしてくださったんですが、どこに行っても『ウエスト・サイド物語』が演奏されるので、レニーは正直怒っていたんです。「おれは『ウエスト・サイド物語』のバーンスタインと言われるのが嫌だ」って(笑)。それくらいこの作品は人気があって、指揮者であり作曲家である彼の枠を超えて、世界的に知れ渡った曲だったんです。レニーにとってはもう食傷気味だったと思いますが、やっぱり「ウエスト・サイド物語」はすごい作品でした。

ーーバーンスタイン作品に見える特徴、と言われるとどんな点を挙げますか?

いろいろな作品を振っていると「お気に入りの音程があるな」と感じますね。彼はド・ミとかミ・ソといった3度の音から一気に「レ」という高い7度の音を使うんです。彼にとって7度の跳躍は、何か心が解放されたり、安らぎを感じたりするんでしょうね。
明らかにショスタコーヴィチやプロコフィエフの影響を受けている楽曲、またベートーヴェンやマーラーの跡が見えている楽曲もあるのに、レニーがある音にほんの少し触れることでその楽曲は「LB」という彼の刻印が押されたものとなるんです。彼オリジナルの楽曲が生まれる瞬間ですよね。

ーーでは、彼の指揮についてはいかがですか?

アメリカ人指揮者特有の打点の高さを感じていますね。マイケル・ティルソン・トーマスもそうでしたが、打点が背骨3個分くらい高いとこにあるんです。それが年齢と共に重心が低くなり、低い位置で指揮を振るようになる。それはまさに大木のような安定感です。誰かの影響を受けている、と感じることはあまりないのですが、身体の全細胞が音楽に向かっている、そう感じさせるのがバーンスタインの指揮だと思います。

佐渡裕

佐渡裕

ーーバーンスタインは1990年に札幌でPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)を創設され、若手音楽家の育成する場を作ってくださいました。私も第1回目のオーディションを志した一人でしたので、その直後バーンスタインが亡くなったショックを今でも忘れることができません。

PMFの開会式の時の事です。直前にレニーの大親友である指揮者・渡邉暁雄先生が亡くなられた事を受け、「マエストロ渡邉が亡くなってすごくショックを受けている」とレニーは挨拶したんです。自身も70歳を越えていましたので、残された時間をどう使おうかと常々考えていたんでしょう。その時間の使い方の一つとして若手の教育に捧げた事がすごく印象的でした。ただ本人はまさか自分が72歳で亡くなるとは思ってもいなかったんでしょう。その前年にはカラヤンが亡くなりましたが、彼はレニーより10歳近く年上だったので、カラヤンの歳までは生きようと目標にしていたくらいですから。

ドクターストップがかかり、レニーが帰国する際、僕は成田空港まで見送りにいったんですが、その時に「Big Good-Bye」という言い方をしていました。ただの「Good-Bye」ではなく「こう言わないとならない時がついに来たんだよ」って自ら言っていましたね。

ーー今回の公演に向けてお客様に伝えたいことは?

映画を観て聴く音よりオーケストラが出す音のほうが圧倒的におもしろいと思いますよ。大編成で演奏しますから。また、ミュージカル版をご覧になった事がある人からすれば「この作品ってこんなにシンフォニックの音がするのか」と驚くと思います。ぜひ楽しみにしていてください。

佐渡裕

佐渡裕

取材・文・撮影=こむらさき


ヴァイオリニスト 宮本笑里がニューアルバムより「エルガー:愛のあいさつ」MVを公開

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2017年にデビュー10周年を迎え音楽表現に深まりを見せるヴァイオリニスト・宮本笑里が、7月25日(水)に発売するニューアルバム『classique』のジャケットとアルバム収録の「エルガー:愛のあいさつ」のミュージックビデオ(Short ver.)を公開した。この度発売となるアルバムは宮本にとって初の全曲クラシックのヴァイオリン名曲集となる。


宮本は2007年にアルバム『smile』でデビューし、クラシックからポピュラーまで多彩なジャンルを高いレベルで演奏できるヴァイオリストとして、これまでに7枚のオリジナルアルバムと2枚の企画アルバム、1枚のベスト盤をリリースしてきた。

今回のニューアルバムでは、宮本笑里の11年目を迎える音楽活動で初めて、自らの原点であるクラシックの世界に焦点を当て、自身の演奏会で必ず演奏する今や宮本笑里の代表曲になった「サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン」や、敬愛するフリッツ・クライスラーの諸作品を録音。初期のアルバムで収録した「エルガー:愛のあいさつ」、「ラフマニノフ:ヴォカリーズ」、「バッハ:主よ、人の望みの喜びよ」を、この10年で深まった表現力で再録音している。アルバムタイトルである『classique』(クラシーク)は、自らのバックボーンである音楽世界を端的に表している。

共演者には、宮本と同世代でソロに室内楽に活躍する気鋭のピアニスト 佐藤卓史を、レコーディング・エンジニアには日本プロ音楽録音賞最優秀賞に数度輝く鈴木浩二を迎えて、音質・音像に関しても極限まで追求し、24Bit/96kHzのハイレゾ配信、Mastered for iTunesに加えて、DSD11.2、5.6、2.8配信もCD発売日同日から開始する予定だ。

『classique』通常盤ジャケット

『classique』通常盤ジャケット

『classique』初回盤ジャケット

『classique』初回盤ジャケット

初回生産限定盤に付属のDVDには、昨年の10周年記念コンサートで共演したMay J.、沖仁との共演楽曲を収録しており、一夜限りのプレミアムなコンサートの盛り上がりを追体験できる。

宮本笑里は今作のジャケットとMVに関して「今回は初回生産限定盤、通常盤と対照的に撮っていただき、どちらもタイトルの『classique』という言葉にぴったりなジャケット写真となりました。お好みの方、もしくは、どちらも手にとっていただけましたら尚嬉しいです! ブックレットの中の写真も、一枚一枚素敵な瞬間をたくさん捉えて下さっています。ミュージックビデオでは愛溢れるメロディ、エルガー作曲の「愛のあいさつ」を演奏しており、聴いて下さる皆様が優しい気持ちになっていただける時間となりますように……」と思いを述べている。

宮本は8月後半に東名阪を巡る『classique』アルバムリリースツアーを控えている。

小倉智昭が、佐渡裕・指揮『ウエスト・サイド物語』の魅力を熱く語った動画コメント到着! 「本当に好きなの!!」

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バーンスタインの生誕100周年を記念して佐渡裕・指揮で、2018年8月4、5日に東京・国際フォーラムにて『ウエスト・サイド物語』シネマティック・フルオーケストラ・コンサートが行われる。本公演に寄せて、小倉智昭から動画コメントが到着した。

本公演は、舞台上の大スクリーンで映画全編を上映し、目の前でフルオーケストラの生演奏を合わせるシンクロライブの形式で、上演・演奏を行う。とりわけ、劇中で歌われる「トゥナイト」、「マリア」、「サムホエア」、「アメリカ」、「マンボ」、「クール」、「ワンハンド・ワンハート」、「クインテッド」など数々の名曲は、20世紀を代表する音楽家レナード・バーンスタインにより作られ、1962年アカデミー賞でミュージカル映画音楽賞はじめ、10部門を受賞した。現在のミュージカル映画にも大きな影響を与えた作品といわれている。
そして、本作の音楽を作り上げたレナード・バーンスタインは、2018年8月25日で、生誕100周年を迎える。20世紀を代表する巨匠のヘルベルト・フォン・カラヤンとともに名指揮者としての人気を博しながら、指揮以外にも、ピアニスト、コンポーザーと多方面にわたって活躍し、いまだに多くのファンに愛され続ける音楽家レナード・バーンスタイン。その生誕100年にあたり、彼の魅力を改めて触れる絶好の機会であり、そのハイライトともいえる本公演に期待したい。

小倉智昭 コメント

世界が熱狂した21世紀型バレエ『不思議の国のアリス』、11月に新国立劇場バレエ団により上演

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そのバレエ作品を知ってしまったならば、バレエ観というものが根底から覆されるに違いない。バレエの初心者ならば「バレエとは、こんなにもポップでユーモラスなものだったのか」と、その魅力に忽ち吸い寄せられてしまうだろう。それどころかバレエ通さえも「こんなにも豊かで楽しいバレエが可能だったのか」と、驚愕することしきり。ーーそれがバレエ「不思議の国のアリス」(Alice's Adventures in Wonderland)なのである。

Alice's Adventures in Wonderland. Artists of The Royal Ballet (c)ROH, 2013. Photographed by Johan Persson

Alice's Adventures in Wonderland. Artists of The Royal Ballet (c)ROH, 2013. Photographed by Johan Persson

それは、バレエの伝統をしっかりと踏まえながらも、もはやバレエを超えた極上のエンターテインメントの域に達している。鮮烈な色彩感と共に、楽しすぎる美術や衣裳などの視覚的要素だけでも眼球を悦楽に浸らせるのに充分だ。一方、音楽(ジョビー・タルボット作曲)もまた美しく深く、聴く者の心の琴線を震わせてやまない。そのうえ、過去の色々なバレエ作品のパロディがオマージュ的に散りばめられ、バレエ愛に満ち溢れている。舞踊、音楽、美術、演劇、文学、映像、舞台テクノロジーなどすべての芸術的な表現要素が最新進化形で有機的な結合を果たしている本作こそ、21世紀の大英帝国が生み出した舞台芸術の魔法と呼んでも差し支えないだろう。

Alice's Adventures in Wonderland. Sarah Lamb as Alice (c)ROH, 2011. Photographed by Johan Persson

Alice's Adventures in Wonderland. Sarah Lamb as Alice (c)ROH, 2011. Photographed by Johan Persson

原作は、言うまでもなくルイス・キャロルの著した同名小説である。英国人数学者チャールズ・ドジソンが前述のペンネームで1865年に発表した、世界ナンセンス文学史上の金字塔だ。この狂気の漂うファンタジーの物語の骨格はそのままに、現実と夢そして時空を超えた新たな恋物語として台本を再構築したのが、英国人劇作家のニコラス・ライトである。そして、その世界を舞踊的身体表現によって巧みに現前化してみせた天才振付家こそ、クリストファー・ウィールドンだった。しかも彼はこの作品において、バレエをベースとしつつも、コンテンポラリーダンスやタップダンス、さらにはパペットやプロジェクションマッピングなどの要素も取り入れて、徹底的に現代的なエンターテインメントに仕上げてみせたのだ。

Alice's Adventures in Wonderland. Artists of The Royal Ballet  (C)ROH, 2011. Photographed by Johan Persson

Alice's Adventures in Wonderland. Artists of The Royal Ballet (C)ROH, 2011. Photographed by Johan Persson

現在、バレエ振付の世界でトップクラスに躍り出ているといって過言ではないウィールドンは、1973年生まれ現在44歳の英国人コレオグラファーである。当初はバレエダンサーとして英国ロイヤル・バレエ団そしてニューヨーク・シティ・バレエに属した。やがて振付を手がけるようになり、2007年に自身のバレエ・カンパニー「モルフォーセス」を設立、数々の意欲作を発表して頭角を現した。世界の名だたるバレエ団から新作の振付を委嘱されるようになるが、出身母体である英国ロイヤル・バレエでは2011年にバレエ『不思議の国のアリス』、2014年にバレエ『冬物語』、2018年に『コリュバンテスの遊戯』を発表した。さらに、2019年には新作『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー』を発表予定である(これらいずれも英国ロイヤルオペラハウスのシネマシーズンにおいて映画館での鑑賞を可能たらしめた)。

一方で、ウィールドンはミュージカルの分野にも進出、2014年にガーシュインのミュージカル『パリのアメリカ人』を演出&振付、パリで初演後、2015年ブロードウェイに進出、トニー賞ミュージカル部門で最優秀振付賞を受賞した。同作品ではバレエ『不思議の国のアリス』のスタッフでもあったナターシャ・カッツ、クリストファー・オースティン、ボブ・クロウリーもそれぞれトニー賞の最優秀照明賞、最優秀編曲賞、最優秀舞台美術賞を受賞している。なお、このプロダクションによる『パリのアメリカ人』は2019年1月より劇団四季が上演する予定である。

Christopher Wheeldon OBE

Christopher Wheeldon OBE

話を本題に戻す。『不思議の国のアリス』は、2011年に英国ロイヤル・バレエによって世界初演され一大旋風を巻き起こした。当初2幕(現在、DVDやブルーレイで購入できるヴァージョン)だった作品は、2012年までにアリスとハートのジャックのパドゥドゥーが追加されて現在の3幕に改訂された。2013年には来日公演がおこなわれたが、「凄い!」との噂が忽ち広まりチケットが全日完売、追加公演が打たれたほどだった。そして、昨年(2017年)12月には英国ロイヤルオペラハウス・シネマシーズンで上映されるや日本橋TOHOシネマズのチケットが連日完売、ついには今年(2018年)1月にアンコール上映がなされたことは記憶に新しいところである。

Alice in Wonderland. Lauren Cuthbertson as Alice  (C)ROH, 2011. Photographed by Johan Persson

Alice in Wonderland. Lauren Cuthbertson as Alice (C)ROH, 2011. Photographed by Johan Persson

その尋常ならぬ人気の舞台作品が満を持して、いよいよ今年(2018年)11月、初めて日本のバレエ団によって上演される。同作品は、これまで世界有数のカンパニー6団体がレパートリー化してきたが、日本で唯一上演を許可されたのが新国立劇場バレエ団だった。今回、すでにこの作品の上演経験を持つオーストラリア・バレエとの共同制作という形で上演を実現させるが、同バレエ団と共同制作する日本のバレエ団というのも新国立劇場バレエ団が初なのだという。

それにしても、英国的な鋭利かつユーモラスな感性に満ち溢れた舞台芸術の魔法の世界を、日本のバレエ団がどこまで表現することができるのか興味深いところだ。振付のウィールドンは日本のダンサーについて、基礎がしっかりできている点、テクニックも見事である点、練習熱心である点において何の心配も要らないと述べている。この作品独特のユーモアや演劇性についても稽古で克服できるだろうと楽観視しつつ、そのうえで「日本の『アリス』をやってほしい」という願望があるようだ。その意味では日本独自の『不思議の国のアリス』を観ることのできる貴重なチャンスといえるかもしれない。劇場機構も万全で音響もいい。ここで観ない理由が見つからない。

メインキャストであるアリス役には、米沢 唯/小野絢子(Wキャスト)、ハートのジャック役には渡邊峻郁/福岡雄大(Wキャスト)がすでに発表されている。できれば両キャストを見比べてみたいものだ。また、今後発表されてゆくであろうハートの女王やマッドハッターをはじめとする他のユニークな役柄を誰が演じることになるのかも興味津々だ。また、東京フィルハーモニー交響楽団が生演奏するオケピ(オーケストラピット)にも注目だ。この音楽ではハンパではない数の打楽器が使われるので、その光景もまた滅多に見れるものではないのだ。

米沢 唯/小野絢子/渡邊峻郁/福岡雄大

米沢 唯/小野絢子/渡邊峻郁/福岡雄大

チケットの一般発売は2018年7月7日(土)10:00から開始だが、それに先駆け6月26日(火)12:00~7月6日(金)18:00にイープラスで座席選択先行受付が行われる<e+リザーブシート>のみ6月26日10時から先行受付)。きわめて注目度の高い公演だけに、チケット確保はできるだけ急いだほうがよいだろう。

サラ・オレイン、舞台『銀河英雄伝説 Die Neue These』など【6/22(金)〜25(月)のオススメ舞台・クラシック記事】

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▼指揮者・佐渡裕が語る恩師バーンスタインと名作『ウエスト・サイド物語』の魅力
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▼中村橋之助×市川ぼたん『第二回 日本舞踊 未来座 裁-SAI- 「カルメン2018」』開幕へ
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▽そのほかの記事はこちらから▽
舞台:http://spice.eplus.jp/articles/play
クラシック:https://spice.eplus.jp/articles/classic

日本を代表するメゾソプラノ歌手 福原寿美枝に聞く

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オペラの世界に留まらず、宗教曲や歌付きのオーケストラ演奏の分野でも大活躍のメゾソプラノ歌手 福原寿美枝。出演予定だった関西二期会の第89回オペラ公演「カヴァレリア・ルスティカーナ」は、先の大阪で起こった地震の影響で中止となったが、今後、大阪交響楽団の定期演奏会では月を変えて「アルト・ラプソディ」とマーラー交響曲第3番に出演予定の他、マーラー交響曲第8番「千人の交響曲」やヴェルディ「レクイエム」などの大曲への出演が控えている。

彼女のこれまでの人生における音楽との関わりや、人との出会いなどを聞いてみた。

飾ることのない気さくな人柄も人気の秘密 (c) isojima

飾ることのない気さくな人柄も人気の秘密 (c) isojima

ーー オペラに宗教曲にと大変なご活躍ですね。ちょっと意外だったのですが、歌を本格的に始められたのは随分遅かったとか。

小さいころからピアノをやっていましたが、嫌で嫌で仕方がなかった(笑)。コツコツやる事は好きなのですが、ピアノは性に合わなかったみたいです。高校は、公立の普通科に入りましたが、進路はどうしますか?と入学してすぐに迫られました。音楽は好きだったので、音楽から離れる発想はなかったのですが、ピアノで進んで行くのはとても無理な事は分っていました。それなら大好きな歌をやりたいと思い、音大受験を決めました。ずっとピアノをやる傍ら、京都市少年合唱団に入っていたこともあり、歌は大好きでした。当時、京都市交響楽団が毎年ニューイヤーコンサートでショスタコーヴィチの「森の歌」をやっていて、オーケストラと一緒に歌えることに喜びを感じていました。音大に入ってからも、オペラは敬遠し、宗教曲ばかり聞いていました。どうも人前で演技をするのが恥ずかしかったのです。

ーー 福原さんの現在の活動を考えると、なんだか不思議な話ですね。大学院まで進まれて、オペラでやって行こうとは思われなかったのですか?

大学院を出てから、子供にピアノを教えたりしていました。子供相手のピアノの先生に何の違和感もありませんでしたが、やはりもう少し歌を続けたいと思い、神戸市混声合唱団を受けたのが27歳の時です。たまたま合格しましたが、ソロを歌いたいとは思ったことはあまり無かったですね。しかし、師匠の三井ツヤ子先生からは、合唱曲だけでなく、オペラも宗教曲も色々なものを全部均等に知っておくべきと、ずっと言われて来ていたことも有り、オペラから離れていてはいけないと思うようになりました。意を決して「カルメン」のオーディションを受けたのが34歳か35歳になった年。賛否両論評価は分かれたようですが、演出の中村敬一さんが「僕が何とかするから!」と推してくださってカルメン役を射止めました。下積みもせず、何も知らないのにいきなりの主役抜擢!当たり前ですが、これには周囲の批判も大きかったですし、辛い思いも沢山しました。最終的に少しは化けられたので、何とか事なきを得た感じでした。

そこからですね、少しだけ意欲や勇気が出てきたのは。そのタイミングで、日本音楽コンクールも受験しました。師匠に背中を押され、ホント行動が遅いですね(笑)。こちらも年齢制限ギリギリの35歳です。結果は入賞に留まりましたが、良い経験になりました。それまでの人生になかった、いつまでに何かをなさねばならない!といった時間制限的な感覚を意識するようになったのは、後々の事を考えると大きかったですね。その後も劇的に何かが変わった訳ではありませんが、ポツンポツンと大きなイベントが起こります。

堺シティオペラ第30回定期演奏会「カルメン」カルメン(H27年9月5日) 写真提供:堺シティオペラ

堺シティオペラ第30回定期演奏会「カルメン」カルメン(H27年9月5日) 写真提供:堺シティオペラ

ーー 関西二期会 創立40周年の「ばらの騎士」でオクタヴィアンに抜擢されたのですね。

はい。その事がきっかけで関西二期会に入団することになります。この時は、徹底的に指揮者の大勝秀也さんにしごかれまして、自分自身かなり追い詰められましたね。円形脱毛症になるほど…(笑)。最後はお客さまにも喜んで頂けたようですし、大勝マエストロとはその後ワーグナー「タンホイザー」などでもご一緒させて頂いたり、なんとか責任は果たせたのかなぁと。

井上道義氏指揮ベートーヴェンの「荘厳ミサ」のソリストを、急きょ代役として当日ゲネプロ〜本番で歌ったことも有りましたね。合唱で参加予定だったので、緊張を通り越し、責任を果たす事に必死でした。お客さまの温かい拍手が本当に嬉しかった事を覚えています。この事がきっかけで、井上道義マエストロとその後も共演させていただくご縁を頂きました。

ーー 大きな試練を与えられても、確実に結果を残して来られた。才能がお有りなだけでなく、確実に結果を出し続けてけてこられた事に、強い意志と凄まじい集中力を感じます。

実は、大学院の時に師匠の三井先生に「あなたの歌は人を幸せにする」と言っていただいたことが有りました。そう言われても、にわかに信じられないですよね。自分に自信が持てなかったからでしょうか。そんなことで、歌から離れていた時期が有りました。しかし、結果的には現在まで歌を続けている。やはり運命的なモノを感じますね。演奏会で温かな声援を頂くと、素直に先生の言葉を信じていいのかなと、ようやく最近になって思えるようになりました。

関西二期会第85回オペラ公演「修道女アンジェリカ」侯爵夫人(H28年6月26日) 写真提供:関西二期会

関西二期会第85回オペラ公演「修道女アンジェリカ」侯爵夫人(H28年6月26日) 写真提供:関西二期会

ーー お話を聞いていると、やはり人との出会いに恵まれておられますね。成功する人は、人との出会いがポイントになるように思います。

オペラと私を深く結びつけてくださった恩人に、演出家の岩田達宗さんがおられます。尾崎比佐子さんプロデュースオペラで、ロメーオをさせて頂いた時に、岩田さんが「あんた、なかなかやるやん!」と言って下さったのが、オペラを続けて行こうと私に決意させました。それからも岩田さんにはしごかれましたし(笑)、大変影響を受けました。本当に感謝しかありません。

指揮者にも恵まれたと思います。指揮者は、歌い手の都合など気にせず要求して来ます。「ここはスコアに書いてある通りフォルテでください。」と言われれば、何とかして出そうとする。声楽家同志だと、分かり合えるだけに、都合のいいように言い訳する。アシュケナージ氏、ヴィンシャーマン氏、ボッセ氏、井上道義氏、川瀬賢太郎氏…。いろいろなマエストロとご一緒するたびに、自分の発声と向き合い、勉強するようになった事は大きいですね。

ーー このところ、人気の若きマエストロ川瀬賢太郎さんとの共演が多いですね。先日川瀬さんとお話をした際、福原さんの事を「言いたいことを言いあえて楽しいし、色んな事をもたらしてくれる人。本番前に何者かが憑依させているのではと思うほど、入り込み方が凄い。確実に楽譜以上の何かを発見させてくれる素晴らしいアーチスト」と絶賛されていました。

えー、そんなことをマエストロが…(笑)ありがとうございます。きっかけは名古屋フィルの定期演奏会でやったバーンスタインの交響曲第1番「エレミア」ですね。川瀬さんが誰か良いアルト歌手はいないか、名フィルのメンバーに尋ねられたところ、多くのメンバーが私の名前を挙げて頂いたようです。少し前に共演させていただいたマーラーの交響曲第3番の印象で…。ありがたいことです。私は音楽的な事に関しては、やりたいことを主張するタイプです。それは自己紹介みたいなものだと思っています。挨拶なんかは不器用でちゃんと出来ないのに、音楽となると、私はこうしたいのですが!って(笑)

川瀬さんとは音楽的な嗜好性が似ているのでしょうね。私の音楽を尊重し、上手く導いてくださいます。やりたいことをさっと理解し、それに合うオーケストラの色を作って下さいます。ずっと年下ですが、とても頼りにしているマエストロです。

バーンスタイン交響曲第1番「エレミア」神奈川フィル定期演奏会みなとみらいシリーズ(H30 4月7日) (C)藤本史昭 

バーンスタイン交響曲第1番「エレミア」神奈川フィル定期演奏会みなとみらいシリーズ(H30 4月7日) (C)藤本史昭 

ーー 現在、武庫川女子大学と京都市芸術大学で教えておられます。第一線の演奏家としての顔と、後進を指導する教育者としての顔の両面をお持ちですが、両者は相容れるものでしょうか。

やはり自分の師匠 三井ツヤ子先生との関係を考えると、自分もそういう存在にならなければと思います。歌も教えるけれど、人間としてこうあるべきだ!と云うこともしっかりと伝えていきたい。社会で生きていくとはどういうことなのか。音楽がすべてではありません。演奏家として生きていく道もあれば、全く違う選択肢もあります。三井先生のように、そういった事をちゃんと伝えていける指導者になりたいですね。

それと、舞台で歌っている姿を学生に見せることは、大学の研究室で教えること以上に効果的に働く部分も大変大きいです。学生の心が動いているのを感じます。

関西二期会第81回オペラ公演「ドン・カルロ」エーボリ公女(H26年10月25日) 写真提供:関西二期会

関西二期会第81回オペラ公演「ドン・カルロ」エーボリ公女(H26年10月25日) 写真提供:関西二期会

ーー 福原さん自身、随分と遅咲きだったという事でしたが、技術的には年齢を重ねてこられて現在どう感じておられますか。

確かに高いキーはきつくなっている部分もありますが、身体が鳴るように成って来ていて、発声的には楽になりました。あるホールの音声さんから「福原さんは歳を追うごとに良い声になっていくね!」と言って頂きました。専門の方の声として、素直に嬉しいです。

スタートが遅かっただけに意思が固まって以降、無駄な時間はありませんでした。今となっては、あんな役もやりたい!こんな曲も歌いたい!といった欲求は正直言ってありません。オファーを頂いたお仕事を確実にこなしていきたいと頑張って来ました。しかし、大学との両立は本当に難しく、悩ましいですね。

ーー 今後の予定はどうなっていますか?

大阪交響楽団の定期演奏会に2度出演します。まずは9月に延原武春氏の指揮でブラームスの「アルト・ラプソディ」を。そして来年1月には、寺岡清高氏の指揮でマーラーの交響曲第3番を歌わせていただきます。

その他では、10月に井上道義氏指揮、読売日本交響楽団と小泉和裕氏指揮、名古屋フィル、そして京都でもマーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」を続けて歌います。同じ月に大曲「千人の交響曲」を連続して歌うのも珍しいですね。大友直人氏指揮、東京交響楽団でヴェルディ「レクイエム」も10月です。

ーー では最後に、読者の皆さまにメッセージをお願いします。

私は遅いながらも、人生にとって欠かせないものを見つけられた事は本当に幸せだと感じています。私を根気よく見捨てずに育てて下さった方々の愛情に、あらためて感謝申し上げます。これからは戴いた愛情へのお返しをする番だと思っております。どうぞこれからも未来の才能豊かな人達に、温かい応援をお願い申し上げます。

取材・文=磯島浩彰

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